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”複製”から生まれる新しい”見えかた” ー「複製技術と美術家たち」展 @横浜美術館

2016年05月07日 | アート●オススメ展覧会●

 

横浜美術館で開催中の「複製技術と美術家たち -ピカソからウォーホルまで」
複写機で有名な富士ゼロックス社(横浜に研究所があります)のコレクションと、横浜美術館のコレクションを合わせ「複製技術」に注目した展覧会です。

(横浜美術館。前庭の工事も終わってきれいになりました!)

写真や版画、コピーといった「複製技術」に関する作品と聞いてはじめはちょっと地味な印象も受けました。”複製できるものよりも、やっぱり1点モノの絵画の方が価値があるんじゃないのかな?”なんて。ところが実際に見てみると、「複製技術」の持つ意味が変わって見える面白い展覧会でした!

 

■「版画」ってこんなに表現があったのか!

まず驚いたのが「版画」のバリエーションの豊かさ!例えば「マティスの版画」というと、まず思い浮かべるのが「ジャズ」連作のような派手な色が均一に画面を覆うシルクスクリーンの作品でしたが、素描のようなシャープな線で描かれた銅版画の作品、パステルのようなタッチと柔らかい色で刷られた石版画の作品など、同じ”版画”でも印象が全く異なることに驚きました。

アンリ・マティス / 「サーカス」(詩画集「ジャズ」より)
「複製技術と美術家たち」展チラシより引用)

版画”というと、大量生産するために使うものかと考えていましたが、絵筆で描くのとは違ったタッチを作り出し、作品の表現の幅を広げることができる技術でもあるんですね。

クレーの”油彩転写”のように独自の版画技法でつくられた作品もあり、「これが版画?」と、版画のイメージが変わってきました。

 

■ 「抽象絵画」や「シュルレアリスム」も、”複製技術”から生まれた?

ところで、今では”美術品”のイメージの強い版画も、昔は新聞の挿絵などを刷るためにつかう、純粋な「複製」のための技術だったそうです。ところが、1830年代に写真が登場することで、「風景や人物を見たままにうつした絵画」も、それを複製するための版画技術も、徐々にその存在価値が薄れてきてしまったのだとか。

さらに、それまで”その場所にただ1つしかない”という価値を持っていた絵画や彫刻も、写真で複製されることで尊厳が失われてしまうのではないかと危惧されたそうです。


「じゃぁ、絵画は絵画にしかできないことをやろう!」と考えた答えのひとつが、「点・線・色彩のような”絵画”特有の要素を使って画面を構成しよう」という抽象画の考え方なのだそうです。

例えばカンディンスキーの絵画を見ていると、現実世界の何が描かれているのか?なんて考えることもなく、その鮮やかな色彩と自由な線、不定形の面が構成する画面全体に見入ってしまいます。

ヴァシリィ・カンディンスキー / 「網の中の赤」
※ 写真は過去の横浜美術館コレクション展で撮影したものです※)

また別の答えとして、「現実にはないものを描こう」というシュルレアリスムの考え方も生まれてきたそうです。

私が面白いなと思ったのはカール・ブロースフェストの「12枚の写真」という植物をクローズアップして撮影した写真です。写真の中にあるのは”実在する”植物ですが、クローズアップして肉眼で見るのとは全く違った構図にすることで、私たちが普段「きれいな花だ!」と感じるのとは全く違った、滑らかな曲線や規則性、微細なパターンといった”形”の美しさを感じさせてくれます。白背景にモノクロームで撮影されているから余計に、”現実に存在するものだけど、現実とは違ったイメージ”を与えてくれるのかもしれません。

カール・ブロースフェスト / 「ディプザクス・ラツィニアトゥス」(「12枚の写真」より)
「Fuji Xerox Print Collection カール・ブロースフェスト」より引用)

新しい作品の考え方の誕生が、”複製技術”をひとつのきっかけとしていたなんて、少し意外な感じもしました。

 

■”コピー機”も絵筆の替わり?広がる作品の世界。

さて、複製技術として私たちの身近にあるのが職場やコンビニで目にする”複写機”(コピー機)です。文書を複写する道具としてしかあまり使う機会がありませんが、アーティストたちの手にかかれば”作品を制作するための装置”に変身してしまうんですね。

軍手などの小物を動かしながらコピーをとって不思議な模様を作り出したり(ブルーノ・ムナーリ)、自分の顔をコピーしたり(野村仁)、植物をそのままカラーコピーして押し花のように採集していったり(岸田良子)… なんだか、新しいオモチャを見つけていろんな遊び方を探しているようで、見ている方も楽しくなってきます。

ブルーノ・ムナーリ / 「無題」
「Fuji Xerox Print Collection ゼログラフィーと70年代」より引用)

複写機を使えばいくらでも作品が作れるようにも思っていましたが、複写機はこれまでの”版画”と違って”その場限りの電子の版”しか持たず後から同じ作品を追加で作ることができない、ということに気づくと、複写機を使った作品の印象も少しかわってきます。

コピーすることで”1回限り”の価値を与えたり、身近なものをコピー・編集することで”作品”にしてしまったり…写真が登場したばかりの頃と比べると”作品の捉え方 "”価値観”が広がってきたようにも思えました。(はじめに「ちょっと地味?」なんて思ってスミマセン… ^_^; )

他にも、ピカソ、エルンスト、デュシャン、ウォーホル、リヒテンシュタイン、ドナルド・ジャッドなど400点を超える”美術家たちの挑戦”が並ぶ、見ごたえのある展覧会です。ぜひ、ゆったりと時間に余裕をもってご覧ください。

「反転Q」 / クレス・オルデンバーグ
※ 写真は過去の横浜美術館コレクション展で撮影したものです※
版画や写真ばかりでなく、同じアーティストの油彩画や彫刻も展示され、様々な視点で作品をみられます。)

**********

なお、横浜美術館から一駅の新高島にある富士ゼロックス・アートスペースは普段は平日のみのオープンですが、今回の企画展中は土日祝日もオープンしています。

過去の企画展のカタログをいただくこともできるので、「複製技術」展で気になるアーティストを見つけたら、詳しく知ることもできますよ。

 

「複製技術と美術家たち -ピカソからウォーホルまで」は、6月5日(日)まで。会期が短い展示なので、ぜひお早めに。

 

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■DATA■

富士ゼロックス版画コレクション×横浜美術館 複製技術と美術家たち -ピカソからウォーホルまで @横浜美術館(みなとみらい)

会期:2016年4月23日(土)~6月5日(日)
休館日:木曜日(ただし、5月5日(祝)は無料開館)、5月6日(金)
開館時間:10時~18時
※夜間開館:5月27日(金)は20時30分まで
観覧料:一般1,300円

この展覧会は、写真印刷や映像などの「複製技術」が高度に発達・普及し、誰もが複製を通して美術を楽しむことができる時代に、ピカソをはじめ20世紀の欧米を中心とする美術家たちが、どのような芸術のビジョンをもって作品をつくっていったのかを、富士ゼロックス版画コレクションと横浜美術館の所蔵品によって検証するものです。


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2 コメント

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Unknown (コロコロ)
2016-07-17 00:36:42
横浜美術館は、カサットが初めてだったのですが、こちらの企画、あとから知って面白そうだな・・・・行ってみたかったな・・・と思っていました。様子がとってもよくわかりました。
ところで、マンガはご自身で書かれたのですか? 他の記事も・・・・ こんなの初めて! すご~い!!!
返信する
>コロコロさん (PLAstica.)
2016-07-19 23:09:34
こちらにもコメントありがとうございます。
こちらの展覧会、個人的には、カサット展よりもとても面白く見られる展示だったので、会期が一ヶ月ほどととても短かったのがとても残念です>_<

美術館は撮影NGなところが多いのでマンガで雰囲気が少しでも伝わるといいなぁ…とか、興味を持ってくれる人が少しでも増えたらいいなぁ…と思ってちょこちょこと書き始めました。イラスト初心者ですが^_^; そういっていただけると嬉しいです!!
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