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誘惑のスペイン・8~「セラミカの誘惑・Ⅱ ~スペインのタイル」

2007-03-06 00:28:44 | 誘惑のスペイン(EMPRE掲載分)
陶器と並んでスペインのセラミカのタイルも魅力的だ。タイルのことをスペイン語でアスレホという。
お隣ポルトガルでも、アズレージョと呼ばれて共に建物の壁や床などに多く使われている。
アスレホも古くからイベリア半島にやって来たイスラム世界の人が伝えたものだ。イスラムの国のモスクには色鮮やかな美しいタイル貼りのものが多い。アラブの星や唐草や蔓植物、幾何学模様など、洗練されたデザインのタイルはスペインにやって来て、少しずつ変化しながら生活の中にひろがっていく。
特にイスラムの影響が色濃く残るアンダルシア地方では、パティオ(中庭)の床や腰壁、階段の蹴上げなど様々なところにタイルが使われている。



あまりにも美しいタイルで有名なのが、アランブラ宮殿のタイルだ。内部の壁や中庭の壁など、幾何学模様のモザイクタイルが、気の遠くなるような緻密さで貼られている。一枚のタイルに絵を描いて連続してあるのではなく、星形や十字型やいろいろなパターンのタイルの組み合わせで模様が生まれているところが見事だ。イスラム文化の粋を集めた素晴らしい世界だ。
これに対して、正方形の同じ大きさのタイルに絵を描いて焼き上げ、壁に貼り付けたものがある。たとえば、セビリアのスペイン広場には、半円形に広場を囲む壁にABCの順にスペイン各県のタイル絵が貼られている。各地の歴史をなぞるもので、端から眺めていくのも楽しい。絵と絵の間には塔のような形をしたタイル貼りの燭台(?)があり、その幾何学模様も美しい。
また、トレドの隣街、陶器の街として知られるタラベラ・デ・ラレイナは、陶器の街らしく街中にセラミカがあふれている。街の中心にある教会は、外壁にも歴史絵を描いたタイルが貼られているが、なんと内部の壁もタイル貼りなのだ。観光地ではないため、教会の内部に入ると、そこは地元の人々の祈りの場となっているのだが、祈りを捧げる彼らを包む壁はタイルで覆われている。薄暗い内部に、ロウソクの明かりで浮かび上がるタイル絵は独特の雰囲気があって幻想的だ。
セビリアのマエストランサ闘牛場の中にある、闘牛士たちのための小さな礼拝堂の内部にも、タイルが貼られている。これはいかにもアンダルシアらしく、淡い青がひんやりとアレーナに赴く前の彼らに心の安らぎを与えるかのようだ。



マドリードの旧市街。通りの名前や広場の名前は、イラスト入りのタイルで案内されている。
番地のナンバープレートもタイルだったり、観光地では街の地図がタイルで出来ていたりもする。これはなかなか楽しい。店の名前や店の入り口のところの壁を飾る絵タイルも、何の店かひと目で分かって面白い。セビリアの老舗のタブラオの入り口には、フラメンコ衣装をつけたバイラオーラ(踊り手)の絵タイルがある。
とてもスペインらしい風景で目を楽しませてくれる。
陶器の街・バレンシアの玄関口、バレンシア駅の駅舎の正面玄関の外壁にもタイルが貼られているが、こちらはちょっと趣がちがって、立体的なオレンジの実(そう、バレンシアはオレンジの産地)がついていて、
とても愛らしい。こうして街中に点在する絵タイルをさがしながら散歩するのが楽しいのだ。

古いタイルばかりではなく、比較的新しい時代のタイルも魅力的だ。
たとえば19世紀末のあまりにも有名な建築家・ガウディの建築物にはタイルがいっぱい。
ただし、そのまま貼り付けていないものもある。ゆるやかなカーブを描く波線のようなフォルムの長いベンチで有名なバルセロナのグエル公園。ベンチに貼られているのはタイルを砕いた破片のモザイクだ。いろいろな模様のかけらが織りなす色彩の世界。モザイクタイルの青いトカゲは子どもたちや観光客の人気者だ。100年の時を超えて、なお未完成の彼の代表作・サグラダ・ファミリアの塔の上にも、モザイクタイルが貼られていたり、モザイクで覆われた巨大な星がくっついていたりする。彼の造り上げたモデルニスモの建物にも、華麗な花の描かれたモザイクタイルをみつけることが出来る。

木と紙の文化である日本にはなかったもの。石とタイルの文化は私たちの目には異国情緒にあふれ、独創的で華やかなものだ。スペインを訪れるたびに、ひんやりとしたタイルのアートに触れることは、スペインの旅の楽しみのひとつなのだ。


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