僕は「ちゅう太郎」。
生まれは東京港区の高級住宅街、ビルの地下2階。
まだこの年で人生の方向性も見えず、さまよう毎日です。
先日、
僕の上階(地下1階)に住む方のお屋敷のドアが開いているのを見つけ、
ちょっとお宅拝見、ってな具合にお邪魔しました。
そこは、僕が見たことも無いお屋敷で、
人生の方向性を見失っていた僕には、もう最高の場所でした。
見る物総てが物珍しく、楽しい毎日が始まりそうでした。
やはり高級住宅街に生まれ、僕のように生まれも見た目も良ければ、
人生、幸せのレールは必然と敷かれているもの・・・
と思っていましたが、
しかし、どこを探しても食べ物は無く、
帰り道も閉ざされてしまっています。
必死に帰り道を探していると、
翌日明け方4時頃、大家さんがいきなり御帰還!
ドアに向かうにも大家さんの前を通らなければならず、
どうしようと迷いながらも、
ここは一番、若さとバネの走りでひとっ飛びと大家さんの目の前を猛然と走り抜け、
一時避難をしました。
大酒飲んで帰宅の大家さんは、
僕を見るなり目を2~3回こすり、
何があったのかと呆然と立ちすくんでいます。
ふーっ 危なかった。こんな時間に帰って来るなんて・・・
しかし、よく考えてみると、
大家さんはここに住んでいるのでは無く、
時々現れては去っていく、
そんな場所であることに気づきました。
これなら入り口に待機し、
次に大家さんが御帰還の時、さっと外に飛び出せば・・・
と考え、室内探索を楽しんでいました。
しかし、なかなかそのチャンスにも出会えず3日目の夜、おなかも空き
「早く帰りたいなぁ」と思っていると、
なんと!!
あちらこちらにチーズ、高級パン、ソーセージなどが置かれているではありませんか。
ふーむ、これはおかしいぞ。
さすがに人生経験の少ない僕でも悟りました。
これは大家さんの策略だ。
ここは少し注意深く行動をとらなくては・・・。
チーズやパン、ソーセージの周りを確認すると、
昨日までの状態とは少し違う気がしました。
少し変だなぁ。よしっ、パンをめがけてひとっ飛びしてみました。
難なくパンに到達し、食べてみると、
この食パンなかなかの味。
どうも最近テレビやネットで話題の
銀座1丁目「セントル ザ・ベーカリー」のパンらしい。
ここの大家さん、僕と味覚が似ているのかな。そんな事を考えながら、
おなかいっぱいパンを食べ、またしてもひとっ飛び。
ドアの外に出られるまで毎日パンを食べたいなぁ・・・
と思いながら少し食休みをしていると、
「ガチャ」!!
大家さんの御帰還だ!!
大家さん、昨日置いたパンを確認、
無くなっている事に気づき、
しばらくその場にしゃがみ込み考えているようです。
僕がひとっ飛びしてパンの周りの変な仕掛けを乗り越えていることを、
不思議に思っているようです。
僕はそーっと部屋の隅に隠れ、
満腹のおなかをかかえ、眠りにつきました。
翌日も、また翌日も同じ事の繰り返し、
毎日大家さんはしゃがみ込んで考えていました。
そんなある日、いつものようにパンにひとっ飛び。
満腹になり隠れ場所へ帰ろうとしたとき、
毎日同じ事に安心した僕は少し違ったコースから帰ろうと・・・
帰途についた時です。
ペタッ。
足を滑らせ、大家さんが敷き詰めている物の上に落ちてしまいました。
体はべたりと敷物に付き、身動き出来ません。
必死に抜けだそうと数時間もがき続けました。
そんな時、大家さんが御帰還です。
「ガチャ」入って来るなり弱り切った僕を見、寂しそうな顔をし、
ずっと立ちすくみ、僕を見つめていました。
気が薄れていく中で・・・
あの時ドアよりこのお屋敷に入らなければ・・・
毎日美味しくいただくパンに魅了されなければ・・・
若さとバネのある自分におごらなければ・・・
自分の人生のツキを信じなければ・・・
と、思いつつ生涯を閉じる事になりました。
先日、アメリカミネソタ大学の研究で、
ネズミにも後悔の念があることが発表されました。(ネズミの後悔)
「まさかネズミにも後悔があるなんて」と驚き、
大家さんは僕の供養に、
「大黒天」にお参りに行ったそうです。
(大黒天=財福の神と言われ、米俵に乗り大きな袋・打ち出の小槌を持っている。
僕は昔から、大黒天さんの使いと言われ俵の上に乗っている。)
後悔の無い人生を送りたいものです。
あーッ ウイスキーでもグビッと飲っか!!