**馬耳東風**

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中国のフェイント、近攻遠交の策

2016-02-01 | 世事諸々
昨年10月20日、中国の習近平国家主席は国賓としてイギリスを4日間の日程で訪問しています。イギリスは中国との経済関係強化をつとに望んでいて、今回の訪問期間中に中国が300億ポンド(5兆5500億円)相当の投資をイギリス国内に行うというので、王室・政府を挙げて「最大級の歓待」と中国国営メディアが表現した通りの近年珍しいほどの歓迎振りだったようです。

5兆円を越える巨大な投資額は「両国関係を新たな高みに引き上げる」とBBCがいうように、イギリスにとってこれ以上の手土産はなかったはずです。中国外交の真骨頂とでもいうべきで「相互にウイン・ウインの関係(BBCの言葉)を作る端緒となった」と喜ばれていました。日本のように無償援助といったハンドフリーの手土産ではなく、純粋な投資で無償枠ゼロであっても5.5兆円となると効果的な手土産になるようです。中国には学ぶこともまだ多いようです。

多忙な4日間の訪英最後の日、習近平主席は工業地帯のマンチェスターで一日を過ごし、別れの演説のどこかで日本のことに触れ、「中国は日本を許すことはできない、過去の歴史を直視することなく反省することがない、あの「史上最悪の南京大虐殺」を決して認めようとしないのです。中国は今後も頑なな日本を非難し続けます。と述べていたと報じられています。

このような日本非難をドイツ、フランス、イギリスなど主要EU国で機会あるごとに述べているのは、中国の場合うらの意図があるのです。現在中国自身が国際的に非難を浴びかねない行為を至る所でおこなっていて(アフリカ、アジア、中南米の資源乱開発と自国民の押し付け移住など、とりわけ現在の南沙諸島埋め立てと強引な12海里領海宣言)からヨーロッパの関心を削ぐ意図があるのです。

それを暫くの間触れられたくないためのフェイントに、過去の欧米人たちにもよく知られている日本の「南京大虐殺」という残虐行為の話をぶり返しているのです。

南京大虐殺というのは、日本軍が南京を攻撃時に中国人(市民)30万人を虐殺したという話です。それも残虐非道なやりかたで、往来で日本刀を振り回し、女子供も容赦なく・・。

このフレーズは日本人以上に欧米人には(なぜか)よく知られているのです。なぜなら、この文章は77年前の大戦前夜、ある野心家の若いアメリカ人ジャーナリストが中国に依頼されて英語で書いたプロパガンダだったからです。

作者はエドガー・スノーという当時30歳の戦争ジャーナリストで、無名から抜け出す一発勝負ネタを求めて中国をさまよっていたのです。

あたかも、世界が注目していた騒乱地域は中国で、その中国をまさに国家として統一しつつあったのが「中国の赤い星」毛沢東で「時の人」だったのです。

その毛沢東に自分がインタビューする・・それが叶えば一挙にジャーナリズムの寵児になれるかも知れない、と野心は膨らみ、一歩を踏み出していたのです。

毛沢東について調べ、学び、やがて毛沢東賛美論者となり、小さな通信社に雇用されて上海に赴き、中国向けジャーナリズムにデビューしたのでした。

詳細は省きますが、毛沢東の方にも彼のインタビューを受け入れる地合いがあったと思われます。清王朝崩壊後の混乱した中国を共産主義というイデオロギィーの下に統一しつつあったのですが、その時、ちょうど反革命軍の蒋介石に軍事的に押されて長征といわれた内陸部に逼塞した時期でもあったのです。起死回生を模索していたタイミングだったのです。

新米とはいえスノーはアメリカ人だったので利用価値は十分あると思われたのでしょう。西欧向けのプロパガンダの必要性は痛感していた折でもあったのです。そう考えたのは毛沢東ではなく周恩来だったかも知れません。毛沢東の片腕で智謀の人でした。

エドガー・スノーは招聘されて毛沢東とのインタビューを成功させています。そして、周恩来の期待以上に毛沢東を気高い理想主義者、私利私欲のない人物、国民をかってないほどおもいやる人道主義者、と美辞麗句で謳い上げたのです。

毛沢東が革命時に数百万単位の自国民、地主、経営者、商店主、教職員、医師、を問答無用の皆殺しにしたことは隠蔽して、エドガー・スノウの野心作「中国の赤い星」毛沢東革命物語は国と民衆を一途におもいやる英雄譚として、つずられていたのです。

そして、その裏の自国民殺戮の事実を伏せた代償に、スケープゴートにされたのが南京侵攻の(敵)日本兵だったのです。やはり、スノウの筆によるもので、銃を乱射、女子供をレイプ。日本刀を振り回して虐殺・・などと見てきたように書きたてたものでした。

スノー自身は勿論、南京に行ったことはありません。北京にいて頭の中で練って書いたプロパガンダだったのです。戦時には珍しくもない誹謗中傷の類で、その虚実は誰でも知っていることながら、今また「同文」が再利用されていということでしょう。

2016年はアメリカ大統領選挙の年です。中国は好機をうかがっているかに思われます。次期大統領次第では、資金不足で出足が止まっているAIIB(アジア・インフラ投資銀行)にアメリカが参加、つられて日本も参加でまとまった資金が流入し・・中国のアジアへの影響力強化につながるのです。

その他、南沙諸島の軍事基地化や周辺12カイリ領海宣言など、ヨーロッパがすでにそうなっているように、アメリカも干渉を控え、アジアのことはアジアの大国・中国にゆだねるよう、次期大統領には期待するところが大きいのです。