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おぼろ男=おぼろ夜のおぼろ男は朧なり 三佐夫 

小説・エッセー。編著書100余冊、歴史小説『命燃ゆー養珠院お万の方と家康公』(幻冬舎ルネッサンス)好評!重版書店販売。

金銀島捜索船の遭難ービスカイノ一行

2014-03-02 17:00:48 | 小説
ミゲルの消息は、ぷつんと切れて、鯛は子育てをしながらの浜と畑仕事で日々が過ぎて行った。江戸に出た村役が、ビスカイノ一行の耳よりのうわさ話を聞いて来たのは、ミゲルが江戸へ出てからかなりの月日が過ぎたころのことである。
 大御所の許しを得て日本の周りを測量して地図を作っている。その中に日本語の出来る若者がいて、通詞をしているが、どうもその若者は、鯛の亭主のようだ、と言うのである。
 鯛は、その噂を聞いて、またひょっこりとミゲルが現れるのではないかと心待ちにしていたが、その後は何の音沙汰もないままに一年が過ぎようとしていた。
早春の岩和田は春の光に沖からの白波が宝石のように煌めいている。勝男も三歳の春を迎えて、砂浜を元気に走り回っているからお爺は目が離せない。
「お爺さぁん、かつ~お~、今日は~」
と言う大声が聞こえて、立派なエスパニアの服を着たミゲルが立っていた。
「おお、ミゲルさんかい。よう来たねぇ。どうだい、勝男も大きゅうなっただっぺ」
と、お爺さんが、勝男も抱き上げると、駆け寄ってきたミゲルが、勝男の頬ににキスをした。
見慣れない外国人に驚いた勝男は、大声で泣き出してしまった。
ミゲルは
「ごめんなせぇよう、ごめんなせぇよう」
と、勝男の頭をなぜて誤ったが、益々大声で泣いていると、その声を聞きつけて、鯛が走って来た。
「勝男よう、あん(何)で泣いてるんだよう」
と、声をかけて抱きかかえてから、そばにいるとミゲルに気づいた。
「あれっ、ミゲルさん。どうしてここにいるんだい」
と、驚いたのだ。
「鯛さん、ご無沙汰~しておりますよう。ビスカイノさんが~江戸の将軍様にお会いに浦賀から出て来ました。わたしは~おゆるしを~いただいてぇ、岩和田にやって~来たのです」
「ここじゃ話も出来ねぇから家へ寄りなせぇな」
と、お爺さんが声をかけた。
 泣き止んだ勝男も大人たちの後を追いかけて家に向かった。
 浜から帰って来たお父っさんと、おっ母さんが、ミゲルを見て
「あれまぁ、立派な衣装を着て、出世したなぁ」
と、笑顔で迎えた。
 夕食を膳を囲んで、五人の大人と、一人の子供で、賑やかなひと時であった。人が増えたので勝男は、はしゃいでしまって、眠りそうもなかった。
「わたしたちは~昨年、日本の地図を作り、日本の~商人様もお乗せしてぇ~船でアカプルコへ向かったのですが~また、大嵐のために船が壊れて~浦賀へ引き返したのですよう」
「ミゲルさんたちは、それじゃぁ帰れそうもねぇな。あじょすっだい」
と、お父っさんが尋ねると、
「船がないので~困っておりますが~伊達のお殿様が~家来を~エスパニアや~ローマへ~行かせたいと言うので~一緒に帰ろうと~ビスカイノさんは~申しております」
「何も無理して帰らねぇでもよかっぺよ。家に住んだらどうだい」
と、おっ母さん言うと、ミゲルは俯いて黙り込んでしまった


BSフジ「古寺巡礼」?で、法華経とお万の方と宮沢賢治

2014-03-01 19:38:07 | 小説
昨夜、友人からBSフジで1時間番組でお万の方が放送されているという、電話があったので、急いでチャンネルを変えた。
身延山・本遠寺、そして七面山が紹介されていた。よくぞ取り上げてくれた、と嬉しくなりました。
ちょうど、昨日の午後にお万様の生まれたという勝浦市の元市会議長さんが、我が家においでになり、駅のホームにおかれている等身大のお万様の銅像をどうしたらよいか?というお話があったばかりなので、偶然とは言え、今月出版される「命燃ゆー養珠院お万の方と家康公」(幻冬舎ルネッサンス)の支援になると、元気が出ましたよ

正夢

2014-03-01 19:35:25 | 小説
茉莉子がお礼の手紙を送ると、数週間立つて、返事が太郎叔父様より届いた。其の手紙を読んでびっくりしたのは、
「私の湯浅家の家宝と伝えられる小さな袋があります。先祖代々の言い伝えによると、この袋は岩和田で遭難したスペインの船の物だそうです。いつのころにそういう事件があったかは伝えられていませんが、専門家に見ていただいたらヨーロッパの布地だそうです。今度、ハワイにお出での折にお見せします」
と、言う内容であった。
 茉莉子は、背筋がゾクゾクとして怖くなった。
 それは、たしか夢に見たことのある袋のことに違いない。そうだとすると、湯浅家のルーツは、岩和田の浜の娘鯛と、サンフランシスコ号に乗っていたミゲルに辿りつくではないか。「夢は正夢」と言うことを信じなかった茉莉子は、その夜は興奮と怖れでまんじりともしなかった。
 寝不足のぼんやりとした目で朝食の膳を前にして、この話を両親にしてよいものか、どうか、ためらうのであった。
「茉莉子さん、今朝はとても疲れているようですね」
と、母が言うと、父が、
「ハワイの疲れが、今頃出たのかねぇ」
と、新聞に目を通しながらつぶやいた。
「いいえ、何でもありませんよ。昨夜は、ミステリィ作品を遅くまで読んでいて、今朝は睡眠不足です」
と、答えたが、手紙のショックは拭えそうにもなかった。
 午後からは、T先生のアトリエに伺うことになっているので出かけた。
「茉莉子さん。今日は、目が腫れぼったいですなぁ。どうしましたか」
と、心配そうに尋ねた。
「いいえ、あの」
「あの、何でしょうか」
と、先生は、さらに原因を尋ねた。
 茉莉子は、今までの湯浅家のルーツの夢をかいつまんで話した。
 先生は、真剣な目つきで茉莉子の口元を凝視して話を聞いていた。
 話が終わると、
「凄いことがあるものですねぇ」
と、ぽつんと言って、腕組みをしたままであった。
昼下がりの静かな時間が過ぎて行った。
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父母への報告

2014-02-28 19:25:25 | 小説
帰国すると、茉莉子は両親に先ず報告した。
「ねぇハワイの本家は、とてもはやっていますよ。わたしは、お父さんの従兄弟になる方にもお会いしました」
「それは、よかったねぇ。ハワイは、海が美しくて、温かい所だそうだね」
 母が言った。
 父は、
「それで、本家の従兄弟はどんな人だったかな」
 と、尋ねた。
「ええ、戦争にヨーロッパへ行って勲章を大統領からもらったんですって。戦争が終わると夢中で働いて、レストランと食堂をつくったそうですよ」
「それは、大したものだ。僕は日本で東京大空襲にあって、命からがら逃げ惑ったのだが、ハワイに渡った人たちも苦労したんだねぇ」
「わたしは、まだ女学生でしたから兵器工場で働いていましたよ」
「お父さんもお母さんも、叔父さんも戦争では、ひどく苦労したんですね」
「それはそうと、撮影の方はどうでしたか」
と、話題をそらして母が尋ねた。
「空も海もとても綺麗でした。それに日本では売っていないものが沢山お店に並んでいましたからお金があればよい所ですね」
「それで、モデルの仕事は旨く行ったのかい」
と、父が尋ねた。
「T先生は、日本でもトップの方ですからきっと良い写真が撮れたと思いますよ」
「すると、茉莉子は、一流のモデルになれるかも知れないぞ。楽しみだなぁ」
と、言って笑った。
「いやだぁ、お父さんはからかってるんでしょう」
「いやいや、真面目だぞ。早くその雑誌を見たいものだなぁ」
と言うと、お母さんが、
「本当ですねぇ」
と、相槌を打った


442部隊

2014-02-27 19:25:40 | 小説
スタッフも疲労がたまったので翌日は休養日なった。
 茉莉子は、本家のレストランに遅い昼食がてらルーツを尋ねようと思って出かけた。応接間で社長と話をしていると、ぶらりと老人が入って来た。
「やぁお客さんかね」
「パパ、日本から湯浅の分家の娘さんが尋ねて来たのですよ。モデルの茉莉子さんですよ」
 社長の紹介に茉莉子はあわてて立ち上がって、
「湯浅茉莉子と申します。よろしくお願い致します」
と、言って、ぺこりとお辞儀をすると、
「やぁよくお出でになりましたなぁ。わたしは、この店を戦争から帰ってきて始めた太郎です」
「パパは、茉莉子さんのパパとは、どんな関係になるのでしょうか」
と、社長がたずねると、
「あなたのパパは、わたしとは、きっと従兄弟になるでしょうな」
と、言って、遠くを見るような表情をした。
「社長のお爺様と、私の祖父が兄弟ですから親同士は従兄弟ですね」
 社長が、
「お爺様は、よく日本の岩和田を懐かしがっていましたが、パパも私もまだ日本に行ったことはないのですよ」
「わたしは、戦争に行って、帰ってくると夢中になって働いてレストランを出したのですよ。だから日本へ行く暇がありませんでしたし、年を取った父と母を連れて行くこともできなかったのです」
 茉莉子は、驚いて
「太郎パパは、戦争に行ったのですか。この前の日本やドイツとの戦争でしょうか」
「そうですよ。パールハーバーを日本軍が攻撃して、沢山の死者を出しましたからアメリカにいた日本人は、収容所に入れられました」
「それでパパ達青年は、アメリカ軍に志願してヨーロッパでドイツやイタリーと戦ったんだ」
と、社長が付け加えると、太郎パパは本当に悔しそうに
「あの戦争がなければ、日本へも何度も行けただろうなぁ」
と、つぶやいた。
「私たち442部隊の日本人は、勇敢でしたから戦争が終わると大統領から最高の勲章をアメリカ兵よりも大勢いただきましぞ」
「パパもその勲章をもらったんだ」
と、社長はとても誇らしい顔で茉莉子に話した。
「だから収容所にいた日本人もアメリカの人たちに見直されて、私たちの今があるのですよ」
と、太郎パパは胸を張った。
 茉莉子は、まさか観光でにぎわうハワイが、この前の戦争では、ひどい状態だったことを知ったのであった

天女と妖精

2014-02-26 19:49:35 | 小説
その日は、コーヒーをいただき、また会うことを約束してホテルへ帰った。
 夕食の時に明日の撮影予定が助手から話された。もしも虹が出ないようならそれは先送りして、浜辺で波に戯れる茉莉子を撮るので、カラフルな水着を用意する。朝一番で助手と茉莉子で買って来ることになった。
 昼前から撮影を始める。「昼食は終わってからになるので朝食は、なるべく腹持ちのする者を食べておくこと」と、T先生から注意があった。
 この日も、空は薄曇りで虹は出そうもないので、撮影を先送りした。
 水着に着替えて、ホテルのプライベートビーチへ出ると、この日は観光客が少ないようで撮影は順調に進んだ。だが、波打ち際ではしったり、跳ねたりする場面は、何度もやり直しがあって、かなりハードだった。
 くたくたに疲れて、ホテルに戻ると、ベッドで一休みしてからレストランで昼食をとったが、食欲はなかったので、ほとんど残してしまった。T先生は、
「茉莉子さん、もっと沢山食べないとハードな仕事なので寝込みますよ」
と、心配していたが、夕食で補えばよいだろうと茉莉子は聞き流した。
 翌日は、待っていた虹が大きく山の上にかかった。
「ようし、今日は広角と望遠レンズを用意してくださいよ」
と、T先生は助手に指示して、玄関前のタクシーに乗り込んだ。
 この日は先生の教え子でハワイ在住の写真家も二人加わったので活気があった。その二人が行き先をドライバーに指示して、スピードを上げてカメラを構えるのによい場所に向かった。
「空から天女が舞い降りるイメージが良いでしょう。肩に白いショールを羽織って、ひらぁり、ひらぁりと両手を左右に広げてください」
 シャッターを十数回もきって、次は
「それでは、大地の妖精が天空へ飛び立つ姿になってください。バックには火山を入れましょう」
と、先生の要求は、かなり厳しいが、プロのモデルは弱音は吐けないのである。しかも表情は天女や妖精になりきっていなければならないから疲れてしまう。二時間も先生の要求にこたえると疲労感が全身を襲う。
 先生は、その辺は心得ていて、適度に休憩をとってくれるが、それでも大変な撮影であった


出会い

2014-02-25 19:49:06 | 小説
ハワイへT先生のスタッフと一緒に飛んだ茉莉子は、ホテルに入ると真っ先に本家が経営していると言う日本料理のレストランを観光地図で探した。それはショッピング街の中央にあったので、いつでもシャトルバスで行けるので安心した。エアーメールで訪ねることを知らせてあり、撮影の合間に食事がてら訪ねるつもりである。
父からは、
「茉莉子は、日本軍がパールハーバーを急襲したことがもとで太平洋戦争が起こったことを知っているかい」
と、尋ねられたが、高校生の時に学んだだけで、あまり詳しくは知らなかったからこれも暇を見つけて見学しようと考えている。
 写真家の朝は早い。気象条件に左右されて、なかなか狙った写真は撮れないので、チャンスとなれば、いつでも現場に駆けつける。着いた日は、ゆっくりとして時差ぼけを解消しなければならない。特にモデルは睡眠不足と、その日の体調が大事だ。顔の表情と全身の肌艶をカメラは敏感に反映する。しかも写真家は、納得するまで執拗にポーズや表情を要求してくるからそれに応えなければモデル失格なのだ。
「茉莉子さん、明日は山の上にかかるレインボーの反円の下でポーズをいろいろ取るあなたを撮りますからね」
「ただお誂えの虹がかかるかどうかは、保証できませんね、先生」
と、助手が真剣な顔つきで言葉を添えた。
「それは、君ねぇ。あなた方の心がけ次第ですぞ」
と、T先生は笑って答えた。
 あいにくこの日は薄曇りで撮影には無理なので茉莉子は本家のレストランをお昼前に訪ねた。レストランは、日本風の構えの玄関があって、いかにも日本人観光客が入りやすい。
 緊張して玄関を入ると、中年の日本人女性がフロントにいた。
「あのう、湯浅茉莉子と申しますが、社長さんはいらっしゃいますか」
と、言うと、
「おお、マツリコさん。社長は待っていましたよう。ちょっとお待ちくださいな」
と、言って奥へ社長を呼びに行った。
 しばらくすると、アロハを来た長身の男性が、にこにこしながら出てきて、
「やぁ、日本からよくお出でになりましたねぇ。わたしは、湯浅でごぜぇますよ」
と、右手を差し出した。
 茉莉子は、あわてて右手を差し出して、はにかみながら握手をした。
 しっかりとした力強い右手であった。
「どうぞ、マイルームへお出で下さいませよ」
 と、言うと茉莉子の肩を優しく抱いて社長室へ案内した。
木製の椅子とテーブルが部屋の中央に置かれているかなり広い部屋である。社長は
「どうぞおかけ下さいませよ」
と、見かけによらず女性的な優しい声を出した。
「あなたのレターは読みましたよう。それで、とてもハッピーな気持ちになったのでした」
と、喜んでいる。
「突然の手紙をお読みくださり、有難うございます。岩和田と言う漁村で、私の家の本家がハワイにいらっしゃると言うお話をお聞きしたのです」
「あなたのお爺様と、私のお爺様は兄弟なのですね。お爺さんは、ようく私に日本の岩和田の海とハワイの海が似ていると言いましたよ。だから私も一度、岩和田へ行きたく考えておりますよう」
「それは、ぜひお出で下さいませ。わたしは、東京へ住んでおりますが、喜んでご案内させていただきます。」


「浜の娘鯛とミゲル」は明日より掲載の予定。

2014-02-24 19:34:30 | 小説
">「命燃ゆー養珠院お万の方と家康公」(幻冬舎ルネッサンス)の最終校正が予定よりも欲が出て長引いてしまいましたので、明日から小説連載を再開の予定です。このところ、昼は明治2年の岩和田の漁村で起きたアワビ根の権利争いの手書き文書を解読していますが、これはもしかすると文献として貴重な物になるかもしれません。来年度の千葉ふるさと文化大学で話す予定ですので、受講いただければ幸いです。募集要項は、furusatobunka.jp/に掲載中です。font>

小説休載

2014-02-20 17:22:22 | 小説
">連載小説、ご愛読くださりありがとうございます。「命燃ゆー養珠院お万の方と家康公」(幻冬舎ルネッサンス刊)の最終校正のため2~3日休載します。ミゲルは、これからどうなるでしょうか?世界に雄飛を構想中ですからおたのしみにー。 font>