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Retro-gaming and so on

ホラーはロジカルな物語

昔は夏、って言えば「納涼」とか言いながら怪奇映画/ホラー映画が映画館では目白押しだった。
クーラーが普及してなかった時代では、「夏にはホラーでも観て"ゾッとして"体感温度を下げよう」とか言ってたんだよ。
90年代くらいに入ると季節が関係無くなっちゃったんだけどな。これは恐らく「クーラー」及び「エアコン」の普及率と関係あるんだろうけど、一方、「季節感」と言うのが重視されない世の中になった、っちゅー、ちと寂しい現象でもある。
大体、今だと深夜アニメで「真夏」にも関わらず「クリスマスの話」とかヘーキで流すような世の中だ。
嘆かわしい、ってば嘆かわしいんだけど、まぁ、時代の流れだよな。
しょーがない。

ところで、繰り返すが、「ホラー」ってのは本来「ロジカル」つまり、実は「論理的な」物語だ。
確かに超常現象を扱ったりしてるんだけど、その「物語」は徹底して「論理」で展開していく、ってのがその特徴なんだ。けど、意外とそれを知らない人が多いんじゃないか。
ここで言う論理とは、ストーリー上「AだからB」と言う「因果関係」がかなりキッチリと連鎖していく、と言う事だ。そこに破綻がねぇんだよな。
「論理を扱う」と言う意味だと恐らくミステリに近いだろう。ただ、恐らく、あらゆる「創作ストーリー」の中で、実は桁外れに「難しい」ジャンルだと思う。そうそうストーリー展開を完全に「論理的に」結びつけられる、ってのは作家陣の中でもかなり稀有な才能に恵まれてないと「無理だ」と思うんだ。
だから「真の」ホラー作家は少ない。そして例えば、「小説書き」とか文系の仕事と思われてるが、実は「ホラー作家」ってのは天性の「理系」の才能を要すると思う。一番「科学」と縁が遠いと思われてるオカルト/ホラーの類なんだけど、実は物語の構築、そして展開に必要なのは「理学系の」物語構築能力、なんだ。
大変だろ?
大変なんだよ。
だから、80年代の中頃から、ハリウッド映画とかがまずは、SFXの隆盛に反してこの「ホラー」ってジャンルから脱落していくんだ。
代わりに出てくるのが「スプラッター」ってジャンルなわけだ。
ホラーってのはそもそも「話を聞いてるだけで怖い」モノなんだよな。先にも書いた通り、ホラーは「ロジカルな物語」で、隙が無い。よって、どう聞いても「物語の登場人物」はその「話の展開」から逃げようがない、ように聞こえてくるわけよ。それが「怖さ」になる。
実は読者あるいは視聴者を追い詰めてるのは「話の展開」と言うロジックであって、人は追い詰められると「怖さ」を感じるモンなんだ。因果関係からは逃げようがない。だから絶望的な怖さを感じる。
一方、スプラッターってのは言っちゃえば単純な映像表現なんだよな。話のスジ的には実はんなに「怖い」もんでもないんだ。単にSFXみたいな「特殊撮影技術」が上がった為、やたらリアルな死体とか、血が吹き出す演出とか、そっちが「リアルになりました」ってだけで話自体は別に怖くもなんともないわけだ。
この傾向は・・・いや、監督としては僕は好きではあるんだけど、1970年代末にホラー映画界に出て来たダリオ・アルジェント以降の傾向なんだよ。アルジェント作品には実は「理」はない。いや、あっても薄いんだよね。彼の真骨頂は上で書いたような「派手な惨殺シーン」、言い換えるとギミックが面白いわけで、マトモにストーリーを考察すると「何じゃそれ?」って理不尽な話が多いわけ。
まぁ、アルジェント自身はイタリア人なんで、ハリウッドとは直接関係はないんだけど(※1)、要はSFXの隆盛から以降、「派手なギミック」が怖さの最優先事項だ、って勘違いされるような状態になっちまったわけ。
多分、そういう意味だと、「SFXを駆使して、70年代的なロジカルなホラーをやりたい」って製作されたのは、スピルバーグが関わったポルターガイストが最後だったかもしんない。恐らく、一種、スピルバーグの70年代のホラー映画への「ノスタルジー」だったんだよ。ロジカルで古典的なホラーを「(当時の)現代SFXでやったらどうなるか」と。
うん、多分ハリウッド映画だと大まかにいって、「ローズマリーの赤ちゃん」から70年代を通じ、古典的でロジカルな「ホラー映画」ってのはポルターガイストで一端幕を閉じるんだ。
では日本ではどうか、っつーと80年代半ば辺りから、特に漫画で「不条理ホラー」って言うのが出てくる。言っちゃえば単に「話に論理性がない」ホラーだ。この辺、実はハリウッドの傾向とシンクロしてたんだよな。
この時期に出て来た作家って特に名前を挙げないけど、話は不条理だわ(「不条理ホラー」だからな・苦笑)、絵が怖い、っつーより単に「気持ち悪いだけ」だわ、何だか良く分からんモノばっか出てくるんだ。
僕は、一般的な感覚が良く分からないんだけど、例えば「怖い」と感じる絵と「生理的嫌悪感」を感じる絵とはまるっきり違う、と思っている。ただ、一般的には「怖い」のと「(生理的嫌悪感を感じる)気持ち悪い」ってのを一緒くたにしてるように感じるんだよな。
ゴキブリに感じる「気持ち悪さ」と幽霊に感じる「怖さ」、僕の中では一線が引かれてる、んだけど、80年代中頃辺りから出て来た「不条理ホラー」と言われるジャンルはこの辺の感覚を「ゴチャまぜにしてる」ように感じるんだ。
一方、古典的ホラーの名手、楳図かずおとか、少女漫画やってただけあって、まずは主役の女の子とか「美少女」で、言っちゃえば作画に「美」があるわけ。そこに異形の怪物が挿入されてくるから対比的に「恐怖感」が出てくるわけで、最初っから最後まで「きったねぇ」「何だか良く分からん生理的に嫌悪感が募るもの」ばっか出てきてもそれは単に「気持ち悪い」だけで怖くはねぇだろ、ってのが僕の感覚なんだよ。
また、不条理ホラーは「不条理」と冠されてるだけあって、荒唐無稽、っつーかメチャクチャな、そういう話が多い。ホラーって確かに「非日常」なんだけど、日常がフツーであるからこそ、非日常が対比で極まるわけだ。最初っからその「日常」が無い話、って単に徹頭徹尾、荒唐無稽なだけ、なんだよ。一体なんだこれは、ってのが正直な感想だ。
いや、某作家とか、発想が荒唐無稽な辺りは「感心」はしてる。徹底的に「うずまき」にこだわる、とかさ(笑・※2)。
ただ、それって別に「怖い」ワケじゃないんだよな。単に「幻想的だ」ってだけの話であって。僕の中では「変わったファンタジー」としては読めるけど「ホラーとしては」読めない。別に怖くはならんし、徹頭徹尾「へぇへぇへぇ、面白い発想してんな」ってだけで終わりだ。
決して不条理ホラーに対して、つのだじろうや楳図かずおのホラー漫画を読んだ時のような「背筋がゾッとする」とか「夜中にトイレに行けない」と言うような経験をした事がないんだ。
「怖さ」と「話/設定の不条理」/「生理的嫌悪感」ってのは全く質の違うモノなんだよ(※3)。

繰り返すけど、ホラーは「ロジカルな物語」ってのが基本で、「ロジカルだから」怖いんだ。恐怖は理詰めでやってくる。何故なら物語の構成が「理詰め」であればあるほど、貴方の分身である「主人公」はそこから逃げられないから、だ。ロジック程人を追い詰めるモノはないんだ(※4)。
だから、「本当に怖い話を書ける」人は少ない。そこまでロジカルな作家ってのはまずいねぇから、だよな。
僕も昔、つのだじろうや楳図かずおの漫画を読んだ時にはただ単に怖がってただけ、なんだ。「何でこんなに怖い話書けるの」ガクガクブルブル、と。分析するよか先に怖さが来てたんだよな。
そんなクソガキだった時に、ある本に出会う。ラフカディオ・ハーン/小泉八雲の「怪談」だ。
この本は極めて重要な本だと思う。あの楳図かずおもつのだじろうも、ラフカディオ・ハーンの「怪談」を漫画化した程だし、そういう意味では「ホラー作家」のルーツだろう。
まぁ、この本はハーン自身が「創った」モノではなく、日本の民間伝承/説話的な「怪談」を集めて編集した本なんだけど、それでも凄い本だ。
耳なし芳一」なんかもこの本に収録された話で、ハーンのオリジナルではないが、この本で一気に(世界的にも)有名になった。
そして、この本に収録された話にはどれも「ロジック」がある。僕が「ホラーはロジカルな話なんだ」って気づいたのはこの本に依るトコが大きい。決して単に「荒唐無稽な」話じゃないんだ。ハーンの本はそれに気づかせてくれた。
そして、この本の中にホラー中のホラーな話がある。キング・オブ・ホラーだ。「ホラーとはロジックなんだ」を痛感する話で、これ以上のホラーは存在しない。
そのタイトルを「かけひき」と言う。是非ともリンク先へ飛んでその古典的、最恐ホラーを味わってほしい。
「ああ、ホラーってロジックなんだ」と骨の髄まで分かるだろう。
猛暑の夏での僕からのプレゼントだ。

※1: アルジェントは一回だけハリウッドと仕事をしたことがあるが、ハリウッドとはウマが合わなかったらしく、以降、積極的には関わっていない。

※2: ここで誰の話をしてるか分かる人にはすぐ分かるだろう(笑)。

※3: 多分ある意味、このテの「不条理ホラー」の遠いルーツがラブクラフトで、ギミック、つまりハッタリだけで話を展開する、と言う「手法」は確かに似てるんだ(笑)。理もなく、ハッタリだけで「怖くもなんともない」。
「不条理ホラー」が持ち上げられるのと同時に、ラブクラフトが注目される、ってのはある種「時代の必然性」だったんだろう。

※4: この「ロジック」に実は「文化的コンテクスト」も内包され、結果、映画「オーメン」のように、「キリスト教徒ならではのロジックでは恐ろしい筋書き」でも、キリスト教徒じゃない日本人には「サッパリ怖くない」と言う事はあり得る。
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