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熟年オジサンの映画・観劇・読書の感想です。タイトルは『イヴの総て』のミュージカル化『アプローズ』の中の挿入歌です。

顔 Face

2003-01-16 | 読書
昨年は「半落ち」で各種ミステリー小説のベスト・ワンを総なめにし、いまや絶好調の横山秀夫。本作も昨年の出版だが、若い婦警を主人公とした、読み応えある連作警察小説である。

ヒロイン・平野瑞穂は少女時代からの夢を実現させて憧れの婦人警察官になった。特技の似顔絵描きを活かして鑑識課に所属していたが、上司から写真から似顔絵を模写するよう強要され、持ち前の正義感と警察組織の論理とのギャップに悩み深く傷つき、休職した経験を持っている。そんな瑞穂が復職後に配属された、広報室、被害者支援対策室、捜査一課と経験し、先輩の婦警、刑事たちとの交流で人間的にも大きくなってゆく成長物語でもある。

プロローグとエピローグに挟まれた5つの連作の中で最も読み応えがあるのは、最後の「心の銃口」だ。他がせいぜい50ページ以内なのに対して、この章は倍の100ページある立派な中篇ミステリー小説となっている。他の4章がどちらかと言えば瑞穂の心理的な謎解きに主題が置かれているが、「心の銃口」は横山秀夫の警察小説には珍しく、クライマックスにヒロインが生命の危機に遭遇するアクション場面まで用意されてハラハラする。
「半落ち」の志木刑事に続き、新たなヒロイン・似顔絵描き、平野瑞穂の誕生である。
(2003-1-26 butler)


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