佐久良私語 さくらのささめごと

佐久良私語は櫻斎宗匠の折々の思いを綴ったものです。

聖フランシスコ・ザビエル像   2014 年3 月2日

2014-04-30 08:28:12 | キリシタン編

 今年は、徳川家康によるキリシタン国外追放令を受け、マニラに退去したキリシタン大名高山右近の四百年(仏式)忌にあたります。以前から高山右近に興味を持ち、昨9 月には終焉の地マニラに友人と訪ねました。今回はその遺徳を偲びカトリック高槻教会で顕彰ミサに参加しました。引き続き高槻現代劇場文化ホールでパネルディスカッションに出席しました。初めてのミサはいろいろと勉強になりました。

 午後からは茨木市千提寺の茨木市立キリシタン遺物資料館を訪れました。当資料館は千提寺・下音羽地区のキリシタン遺物を公開するために、千提寺地区から土地の提供を受け、茨木市によって建設された施設です。この地域はかって高山右近の領地でキリシタン信徒が多数住居していました。禁教後も隠れキリシタンとしてこの山奥の地で密かにその信仰を守り続けた人々がいました。大正8 年(1919)教誓寺住職でキリシタン研究家の藤波大超が千提寺でキリシタン墓碑を発見し、翌年には東藤次郎氏の母屋屋根裏の梁に括り付けていた「あかずの櫃」の中から「聖フランシスコ・ザビエル像」はじめ「マリア十五玄義図」、「木製キリスト磔刑像」等を見つけ出しました。その後も下音羽地区の大神家や原田家などからもキリシタン遺物が発見されました。

 ザビエルにも以前から興味があり、マカオにその右手を見に行き、先日はザビエルが日本に来るきっかけをつくった薩摩の人弥次郎との出会い場であるマラッカを友人とたずねました。ザビエルはその後の日本に多大な影響を与えた人物として前々から注目していました。

 中学・高校の日本史教科書に参考資料として必ず掲載されている像として著名な「聖フランシスコ・ザビエル像」は、解説によると、ザビエルがマントの下から両手を十字形に交錯して出し、その右手の3本指で軽く押さえている赤い心臓をかたどったものに、キリストを磔にした十字架がつきたてられていて、その十字架の上端にはI・N・R・I の4文字があらわされている。この4文字は、「ユダヤの王ナザレのゼスヌ」を意味する語の頭文字である。また、十字架のやや下の方には、耶蘇会(イエズス会)の紋章の略字I・H・S( 耶蘇、人類救済者の意味) が印されている。ザビエルの口から発しているサチス(SATIS) エスト(EST) ドミネ(DNE・・・) とあるなかで、サチス エストというラテン語は、日本語では「十分なり主よ十分なり」ということを意味し、ザビエルは仏教徒の唱える念仏のように毎日、これを口にしたといわれている。なお、現在この像は神戸市立博物館の所蔵になっています。

 管理人の東さんというご夫人がご親切にこの像が発見されたのちの逸話を話してくれました。それによると、神戸の兵庫の町の名家の主人で育英商業学校の校長で、南蛮美術品を蒐集家の池長孟氏が、長年熱望の的であったこの像を、藤波大超氏を通じて譲ってほしいと懇願してきたそうです。東藤次郎氏は先祖代々大切に守り伝えてきたものなので絶対に譲る気はなかったのだけれど、藤波氏の顔もあるので
決して買わない値段ということで、2 万5 千円の高値をつけました。そうすれば池長氏もあきらめるだろうとの思いからの値段だったのです。ところが池長氏は垂水の別荘を処分してお金を作ったそうで、東氏も手放さざるをえなくなり、ついに池長氏はその悲願をかなえることになったとのことです。

 なお、池長氏は「神戸のような国際大都市にして、美術館の一つも持たないということは、国民教養の程度も察せられて大きな国辱である」と考えて、自分で美術館を作り、コレクションを一般に公開しました。ところが戦争のためついに閉鎖し、戦後、コレクションの散逸を恐れ、美術館を神戸市に譲り現在の神戸市立博物館となっています。こうしたことから「聖フランシスコ・ザビエル像」は今日神戸市立博物館
の所蔵になっているのです。

 ちなみに心ならずも2 万5 千円もの大金を手にした東藤次郎氏は、先祖が命に代えてでも守り伝えた画像を手放した罪悪感からこのお金には決して手を付けず、未来永劫子々孫々に保存するようにと銀行に預けたそうです。その時の池長氏の證とその封筒が資料館の玄関脇にさりげなく額に入れて置かれていました。その封筒の表には「金貳万五千圓/ザビエル聖人遺物書類在中/金確一切使用を禁ず」裏面には「賣付金貳万五千圓也/此金確子孫ニ継ぎて保存スル事?一切使用を禁ズ/嗣者/東五作/昭和十年十二月十六日」と息子の五作氏が記しています。当時の東家の人々の思いを察しても余りあります。その後、この金は一切手を付けず守っていくのですが、昭和21 年(1946)の金融緊急措置令をはじめとする新紙幣(新円)の発行、それに伴う従来の紙幣流通の停止などに伴う通貨切替政策である新円切替により。驚くほど価値がなくなってしまったのだそうです。
 
 現大阪大司教レオ池長潤氏はなんと2 万5 千円の大金をはたいて「聖フランシスコ・ザビエル像」を手に入れた池長孟氏のご子息だそうです。また、私たちにまことに親切に解説して下さり、また展観物の題簽にも記していない裏話を聞かせてくれたご夫人は、現東家夫人でした。

 いつも思います。本当に縁というものは不思議なものです!






































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