"「お坊様よう。土左衛門が、いっぺぇ浜に打ち上げられているだよ。来てくんなせぇよ」
坂道を若者が、大声を上げて駆け上がってきた。
勝男の親代わりの坊様も、もう八十歳を越えて、昔のようなわけには行かないが、それでも村の子供たちに読み書きを教えたり、法事のお勤めをしたりしている。特に勝男がオランダ医学を勉強してきて、村人たちから「医者どん」と呼ばれて、有難がられているのをわが子のことのように喜び、誇りにしている。
「そうか。案じておったが、死者が多数出たのじゃな。それでは、浜で荼毘にふすから手の空いておる者は手伝うように呼び集めておきなさい。それに流れ着いた流木を山のように積んでおくのじゃぞ」
と、命じて、坂を杖付きながら下りて行った。
入れ替わりに
「医者どんの先生さま。浜に虫の息の子供らや、女たちが寝転がっておるよう。今のうちなら助かるかも知れねぇから来てくだせぇな」
と、また村人が息を切らせて呼びに来た。
「ようく知らせてくれたのう。すぐに行くから水を用意しておきなさい。田尻の浜の崖から水が湧き出ておるから桶をもって行くとよいぞ」
と、行って、大急ぎで山を下りた。
この村の者たちは、医者どんの先生の機転でみんな助かったが、隣近所の浜の者たちは、ほとんどの者が大波に浚われて、助かったものはわずかであった。
そうこうしているときも余震が襲って来て肝を冷やすのであった。
医者どんの先生と、お坊様は、被災した村人たちが、お寺や医療所で雨露をしのぎ、生活できるように指示したので救われた。
茉莉子の幻想は、祖先が人々の役に立っているところまで進んでとどまりそうもない
坂道を若者が、大声を上げて駆け上がってきた。
勝男の親代わりの坊様も、もう八十歳を越えて、昔のようなわけには行かないが、それでも村の子供たちに読み書きを教えたり、法事のお勤めをしたりしている。特に勝男がオランダ医学を勉強してきて、村人たちから「医者どん」と呼ばれて、有難がられているのをわが子のことのように喜び、誇りにしている。
「そうか。案じておったが、死者が多数出たのじゃな。それでは、浜で荼毘にふすから手の空いておる者は手伝うように呼び集めておきなさい。それに流れ着いた流木を山のように積んでおくのじゃぞ」
と、命じて、坂を杖付きながら下りて行った。
入れ替わりに
「医者どんの先生さま。浜に虫の息の子供らや、女たちが寝転がっておるよう。今のうちなら助かるかも知れねぇから来てくだせぇな」
と、また村人が息を切らせて呼びに来た。
「ようく知らせてくれたのう。すぐに行くから水を用意しておきなさい。田尻の浜の崖から水が湧き出ておるから桶をもって行くとよいぞ」
と、行って、大急ぎで山を下りた。
この村の者たちは、医者どんの先生の機転でみんな助かったが、隣近所の浜の者たちは、ほとんどの者が大波に浚われて、助かったものはわずかであった。
そうこうしているときも余震が襲って来て肝を冷やすのであった。
医者どんの先生と、お坊様は、被災した村人たちが、お寺や医療所で雨露をしのぎ、生活できるように指示したので救われた。
茉莉子の幻想は、祖先が人々の役に立っているところまで進んでとどまりそうもない