
水戸芸術館 現代アートギャラリーで開催中の
石川直樹 この星の光の地図を写す
にいってきました。
各地を旅して写真を撮影する、石川直樹さんの初の大規模個展となるそうです。
これまでの石川さんのプロジェクトを一挙に振り返るような展示になっていますが、そのプロジェクトひとつひとつのスケールの大きさに驚きます!例えば、北極点から南極点までをスキー・自転車・カヤック・徒歩などの人力で踏破する『Pole to Pole』から、そのまま南極に残って南極大陸最高峰のヴィンソン・マシフに登頂したり。23歳のときには七大陸最高峰登頂世界最年少記録を更新したりもされています。
(ハンドアウトも、石川さんの足跡がわかるような地図になっています。
歪みの少ない表記方法の”オーサグラフ”の地図なので、見慣れた世界地図で思い描いていた距離や面積と少しイメージが違ってきます。)
それほど壮大なプロジェクトでありながら、その写真からは苦労ではなく、ただ淡々と美しい自然やその土地の人々の様子が映し出されています。例えば、登頂の難しさでは世界最高峰のエベレストを上回るとも言われる『K2』への登頂の写真に映し出されているのは、雪の中から岩石がのぞく広大な土地、真っ白な雪に埋もれた美しい山並みなど、美しい自然の風景が冷静に映し出されています。
(『Pole to Pole』)
(『K2 』)
このプロジェクトは、雪崩の頻発によって撤退となってしまったそうですが、映像に映し出されるのは、青空を背景に山頂付近で行きが次々と崩れ落ちる風景です。人間ドラマや、困難の克服にクローズアップするようなドキュメンタリー番組を見慣れていると、その淡白さに少し戸惑うような感覚もありました。
「日常を誇張したような写真は撮りたくない」
「標準レンズしか使わないので、機械に頼るズームもしない。寄りたいなら、自分が近づいてみる。何か理由があって近寄れないなら、その距離が写真にそのまま写ってきます。」
(写真家・石川直樹が語る「ヒマラヤの山」と「福島の中高生」への驚き(文春オンライン))
実際の作品を見ると、石川さんのこんな言葉がすとんと腑に落ちてきます。
今回の展覧会では他にも多数のプロジェクトの写真が展示されていて、そのひとつひとつから文化の多様さと、共通するものに気付かされます。
例えば、アメリカがすっぽりと収まるほどの広範囲に散逸した島々のようでありながら、緩やかな文化のつながりを持つ、ポリネシア地域に浮かぶ島々を撮影した『CORONA』。
世界各地の先史時代の壁画群を訪ねた『NEW DIMENSION』では、地質や植物、そこに住む人々の文化も全く違うのに、洞窟に「絵を描く」という文化がそれぞれに発展したのはなぜだろう?なぜひとは絵を描くようになったんだろう?と、想いを巡らせてしまいます。
わたしたちの身近な富士山をうつしだしたシリーズ『Mt.Fuji』も。
富士山のような「八」の字なっていますが、その麓には地元の方々のお祭りなどの風景が、そして、山頂付近には人を寄せ付けないような雄大な自然の風景が展示されていました。
各地を旅しながら、わたしたちの考える”辺境”という感覚を問い直すようなテキストも印象的でした。
(石川直樹さんの著書から引用された言葉も展示されています。)
最後には、石川さんとともに旅を続けてきた道具や、思い出の品々も展示された『石川直樹の部屋』もあります。
(こちらは、熱気球で太平洋を横断しようとして海に落ちたときのゴンドラに残っていたものだそうです。)
(これまでの写真集や書籍も閲覧できるようになっていました。)
まずは、見たことのない美しい風景に圧倒され、わくわくしながら次の作品をたどって行く展示でした。それから、一生行くことができないような遠い土地にも、日本の国の中にも、自分が”普通”だと思っているのとは全く違う風景や習慣があって、それは”特殊”ではないということを、写真とテキストの双方から感じられる展覧会でした。
展覧会は2017年2月26日[日]までです。
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なお、今は水戸芸術館ちかくの偕楽園では「梅まつり」もはじまっています。こちらも合わせてどうぞ。
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■DATA■
石川直樹 この星の光の地図を写す @水戸芸術館 現代美術ギャラリー
会期:2016年12月17日(土)~2017年2月26日(日)
時間:9:30~18:00
休館日:月曜(1月9日は開館)、12月26日~1月3日、1月10日
料金:800円
22歳で南極点から北極点までを踏破し、23歳で世界最高峰のエベレストに登頂した写真家・石川直樹。自然や都市を旅しながら、文化人類学の観点を取り入れた独自のスタイルで写真作品を制作している。
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