【今週末はどこに行こう?】今週末行きたい 展覧会・イベント

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メアリー・カサット展 @横浜美術館

2016年07月10日 | アート・ひとこと感想


「アーティストである喜びと比べられるものが、いったいあるというのかしら?」

とても力強く、印象的なこの言葉。印象派の女性画家、メアリー・カサットの晩年の言葉です。

 

横浜美術館で開催中の「メアリー・カサット展」
こちらの特別鑑賞会に参加させていただきました。(※ 会場内の画像は主催者の許可を得て撮影したものです。)

(「メアリー・カサット展」展覧会チラシ)

”明るい色彩の母子像”と”「あふれる愛と エレガンス。」というキャッチコピー”から連想させる雰囲気とは異なり、実際はとてもアグレッシブで自立した女性だったそうです!

(若き日のメアリー・カサット)

 

1844年にアメリカの裕福な家庭に生まれますが、親は娘が画家になることに大反対!(「娘が画家になる姿をみるくらいなら、死んだ姿をみる方がマシだ!」とまで言われたとか…)
そこで自力でヨーロッパで絵画の仕事をとって自立し、白内障を発症する晩年まで画家を続け、その後も美術コレクションのアドバイザーとしてアメリカにヨーロッパの絵画を紹介することに貢献したそうです。(メトロポリタン美術館の所蔵作品の一部も、カサットの助言によってアメリカにもたらされたものなのだというから驚きです。)

”母子像の画家”と呼ばれながらも、生涯独身で子どももいなかった…というのも意外です。

 

そんなエピソードを聞いて作品を見てみると、初期の作品は非常にチャレンジングな作品に見えてきます。

例えば、「バルコニーにて」は、挑戦的にわざとモデルに難しいポーズをとらせて描いたもので、モデルから「あなたのモデルになるのは身がもたない!」と言われたとか。

「バルコニーにて」/ メアリー・カサット/ 1873年 /フィラデルフィア美術館蔵
女性を「美しく描く」という意図とは少し違って感じられます。)

日本初公開作品として注目の「桟敷席にて」という作品も印象的です。当時、社交場でもある劇場では女性は華やかな胸のあいたドレスを着るのが”普通”だったのに対し、男性の視線には目もくれず、黒い昼用の外出着を着てオペラグラスで真剣に鑑賞する女性の横顔が凛々しく描かれています。

左:「扇を持つ夫人(アン・シャーロット・ガイヤール)」/ メアリー・カサット / 1880年 / 個人蔵
右:「桟敷席にて」 / メアリー・カサット / 1878年 / ボストン美術館蔵
当時、社交場への外出は左の作品の女性のような格好が一般的だったそうです。)

ドガの描いた踊り子の絵もすぐ近くに展示されているのですが、こちらの作品と比較してみると、当時「観られる」対象だった女性を、意志を持って「観る」対象として描いているのが当時とてもチャレンジングだったんじゃないかと思えてきます。

(「踊りの稽古場にて」 / エドガー・ドガ / 1884年頃 / ポーラ美術館蔵
「踊りの稽古場にて」 / エドガー・ドガ / 1895-98年頃 / 石橋財団ブリジストン美術館蔵
ドガのパステル画もまた魅力的ですが…)

「ルーヴル美術館考古展示室にて、メアリー・カサット」/ エドガー・ドガ / 1879-80年 / 横浜美術館蔵
ドガがカサットをモデルに制作した版画なんていうものもありました。)

さて、そのドガの「何気ない風景」を描いた作品に共感したカサットは、ドガの誘いを受け、印象派として新しい作品を生み出していきます。

(会場にはモリゾら、印象派の女性作家の作品も並びます。)

とりわけ「母子像」の作品を多く描きますが… 展覧会を一周すると、大きな違和感を感じました。なぜ子どものいなかったカサットが、そんなに母子像を多く描いたのでしょう?

当時男性ばかりの仕事(画家)で、女性らしいモチーフで差別化しようとしたとか…?
それとも、”女性が描く母子像”に需要が多かったとか…?

そんなことを考えながらもう一周してみると、カサットの作品に登場する女性は、”美しく着飾った女性”ではなく "真剣に仕事(作業)をする女性”や”知的な雰囲気の女性”が多いように思えてきます。

「アレクサンダー・J・カサット」 / メアリー・カサット / 1880年頃 /デトロイト美術館蔵
「庭に座るシュザン」 / メアリー・カサット / 1881年頃 / 個人蔵
「タペストリー・フレームに向かうリディア」 / 1881年頃 / フリント・インスティテュート・オブ・アーツ蔵
カサットが家族を描いた肖像画。思慮深そうな母に、お姉さんも手芸の作業に没頭しています。この家族の肖像画が集結したのは今回の展覧会が初なのだそうで、こちらも見どころの一つです!)

 

また、様々な母子像には、偶像的な”理想の母子像”とは違ったリアルさが細部に現れているようにも感じられました。

(会場内には様々な母子像の作品が並びます。母親の表情や視線、手の力の入り方…そんなところにリアルさが感じられました。)

ひょっとしたらカサットは、理想的な母子のイメージではなくて、"働く女性"の一人としての母親の像を、敬意を持って描いていたのかもしれないと思いました。

(今回のメインビジュアルのひとつ「眠たい子どもを沐浴させる母親」(メアリー・カサット / 1880年 / ロサンゼルス郡立美術館蔵。よく見ると、焦点はスポンジをしぼる右手の方にハッキリとあっているんですね。)

 

ただ、個人的にはこの明るすぎる油彩やパステル画は少し苦手でした… 一方、シンプルな線と色で描かれた版画の作品は、その線の美しさや、モデルの女性の人格が見えてくるようで、魅力的でした。

(カサットの版画は、これまであまり注目されてこなかったそうですが、今回は多数展示されています。ドガが「女がこんなに上手に線をひけるのは許せない」と言ったというエピソードも印象的。) 

ちなみに、これらの版画は喜多川歌麿らの浮世絵に影響を受けているのだそうです。

(ユーモラスな母子の描き方です。カサットの母子像の描き方にも反映されていたりするのかもしれません。)

 

はじめに紹介した、「アーティストである喜びと比べられるものが、いったいあるというのかしら?」という言葉、そして、会場内に書かれた「私は自立している。ひとりで生きていくことができ、仕事を愛しているから。」という言葉…

現代よりもきっとずっと女性が画家として活躍するのが難しかった100年以上前に、こんな風に美術の世界に行きた女性がいたということは驚きでもあり、現代の女性にエールを送られているような気分にもなる展覧会でした。

メアリーカサット展は9月11日(日)までです。

 

*********************

■DATA■

メアリー・カサット展

会場:横浜美術館
会期:2016年6月25日(土)~9月11日(日)
時間:10:00~18:00(入館は17:30まで)
※2016年9月2日(金)は20:30まで(入館は20:00まで)
休館日:木曜日
※ただし2016年8月11日(木・祝)は開館


印象派を代表する米国人女性画家、メアリー・カサット(1844-1926)の回顧展を35年ぶりに日本で開催いたします。古典絵画の研究から出発し、新しい絵画表現を模索するなかでエドガー・ドガと出会い、印象派展に参加するようになります。 

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7 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (コロコロ)
2016-07-21 06:17:55
安心された感覚、私も同じでした(笑)
安心したらまた、新たな発見が・・・・・ 

子供を持つ母の手の角度が不自然だったり、妙に変な力が入っていたり。子供を抱えr位置がおかしくない?という構図があったり・・・子供が裸体で描かれていると指摘された論文がありましたが、その体に手が食い込んでるように描かれている絵があったり・・・・ということで、さらに見方がひろがりました(笑)

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またこちらにも、覗きに立ち寄らせていただきます。
返信する
>コロコロさん (PLAstica.)
2016-07-19 23:02:23
お返事遅くなってしまいスミマセン>_<
ブログ拝見しました!(食べログで展覧会の感想も書けるんですね!初めて知りました(*_*) コメント書こうと思ったのですが、どこから書いていいかわからず、こちらへの返信になってしまってすみません…)
ものすごく調べられていて読み応えがありました!
女性が描く母子像="愛情に溢れた"とか"母性" 、という表現に違和感を感じてしまうのは自分だけじゃなかったんだなぁと、少し安心しました(^^;
コロコロさんの書かれていた「描くことは、仕事として、割り切っていた」っていう表現が、腑に落ちる感じがしました。
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Unknown (コロコロ)
2016-07-17 00:23:15
「リアル」という言葉は、私にとっては、ドンピシャでした。何と言えばいいかうまい言葉がなかったのですが、これだ! みたいに・・・・(笑)
私の感じた「リアル」はこんな感じでした。
http://tabelog.com/rvwr/000183099/diarydtl/141998/
私も子供がいないから、受け止め方が違うのかなぁ・・・なんて思っていました。
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>コロコロさん (PLAstica.)
2016-07-16 08:18:45
はじめまして、コメントありがとうございます。
やっぱり、なぜ母子像が多かったのかって気になりますよね。第3章の作品を何度も行ったり来たりして考えてしまいました。
リアルという言葉が適切か分からないのですが^_^; (そして、自分も子供はいないのでイメージになってしまうのですが…)”偶像的”な母子像とは少し違った印象を受けました。

初期の作品、本当にチャレンジングですよね。印象派になってからの印象が違いすぎて、少し残念な気すらしました。
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Unknown (コロコロ)
2016-07-15 11:17:09
はじめまして
私も、「なぜ子どものいないカサットが、母子像をテーマにしたのか。そしてその愛情を描くことができたのか」が気になりました。

「”理想の母子像”とは違ったリアルさ」が見え隠れしているという言葉に納得させられました。ただの愛情あふれる母子像ではないですよね。

ただ、「リアルさ」の受け止め方が、違っていたので、面白いと思いました。

初期の作品の《バルコニー》のチャレンジング。本当、チャレンジャーだなと思いました。
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>浅野さん (PLAstica.)
2016-07-13 18:22:42
読者登録&コメントいただきましてありがとうございます^^
ブログ拝見させていただきました。浅野さんも様々な展覧会にいかれているんですね!
私もあまり関西方面には多くいけないので、関東で開催されない展覧会のレポートを読ませていただくのも楽しみです。
ダリ展は秋には都内に巡回するようなので、(そして、ダリの作品も大好きなので!)ぜひ行ってみたいと思います。ありがとうございます!
返信する
読者登録して頂き有難うございます。 (浅野雅之)
2016-07-12 22:49:28
初めまして。PLAsticaさん。
僕も美術展などを見るのが好きなので、何気なくgooの
サイトで紹介されていたので、見させてもらって、まだブログの一部しか見てませんが、アートが好きな様子が伝わってくるようでした。
こちらは関西・京都の田舎に在住なので東京方面の
アート展などは簡単には行けませんが、またブログでの
リポートの情報だけでも有り難いです。ちなみに、このメアリー・カサット展は秋に京都でもあるようなので機会があれば観に行こうかと思います。

ちなみにこちら京都ではダリ展が行われていて早速見てきました。大変良かったので東京でも開催されたらお勧めしたいです。
それでは長々と、失礼しました。
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