出産後、諸々の処置を済ませ少しだけ初乳をあげると、赤ちゃんは新生児室へ、私は入院室へ戻った。
病院スタッフがディアッカや親達、はてはアスハ代表やクライン議長にまで連絡したので、モバイルにはたくさんのお祝いメッセージが届いていた。こんなにも多くの人に祝福される幸せを噛みしめる。
ディアッカはよほど舞い上がっていたのか、「すぐ8k!]と変なメールを送ってきていた。
思わずクスリと笑ってしまう。狡猾と言われた赤服も形なしだ。
「少しお休みになってくださいね。明日からは~ 」
そう言う看護師の言葉を最後まで聞くまでもなく、深い眠りに落ちていった。
ぴたん… ぴとん…
水音がする。
ひんやりとした風を感じた。
ゆっくり瞼を上げると、ディアッカが冷たいシートで額の汗を拭いてくれていた。
「身体、大丈夫か?」
「うん、大変だったけど、今は落ち着いた。」
「がんばったな、お疲れさん。赤ちゃん、見てきた。可愛かった。産んでくれてありがとう。」
ディアッカは私の左手を取り、指にキスした。
「私こそ、赤ちゃんを授けてくれてありがとう。」
お互い見つめあって、幸福な時間を分かち合った。
ノックが響き、主治医のヨハンセン博士と看護師が入ってきた。ディアッカへタオルと温かいコーヒーを持ってきてくれた。
床には雨に濡れたディアッカの髪から落ちた水滴が水玉模様を作っていた。
医師達に感謝の言葉を述べると、簡単な体調チェックと問診を受けた。
「予定より早い出産でしたが、人それぞれですから、気にすることはありませんよ。嵐の夜に日をまたいでの出産となりましたが、雷神トールと豊穣神フレイの祝福を受けたと考えればいいんですから。」
一瞬息が止まる。
「トール? フレイ?」
「昨日木曜日Thursdayは雷神トールに、今日金曜日Fridayは豊穣神フレイに由来してるんです。二人の神様の加護があるから、お子さんはきっと健やかに育ちますよ。」
ディアッカが私の頬を指でなぞった。
私は泣いていた。
「あの、何か気に障ることでも言いましたか?」
医師が不安げに尋ねる。
「いいえ! 嬉しいんです。遠い異国の神様達にも見守られていると思うと…」
言葉に詰まり溢れる涙を抑えようと、手で顔を覆う。ディアッカがタオルを渡してくれる。
「イザークが聞いたら、喜びそうな話だな。そのうちフィールドワークに来るとか言い出しそう。」
苦笑したディアッカは、医師達に向き直り、あらためて礼を言う。
「この国で出産できてよかったです。皆さんのご協力に感謝します。この国の神様たちにも。」
安堵した医師達は、次の授乳時までは休むよう指示し退室した。ディアッカも朝に来ると言い残して部屋を出た。
いつしか雨は止み、夏至の夜空は早や明け始めていた。
補足:北欧神話の雷神トールを表す古代文字は現代のアルファベットには無い。
独語圏ではtを代用し「tor」(トール)、英語圏ではth を代用し「thor」(ソー)
以上Wikipediaから。
病院スタッフがディアッカや親達、はてはアスハ代表やクライン議長にまで連絡したので、モバイルにはたくさんのお祝いメッセージが届いていた。こんなにも多くの人に祝福される幸せを噛みしめる。
ディアッカはよほど舞い上がっていたのか、「すぐ8k!]と変なメールを送ってきていた。
思わずクスリと笑ってしまう。狡猾と言われた赤服も形なしだ。
「少しお休みになってくださいね。明日からは~ 」
そう言う看護師の言葉を最後まで聞くまでもなく、深い眠りに落ちていった。
ぴたん… ぴとん…
水音がする。
ひんやりとした風を感じた。
ゆっくり瞼を上げると、ディアッカが冷たいシートで額の汗を拭いてくれていた。
「身体、大丈夫か?」
「うん、大変だったけど、今は落ち着いた。」
「がんばったな、お疲れさん。赤ちゃん、見てきた。可愛かった。産んでくれてありがとう。」
ディアッカは私の左手を取り、指にキスした。
「私こそ、赤ちゃんを授けてくれてありがとう。」
お互い見つめあって、幸福な時間を分かち合った。
ノックが響き、主治医のヨハンセン博士と看護師が入ってきた。ディアッカへタオルと温かいコーヒーを持ってきてくれた。
床には雨に濡れたディアッカの髪から落ちた水滴が水玉模様を作っていた。
医師達に感謝の言葉を述べると、簡単な体調チェックと問診を受けた。
「予定より早い出産でしたが、人それぞれですから、気にすることはありませんよ。嵐の夜に日をまたいでの出産となりましたが、雷神トールと豊穣神フレイの祝福を受けたと考えればいいんですから。」
一瞬息が止まる。
「トール? フレイ?」
「昨日木曜日Thursdayは雷神トールに、今日金曜日Fridayは豊穣神フレイに由来してるんです。二人の神様の加護があるから、お子さんはきっと健やかに育ちますよ。」
ディアッカが私の頬を指でなぞった。
私は泣いていた。
「あの、何か気に障ることでも言いましたか?」
医師が不安げに尋ねる。
「いいえ! 嬉しいんです。遠い異国の神様達にも見守られていると思うと…」
言葉に詰まり溢れる涙を抑えようと、手で顔を覆う。ディアッカがタオルを渡してくれる。
「イザークが聞いたら、喜びそうな話だな。そのうちフィールドワークに来るとか言い出しそう。」
苦笑したディアッカは、医師達に向き直り、あらためて礼を言う。
「この国で出産できてよかったです。皆さんのご協力に感謝します。この国の神様たちにも。」
安堵した医師達は、次の授乳時までは休むよう指示し退室した。ディアッカも朝に来ると言い残して部屋を出た。
いつしか雨は止み、夏至の夜空は早や明け始めていた。
補足:北欧神話の雷神トールを表す古代文字は現代のアルファベットには無い。
独語圏ではtを代用し「tor」(トール)、英語圏ではth を代用し「thor」(ソー)
以上Wikipediaから。
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