ミゲルの消息は、ぷつんと切れて、鯛は子育てをしながらの浜と畑仕事で日々が過ぎて行った。江戸に出た村役が、ビスカイノ一行の耳よりのうわさ話を聞いて来たのは、ミゲルが江戸へ出てからかなりの月日が過ぎたころのことである。
大御所の許しを得て日本の周りを測量して地図を作っている。その中に日本語の出来る若者がいて、通詞をしているが、どうもその若者は、鯛の亭主のようだ、と言うのである。
鯛は、その噂を聞いて、またひょっこりとミゲルが現れるのではないかと心待ちにしていたが、その後は何の音沙汰もないままに一年が過ぎようとしていた。
早春の岩和田は春の光に沖からの白波が宝石のように煌めいている。勝男も三歳の春を迎えて、砂浜を元気に走り回っているからお爺は目が離せない。
「お爺さぁん、かつ~お~、今日は~」
と言う大声が聞こえて、立派なエスパニアの服を着たミゲルが立っていた。
「おお、ミゲルさんかい。よう来たねぇ。どうだい、勝男も大きゅうなっただっぺ」
と、お爺さんが、勝男も抱き上げると、駆け寄ってきたミゲルが、勝男の頬ににキスをした。
見慣れない外国人に驚いた勝男は、大声で泣き出してしまった。
ミゲルは
「ごめんなせぇよう、ごめんなせぇよう」
と、勝男の頭をなぜて誤ったが、益々大声で泣いていると、その声を聞きつけて、鯛が走って来た。
「勝男よう、あん(何)で泣いてるんだよう」
と、声をかけて抱きかかえてから、そばにいるとミゲルに気づいた。
「あれっ、ミゲルさん。どうしてここにいるんだい」
と、驚いたのだ。
「鯛さん、ご無沙汰~しておりますよう。ビスカイノさんが~江戸の将軍様にお会いに浦賀から出て来ました。わたしは~おゆるしを~いただいてぇ、岩和田にやって~来たのです」
「ここじゃ話も出来ねぇから家へ寄りなせぇな」
と、お爺さんが声をかけた。
泣き止んだ勝男も大人たちの後を追いかけて家に向かった。
浜から帰って来たお父っさんと、おっ母さんが、ミゲルを見て
「あれまぁ、立派な衣装を着て、出世したなぁ」
と、笑顔で迎えた。
夕食を膳を囲んで、五人の大人と、一人の子供で、賑やかなひと時であった。人が増えたので勝男は、はしゃいでしまって、眠りそうもなかった。
「わたしたちは~昨年、日本の地図を作り、日本の~商人様もお乗せしてぇ~船でアカプルコへ向かったのですが~また、大嵐のために船が壊れて~浦賀へ引き返したのですよう」
「ミゲルさんたちは、それじゃぁ帰れそうもねぇな。あじょすっだい」
と、お父っさんが尋ねると、
「船がないので~困っておりますが~伊達のお殿様が~家来を~エスパニアや~ローマへ~行かせたいと言うので~一緒に帰ろうと~ビスカイノさんは~申しております」
「何も無理して帰らねぇでもよかっぺよ。家に住んだらどうだい」
と、おっ母さん言うと、ミゲルは俯いて黙り込んでしまった。
大御所の許しを得て日本の周りを測量して地図を作っている。その中に日本語の出来る若者がいて、通詞をしているが、どうもその若者は、鯛の亭主のようだ、と言うのである。
鯛は、その噂を聞いて、またひょっこりとミゲルが現れるのではないかと心待ちにしていたが、その後は何の音沙汰もないままに一年が過ぎようとしていた。
早春の岩和田は春の光に沖からの白波が宝石のように煌めいている。勝男も三歳の春を迎えて、砂浜を元気に走り回っているからお爺は目が離せない。
「お爺さぁん、かつ~お~、今日は~」
と言う大声が聞こえて、立派なエスパニアの服を着たミゲルが立っていた。
「おお、ミゲルさんかい。よう来たねぇ。どうだい、勝男も大きゅうなっただっぺ」
と、お爺さんが、勝男も抱き上げると、駆け寄ってきたミゲルが、勝男の頬ににキスをした。
見慣れない外国人に驚いた勝男は、大声で泣き出してしまった。
ミゲルは
「ごめんなせぇよう、ごめんなせぇよう」
と、勝男の頭をなぜて誤ったが、益々大声で泣いていると、その声を聞きつけて、鯛が走って来た。
「勝男よう、あん(何)で泣いてるんだよう」
と、声をかけて抱きかかえてから、そばにいるとミゲルに気づいた。
「あれっ、ミゲルさん。どうしてここにいるんだい」
と、驚いたのだ。
「鯛さん、ご無沙汰~しておりますよう。ビスカイノさんが~江戸の将軍様にお会いに浦賀から出て来ました。わたしは~おゆるしを~いただいてぇ、岩和田にやって~来たのです」
「ここじゃ話も出来ねぇから家へ寄りなせぇな」
と、お爺さんが声をかけた。
泣き止んだ勝男も大人たちの後を追いかけて家に向かった。
浜から帰って来たお父っさんと、おっ母さんが、ミゲルを見て
「あれまぁ、立派な衣装を着て、出世したなぁ」
と、笑顔で迎えた。
夕食を膳を囲んで、五人の大人と、一人の子供で、賑やかなひと時であった。人が増えたので勝男は、はしゃいでしまって、眠りそうもなかった。
「わたしたちは~昨年、日本の地図を作り、日本の~商人様もお乗せしてぇ~船でアカプルコへ向かったのですが~また、大嵐のために船が壊れて~浦賀へ引き返したのですよう」
「ミゲルさんたちは、それじゃぁ帰れそうもねぇな。あじょすっだい」
と、お父っさんが尋ねると、
「船がないので~困っておりますが~伊達のお殿様が~家来を~エスパニアや~ローマへ~行かせたいと言うので~一緒に帰ろうと~ビスカイノさんは~申しております」
「何も無理して帰らねぇでもよかっぺよ。家に住んだらどうだい」
と、おっ母さん言うと、ミゲルは俯いて黙り込んでしまった。