母親ではない人であったとしても、母親のいない人はいません。
みーんな、母親から生まれてきました。
子育てが一段落して、やっと自分の時間が持てるのも束の間、
やがて自分の親や配偶者の親が老い、好むと好まざるとに関らず、
再び親子の繋がりを深めることになります。
昔は惣領息子が「家」を継ぐと同時に「親」も引き取ったの
でしょうが、現代では兄弟が少なく一人っ子も多いですから
親の老いとどう向き合うか、誰しも共通のテーマでしょう。
わたしの母は、父が亡くなったあと(もう、5年近くなりますが)
ひとりで暮らしています。
もう80代も半ばを過ぎ、いくら元気だからといっても
ひとり暮らしをさせておくのは、娘として気がかりです。
もういい加減、兄一家と一緒になってほしいと思うのですが、
当人は、やんわりとした言葉づかいで、しかし毅然とした態度で
「動けなくなるまでは、このままで」と主張します。
先日、お天気の良い日に、たまたま約束していた打ち合わせが
キャンセルになったため、実家に電話してみました。
「いいお天気だから、外でお昼をしましょうよ」と誘うと
はじめのうちは面倒そうな口ぶりでしたが、しばらく話すうちに
「じゃあ、出かけてみようか」ということになり、最寄り駅のホーム
で待ち合わせました。
母はわたしに言われたとおり、下りホームの待合室でちょこんと座って
わたしを待っていました。
まるで、母親の帰りをまつ幼子のように、です。
1か月前に会った時より、また一回り小さくなったような気がします。
一緒にお昼を食べたあと、「ちょっとお茶したい」と言い出し、
デパートの一角にある喫茶室に案内してくれました。
そこは大きな窓から、丹沢の山々が見渡せるすばらしいロケーション!
母は、「いつもお父さんとここへ来たの。いつも、だいたいあの席。
今日は、空いてないわねえ」と言いながらも、静かに外を眺めています。
「お父さんがいなくなったあとも、ひとりで時々ここへ来るの」
えっ? そんなこと知らなかった…。そうかあ、お母さん、
ひとりでこの場所に座ってるのかあ。
「お父さん、あっちの世界でどうしてるかねえ」と、返事を期待せずに
話しかけると、
「もう、会えないからねえ」
とさみしそうに微笑みました。
父の部屋を生前のままにし、父と暮らした場所を離れようとしない母。
「仕事で忙しいのに、つき合わせて悪かったね…。ありがとうね」
別れ間際、事務所へ戻るわたしに
母は、ホームから小さく手を振っていました。
いつかやってくるであろう、母と「もう会えなくなる日」を痛切に思い、
それでも、次世代へ命をつないでいく母親という存在の大きさおもう
秋の夕暮れでした。
みーんな、母親から生まれてきました。
子育てが一段落して、やっと自分の時間が持てるのも束の間、
やがて自分の親や配偶者の親が老い、好むと好まざるとに関らず、
再び親子の繋がりを深めることになります。
昔は惣領息子が「家」を継ぐと同時に「親」も引き取ったの
でしょうが、現代では兄弟が少なく一人っ子も多いですから
親の老いとどう向き合うか、誰しも共通のテーマでしょう。
わたしの母は、父が亡くなったあと(もう、5年近くなりますが)
ひとりで暮らしています。
もう80代も半ばを過ぎ、いくら元気だからといっても
ひとり暮らしをさせておくのは、娘として気がかりです。
もういい加減、兄一家と一緒になってほしいと思うのですが、
当人は、やんわりとした言葉づかいで、しかし毅然とした態度で
「動けなくなるまでは、このままで」と主張します。
先日、お天気の良い日に、たまたま約束していた打ち合わせが
キャンセルになったため、実家に電話してみました。
「いいお天気だから、外でお昼をしましょうよ」と誘うと
はじめのうちは面倒そうな口ぶりでしたが、しばらく話すうちに
「じゃあ、出かけてみようか」ということになり、最寄り駅のホーム
で待ち合わせました。
母はわたしに言われたとおり、下りホームの待合室でちょこんと座って
わたしを待っていました。
まるで、母親の帰りをまつ幼子のように、です。
1か月前に会った時より、また一回り小さくなったような気がします。
一緒にお昼を食べたあと、「ちょっとお茶したい」と言い出し、
デパートの一角にある喫茶室に案内してくれました。
そこは大きな窓から、丹沢の山々が見渡せるすばらしいロケーション!
母は、「いつもお父さんとここへ来たの。いつも、だいたいあの席。
今日は、空いてないわねえ」と言いながらも、静かに外を眺めています。
「お父さんがいなくなったあとも、ひとりで時々ここへ来るの」
えっ? そんなこと知らなかった…。そうかあ、お母さん、
ひとりでこの場所に座ってるのかあ。
「お父さん、あっちの世界でどうしてるかねえ」と、返事を期待せずに
話しかけると、
「もう、会えないからねえ」
とさみしそうに微笑みました。
父の部屋を生前のままにし、父と暮らした場所を離れようとしない母。
「仕事で忙しいのに、つき合わせて悪かったね…。ありがとうね」
別れ間際、事務所へ戻るわたしに
母は、ホームから小さく手を振っていました。
いつかやってくるであろう、母と「もう会えなくなる日」を痛切に思い、
それでも、次世代へ命をつないでいく母親という存在の大きさおもう
秋の夕暮れでした。