旅の始まりは、バスタ新宿。
これから夜行高速バス「はかた号」に乗車して、博多へと向かいます。終点までの所要時間は、時刻表上で14時間17分。これだけもの長い時間を高速バスで移動するのは初めての体験です。座席は個室タイプの「プレミアムシート」を1ヶ月前に予約しました。初乗車の「はかた号」で、博多までの旅をのんびりと楽しみたいと思います。
西鉄バス「はかた号」
バスタ新宿21時00分発
「はかた号」が出発するのは、バスタ新宿4階のD10番のりば。
出発時刻の15分前にのりばに着くと、私が乗車する「はかた号」は既に乗車改札を開始していました。
それでは、早速、乗車しましょう。
私の部屋は1A。照明に照らされたブラウン色の室内に、革張りの大きな座席が迎えてくれました。
シートには機能がいくつもあるようで、どこから試そうか悩んでしまいます。マジカルテクニカのシートで、電動リクライニング機能、マッサージ機能、シートヒーター、送風機能などが付加され、道中を快適に過ごせます。充電用の電源は、USBタイプが2口。どちらもタイプAです。その他、ワイヤレスタイプの充電にも対応していました。
パウダーシート、蒸気アイマスク、使い捨てスリッパのサービスもあります。
さてさて、バスは21時00分にバスタ新宿を出発しました。長い旅が始まります。
通路側のアコーディオンカーテンを閉めると、個室感がアップしました。
左側には大きな窓ガラス。今からの14時間、この窓は私だけのものです。
甲州街道に入り、新宿駅前に出ると路上ライブとギャラリーの姿が見えました。新宿ではありふれた日常の光景ですが、枠に囲まれた窓から見ると、まるで映画館のスクリーンをみているかのようです。人間模様だったり、風景だったりと、これから様々なシーンが見られるでしょう。映画「はかた号」の上映開始です。
今回の旅は個室ということで、ちょっと遊んでみました。
事前に100円ショップでプラコップを買い込んで、車窓を肴に晩酌をするという趣旨です。
とは言え、私はお酒に弱いので、晩酌の中身はマスカットジュースですが(笑)
ジュースを注いでワンショット。カップをホルダーへ移します。
個室だからこそ撮れた1枚でしょうか。車窓を見ながら、チビチビとマスカットジュースを楽しみました。プラコップなので、ガラスのようなヒンヤリとした口触りはありませんが、それでもペットボトルからそのまま飲むよりは、ムードが出ます。至福のひと時♪
バスは新東名高速道路へ。
映画「はかた号」のスクリーンには、駿河の夜景が映し出されました。もっとハッキリと車窓を楽しもうと、部屋の照明を落としたところで、何故か懐かしい感覚が蘇りました。何だろう。この感覚。・・・考えてみると、昔、寝台列車の個室(Bソロ上段)に乗車した時にも、同じ行為をして星を眺めていたのを思い出しました。夜行個室の利点の一つは、暗闇の車窓を勝手気ままに楽しめるところにあるのかもしれません。
ちなみに部屋の照明は、座席後ろの調光灯と、頭上の読書灯(電球色)の2つがあり、それらを組み合わせて自分好みのムードを作る事が出来ます。私は電球色の読書灯だけを点灯させた状態が好みだったので、夜はそのようにしていました。
23時15分。静岡SAに到着。
消灯前の最後の休憩になるので、運転手さんからは「何か買い忘れたものがあればコチラで」と注意喚起の放送がありました。次の開放休憩は山口県になるそうです。放送を聞いて、果てしなく先だと実感をします。
この時間の静岡SAは、大型トラックでいっぱいでした。
それぞれの目的地はどこなのでしょう。「はかた号」のように九州へ行く車も、きっとあるのでしょうね。
私の部屋を外から撮影。
「はかた号」の窓ガラスはクリアタイプなので、外からでも、内からでも、ガラス越しの様子がよくわかります。
普段、私は、バスタ新宿前でバス撮影をするのですが、朝9時過ぎに到着する「はかた号」のプレミアムシートの乗客たちは、カーテンを半分くらい開けて新宿駅南口の様子を眺めているのをよく見かけます。
↑バスタ新宿到着時の様子
長い旅を終えて、ようやく「東京に着いた」なのか、「東京に戻ってきた」なのかはわかりませんが、乗客たちは、一体どのような想いを抱いているのでしょう。旅先への「期待」なのか、戻ってきたことへの「安堵」なのか、それとも「達成感」なのかもしれません。明日の昼前になったとき、私が抱く感情は何でしょうか。楽しみです。
さて、15分間の休憩を終え、ドアが閉まりました。23時30分に出発です。
消灯の時刻なので、私も身体を休めることにしましょう。それでは、おやすみなさい・・・・・zzz
・・・「はかた号」には、思い出すことがあります。15年以上前になりますが、夜の新宿西口で「はかた号」の撮影をしていると、私の横で携帯電話を使って撮影している男性がいました。同業者かと思って話しかけると、その方は福岡県の出身とのことでした。「はかた号」を見ると故郷を思い出して元気が出るそうです。私は生まれも育ちも東京なので、故郷という言葉に実感は少ないのですが、毎日21時00分に西口へ来れば、馴染みのバスに出会え、それだけで力をもらえる。地場のバス会社の持つ力の凄さを実感しました。もし、私が一人で博多へ転勤になり、仮に京王バスが毎日発着していたら、寂しい時や不安な時に、見に行ってしまうかもしれません。
深夜3時。ふと目が覚めました。
カーテンを少し開けて、窓の外を見ると、都市が広がっています。ここは何処でしょう。スマホのGPSで場所を調べると、どうやら大阪府池田市の模様です。深夜3時の大阪の夜景なんて、なかなか見られない体験です。いつまでも眺めていたいけれど、そういう訳にもいかないので、再び目を閉じることにします。
7時40分。朝の休憩を告げる放送が流れました。
まもなく、佐波川SAに到着です。道路状況が順調だったらしく若干の早着とのこと。「ここで、朝の洗顔の休憩」という説明を聞き、思わず洗面所で顔の汗を洗い流したくなってきました。
ここでの休憩時間は20分間です。ドアが開くと、運転手さんは乗客一人一人に声かけをしてくれました。乗客の一人は、語尾が上がるイントネーションで「ありがとう」と返します。よく聞く話ですが、地方の方が関東で会話する時は共通語なのに、地元に戻ると自然とその土地の話し方になるといいます。まさしくこの瞬間なのかもしれません。
山口県の佐波川SA。8時間ぶりにバスの車外へ出ました。
洗面所へ向かう前に、まずはバスを撮影。余談ですが、この佐波川SA(下り)をグーグルマップで調べると、この場所で休憩する「はかた号」の写真が表示されます。どなたかがアップしてくれたようです。新宿から「はかた号」で夜を明かすと、佐波川が最初に降り立てる場所ですし、共有したくなる気持ちがわかるような気がしました。
コンビニ併設型の佐波川SA。
比較的新しい建物で、トイレも清潔です。洗面所で洗顔をすると、サッパリと快適な気持ちになりました。
この後、車内では紙パックの「お茶」が配られますが、今の気分はモーニングコーヒーなので、コンビニコーヒーを片手にバスに戻りました。
車内で配られたドリンクサービスの「お茶」。
「はかた号」には、プレミアムシートと、ビジネスシートの2種類のシートランクがありますが、ドリンクサービスは、シートランクに関係なく配布されます。以前より「はかた号」の乗車記を読むと、このパッケージのお茶の画像がよく出てくるので、ようやく私も、このお茶に出会えたのだと感慨深くなりました。三井農林の製品で、製造所は長崎県大村と記載されています。検索しても見つけられなかったので、一般的な市場には出回らない貴重な商品なのかもしれません。
ちなみに、運行開始時(1990年)の「はかた号」では軽食が配られていました。交通ジャーナリスト、鈴木文彦さんの当時の書籍を読むと、軽食は、ラスク、ジャム、缶詰のサラダ、パック入オレンジジュースだったそうです。(※【新版】高速バス大百科 鈴木文彦1991年発行)車内で景色を眺めながら食する朝食タイムは、さぞかし夢の時間だったことでしょう。
さあ、終点の博多バスターミナルまでは、あと3時間ちょっと。
残りの旅を楽しみましょう。8時10分に佐波川SAを出発しました。
個室の中で、温かいモーニングコーヒーを口にしながら、移り行く景色を眺めて過ごしました。
9時を超えた頃、関門橋にさしかかりました。
この橋を渡ったならば、そこは九州です。海峡の景色は霞んでいて残念でしたが、九州への到達に胸が高まります。バスタ新宿を出発してから、およそ12時間が経過していました。
門司インターチェンジから都市高速へ。富野出口で高速を降りました。
出口の先には、信号交差点があります。赤信号でバスは停車しました。一般道の信号機なんて久しぶりです。いつ以来でしょうか。思い返してみると、昨夜は首都高速3号線の池尻入口から高速道路に入りました。ということは、目黒川の直近に位置する池尻以来です。
まもなくして、モノレールが駅舎に吸い込まれる近未来的な小倉駅が見えると、小倉駅前に到着。
その後、砂津を経由して、再び都市高速に入り、黒崎インター(引野口)、西鉄天神高速バスターミナルへと向かいます。
バスはしばらく快調に走行し、左手に福岡貨物ターミナルが見えてきました。
福岡の街へは海側からアプローチします。
天神北出口を降りると、西鉄天神高速バスターミナルはすぐそこ。
10時30分の天神は、通勤ラッシュを終えて、ゆったりとした空気が流れているかのようでした。運転手さんは天神での乗り換え案内を丁寧に行い、「昨晩から、長時間のご乗車お疲れ様でした」と労いの言葉で締めくくりました。
西鉄天神高速バスターミナルに到着。
降車を終えると、次は終点の博多バスターミナルです。
最後の一区間は、時刻表上でわずか15分。
この部屋とも、この窓とも、まもなくお別れです。昨夜から(私の中で勝手に)上映していた、映画「はかた号」のスクリーンが幕を閉じようとしています。
博多バスターミナルのスロープが見えてきました。
バスおりばのある、2階がゴールです。
バスタ新宿から約14時間。「はかた号」の旅が終わりました。
バスのブログを15年も続けておきながら、実は「はかた号」に乗車するのは初めてでしたが、移り行く景色、長時間の乗車、日本を代表する夜行バスとして、多くの人々に愛される、その魅力がわかったような気がしました。また機会を作って、乗車できればと思います。
そうそう、私が博多バスターミナルにする時の感情は「寂しさ」と「期待」でした。14時間を共にした部屋との別れ、そして、九州を高速バスで巡り、これからたくさんのバスに出会えること、ご当地の美味しい物が食べられることへの楽しみです。この後はターミナル3階で「SUNQパス」を購入し、それから地下で「牧のうどん」を食べて、旅の計画を煮詰めることにしましょう。それでは、いってきます!
<撮影2024年6月>