バスターミナルなブログ

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・高速ツアーバス問題とその後

2015年04月29日 | ツアーバス 乗合移行
2015年4月1日までに貸切バスの運賃料金制度が、新制度に移行しました。これで、高速ツアーバス問題で露呈する事になった改善すべき点は、大きなものには手術がされた事になると思います。

これまで高速ツアーバスには、どのような問題があったのでしょうか。そして、どのような対策をとったのか。私なりに振りかえってみました。

その1 利用者に対する告知の問題

「販売しているのは高速ツアーバスなの?高速乗合バスなの?」
「どんな会社のバスが来るのかわからない」


→「高速バス表示ガイドライン」の策定

一般の利用者が高速ツアーバスと高速乗合バスの違いを判別するのは容易ではありません。また、高速ツアーバスでは利用者が契約するのはバス事業者ではなく、旅行業者であるために、実際に乗車するバスの情報が不明瞭な状態でした。ガイドラインでは、インターネットや紙媒体における広告の表示、バス車両における表示など、情報の”見える化”が行われています。

その2 運転手さんの運転距離の問題

「運転手さんは無理な乗務をしていない?」


→交代運転者の配置基準見直し

高速乗合バスにおいても、貸切バスにおいても、これまで定められていた「交代運転者の配置基準」に、新たな基準が加えられました。例えば、貸切バスではワンマン運行の上限が昼間で一運行500kmまで(条件により600kmまで)、夜間で400kmまで(条件により500kmまで)といった具合に定められています。

その3 停留所の問題

「駐停車禁止の場所でツアーバスが乗降している」
「停留所がなくて乗合移行出来ない」


→大都市では、協議会が道路管理者や既存のバス事業者、自治体、警察などと調整し、停留所を確保

高速ツアーバスの乗合移行で、難航したのが停留所の確保だったそうです。大都市では自治体や警察が停留所の新設に難色を示した事もあり、既存停留所の共用化や、大型バス駐車場を停留所として活用するなど、乗合移行への準備が進められました。

その4 市場競争の問題

「高速ツアーバスと高速乗合バスは同じ土俵で勝負していない」


→高速ツアーバスは乗合化

2地点間の移動を目的とした高速バスでは、旅行業法に基づいて自由度の高かった高速ツアーバスと、道路運送法に基づいて制約の多かった高速乗合バスの2つの制度が混在していました。新高速バス制度では、幅運賃制度を高速乗合バスに採用。需要に応じた柔軟な価格設定が可能となりました。また、高速ツアーバスが乗合バスに移行した事により、自らがバス事業者となり、安全面でも責任を持つ事になります。貸切バス事業者への乗合委託も同様に委託者の責任が明記されました。

その5 貸切バス運賃の問題

「ダンピングによって、貸切バス事業者が十分な利益を得ていない」


→貸切バス運賃料金制度の見直し

2000年の規制緩和によって貸切バス事業者の数は増加しました。そのうち旅行会社が企画してパンフレットやインターネットで集客する「メディア販売」が増えてくると、貸切バス事業者は旅行会社の影響を大きく受ける事になります。結果的に皺寄せを受けたのは貸切バスの運賃で、高速ツアーバスに限らず、貸切運賃の市場価格は大きく下がり、公示された運賃以下での契約も行われました。

新しい運賃料金制度では、コストを適正に反映した運賃・料金をバス事業者が受け取り、安全運行に必要な措置をとれるようにしています。また、貸切バスの運送契約における「書面取引の義務化」や、運賃・料金制度を守らないと「行政処分」の対象となるのはバス事業者だけではなく、関与が疑われた″旅行事業者″にも旅行業法に基づく措置がとられるなど、著しい運賃や料金の値下げ等の安全を阻害する行為を防止する仕組みも設けられています。


・・・ここまでまとめてみましたが、「こんな問題点もあるよ!」とか、「こんな改善もされたよ~」、なんてご意見もあるかと思います。他にも「高速ツアーバスの登場で、経営の苦しい地方バス事業者に影響が出た」というのも浮かびましたが、これに関しては2002年の規制緩和から他の乗合バス事業者の参入も可能となったので、競争相手の登場は想定出来るものでした。結果的に競争相手としては乗合バスよりも、高速ツアーバスの方が影響が大きかったので「高速ツアーバスのせいで・・・」となるのも理解できるものの、本質を見るには、規制緩和を考慮する必要もあると考えます。

最後に、高速ツアーバスは違法だったのか?合法だったのか?

当時の国土交通省の見解では、「正規の貸切契約に基づき運行されている限り、企画・実施旅行業者に道路運送法の問題は生じない。」とされています。すなわち、旅行業者による高速ツアーバスという運送形態は認められている状態でした。ただ、これには続きがあり、「道路運送法や労働基準法、道路交通法等の関係法令への違反行為の教唆、幇助となるような行為は行わないこと(重要なところを抜粋)」と記されています。裏をかえすと、貸切バスの営業区域外での契約や、労働基準法違反となるような長時間の運転を強いたり、定められた最高速度を違反する速度での走行を強いるような行為が行われていたケースも存在しました。

結局のところ、高速ツアーバスという行為自体には問題はなく(当時)、法令を逸脱した行為に問題があり、中には質の悪い商品も存在し、そのような商品でも消費者が気が付かず購入出来てしまうシステムが、高速ツアーバスの根となる問題だったのではないでしょうか。


改善すべき点に手術は行われましたが、術後には経過を診る事も重要であり、監査能力がどこまで対応出来るのかという課題は残ると思います。インバウンド需要の増加や、東京オリンピックへの対応など、これからバスが担う役割は増えていきます。バス業界がより良いものへと進化していく事を願い、今回の記事を終わります。

追伸:4月30日文章を一部直しました。
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17 コメント

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高速路線バスの規制緩和 (みどり)
2015-04-30 14:27:06
バスターミナルなブログ管理人さま

良くまとめられています。
5つの項目が主な問題で、解決しなくてはならない案件でした。

その4の項目が特に重要です。

違法ではありませんが、都市間ツアーバスは、路線免許を取って運行している事業者にとって同じ土俵で勝負しないのは
不快です。

私もこの点は重視していて、参入するなら路線免許を取ることを願っていました。

当時は、5台の車を所有する事、停留所の設置、運行に関する条件等など厳しいですが、規制緩和で開かれて来ました。

ツアーバス事業者側の言い分も解ります。 変動制運賃、ダイヤ変更の届け出の柔軟、運行委託を認めるなど。

結果的に新制度は、お互いの主張を取り入れていると感じます。

後は、各社が知恵を絞って良質な輸送を提供して欲しいですね。
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ツアーバス問題 (バスターミナルなブログ管理人)
2015-04-30 18:11:43
>みどりさま
ありがとうございます。みどりさまが書いた「不快」という言葉。
ここに本質があって、「感情」という問題が今も残されています。

私は、かつてツアーバスに良い感情を持っていなかったので、沿道で見かける度に「どうして、このようなバスが許されるのだろうか」と考えていました。ただ、調べれば調べるほど、認めざるを得なくなります。

ツアー形式や会員募集形式を使い、貸切バスで利用者を運送する方式は、既存の乗合バス事業者であっても、帰郷バスなど過去にいくらでも存在したからです。高速ツアーバスは決して新たに発明されたビジネスモデルではありませんでした。

それなら何故に悪い感情が存在するのか。かつてバスラマで和田編集長が「農耕民族」と「騎馬民族」のたとえ(バスラマ109号)をされていました。咀嚼すると、既存乗合事業者が何もない状態から土地を耕したのに、ツアーバスはその耕された土地で商売をしている。

規制緩和で、かつての乗合バス事業者の地域独占はなくなりましたが、その印象は今も強く刻まれています。

個人的には、東京で見る弘南バスのツアーバスは何とも思わなかったのに、サンデン交通のツアーバスには違和感をおぼえた時期がありました。それはおそらく、「ふくふく号」から撤退したサンデンバスは東京でヨソモノに映ったからだと思います。同じ乗合バス事業者のツアーバスでも感じ方が違うのは不思議でした。
返信する
私の場合は。 (ももいわそう)
2015-04-30 18:12:23
「時刻表への未掲載路線は乗車の対象外」
これが高速ツアーバス運行時の私自身の乗車の考え方でした。そして、平成25年7月31日発の夜行からの高速ツアーバスの乗合免許化を迎えることになります。作戦会議?を開いた結果原則として「事前の座席指定が可能」「楽天トラベルなど携帯サイト等にて予約・決済可能な路線のみ」「独立3列席採用・御手洗い付き使用」の3つを柱に、元がツアーバスであっても乗車の対象としていくことを確認します。
現時点ではジャムジャムエクスプレスや海部観光、ナイトライナー、桜交通などに乗車しています。携帯サイト等に対応していないのはやむを得ず乗車不可能と考えます。
これからだとロイヤルエクスプレスやハートライナー、中日本エクスプレスの一部系統は明らかに乗車の基準に達しており、まだ未乗の路線を絡めて乗りバスを進めて行きます。
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ツアーバス (バスターミナルなブログ管理人)
2015-04-30 22:05:12
>ももいわそうさま
ご自身で作った単純明快なルールなので、各社似ている仕様の車両を比較出来ますね。ツアーから移行したブランドは事前座席指定が出来ないものが多いのですが、桜のように別途料金で出来るようになるものもあり、指定したい人にとっては選択肢に入ってくるブランドだと思います。
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守られていた時代 (みどり)
2015-04-30 22:49:48
バスターミナルなブログ管理人さま

都市間ツアーバス事業者=現在は移行組ですが、私も当初は同じ考えでした。

ただ、やっては良いが高速ツアーバスや高速バスを名乗ってはいけない。
都市間ツアーバスなら許せる気持ちだったです。
規制緩和されたら、路線免許を取る覚悟を持っている事業者を期待していました。

バスラマの編集長さんの表現は、マスメディア的ですね。 ちと、個人的なご意見と感じました。
私はそれは違うと思います。

バス輸送が始まった時代に遡ると、当時は申請制、即ち参入は自由だったのです。 個人や組織が多数乱立して戦国時代そのもの食うか喰われる程激しかったのです。

買収や合弁で大きくなった事業者が地域の輸送を担う会社に至っています。

規制が掛かり国の施策でエリア制の時期しか見てなければ、その表現をされるのは解ります。
守られていた時期が長かったせいか保守的なご意見になられたと感じます。

商売というのは、先駆者が市場を肥やしていても新参者が現れればその苦労は無になるものです。
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私の場合 (dream-selega.)
2015-05-01 00:01:04
また非常に厳しい
尚且つ保守的な事を書きますが
私の場合身体に障害を抱えています。

それを念頭に置いてみた場合
まず障害者割引があるか
またある程度の対応がなされているか
この二点です

その点からみた場合
ツアーバス転換組はごく一部を除き対象外です。
そうなるとやはりJR系や大手路線事業者となるでしょう

また幾つかの転換組にも乗車してみましたが
一言でいうと「全くなってない」のが現実です
保守的過ぎると言われるかも知れませんが
運賃は高くとも設備的にやや平凡すぎても
「長年の信用と実績」は大きいです。
名神高速に始まり40年高速バスに乗ってますが
特にJR系に対する信用と同時に
最近の接客や車両に若干の不満もあります

またウィラーはじめとする後発組も
ハード面、ソフト面共になお一層努力してほしいと思います。
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ツアーバス (バスターミナルなブログ管理人)
2015-05-01 21:50:03
>みどりさま
なるほど、みどりさまのケース場合ですと、「高速」を名乗ったところが許せなかったと。

それから、バスラマの件ですが、私が咀嚼した文章を判断されたと思うので、もしかしたら、直接読まれていたら違う解釈になるかもしれません(読まれた上での判断でしたらごめんなさい)

始まった時代まで遡れば、みどりさまの書かれたとおりです。ただ、そこまで考慮した上で悪い感情をもっているのかと考えると、正直わかりません。

最後に「路線免許」と書かれていますが、今は路線は「認可」です。実は自分もたまに免許と口走ってしまう時もありますし、ネット上でも「免許」と書く方も多いです。知ってか知らずかわかりませんが、需給調整を行っていた頃の言葉が今も普通に出るあたり、私達も規制緩和以前のしがらみから抜け出していないのかもしれません。

「路線免許」は原則として1路線のみでしたから。「路線免許」をとれと言っても、現実的には難しいのですから。
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障害者割引運賃 (バスターミナルなブログ管理人)
2015-05-01 23:10:22
>dream-selegaさま
今日一日、このコメントの事ばかり考えていました(^^ゞ

私も乗合移行したバスに障害者割引が存在しないブランドもある事が不思議でなりませんでした。その理由を考えてみましたが、自分で腑に落ちる理由が見つからなくて悩んでいたりもします。

社会通念上、設定されていた方が統一もされて良いと思いますが、航空運賃のように、障害者割引運賃よりも安い割引運賃が多くでるのが今の高速バス運賃なので、日常からダイナミックに割引運賃を設定しているブランドでは、意味をなさないケースもあると思われます(それでも意味があるケースもある)

自立や支援のために運賃が割引される事に意義があるのだとすれば、「障害者割引」の対象となる方だけではなく、割引の範囲を全員に広げても同様の意義がある・・・となるのかもしれません(勝手な推測)

でも、自分が購入した価格が既に割引されているか・・・なんて普通は気が付かないですよね。

あと、ソフト面ですが、ブランドの歴史が浅いために、どのように対応すれば良いのか、わかっていないケースが多いのではないかと思います。実際に障がいを持つ方と接する機会も多くないでしょうし、事業者がすすんで教育や研修をやらなければ、現場は障がいを持つ方々が、どのような対応を望んでいるのかを判断するのは難しいと思います。

そのような教育を行っているとHPで紹介しているようなブランドなら期待は出来ますが、そうでなければ歴史あるブランドの方が安心だと思います。

これから高齢化社会を迎えますし、私もいずれおじいちゃんになるので、こういう部分は発展する事を願います。
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障害者割引運賃 (バスターミナルなブログ管理人)
2015-05-02 20:11:05
>dream-selegaさま
今日も一日、この件を考えてしまいました(汗

ごめんなさい。社会通念上…から、・・・(勝手な推測)、までを保留にさせてください。仮説をたてたりして考えたのですが、合っているような、違っているようなで定まりません。

事業者によって、運賃制定形態が異なっているので単純に比較できないのかもしれません。
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コレは… (dream-selega)
2015-05-02 20:58:00
確かに難しい問題だとは思います。
社会通念…の部分は気になさらなくても良いとは
思います。


しかしながら旧ツアーバスの乗車券販売が
「手配型企画旅行」のような形で販売されている
ケースが多く、非常にわかりにくい販売形態が
まだ残ってるのも一つの問題だとは思います

これだけ多岐に亘る料金設定や販売形態は
旅慣れたネットユーザーならともかく
私のようなモノにはわかりにくいですね。

あと曲者なのは幅運賃
各社によって障割適用時の運賃基準が異なること
その日の運賃を基準にする場合と
最繁忙日の運賃を基準にする場合
通常期の運賃を基準にする場合と
各社や時に座席設備で変わったりと
結局複雑怪奇な部分もあります
そういった面でもわかりやすい運賃に
してほしいとは思います
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