カラダを科学する本格的整体ブログ

人間のカラダのおもしろさを、生命科学、スポーツコーチング、認知心理学、動物行動学など、越境しながら学ぶ未来派整体術。

均整師の眼 01

2008-08-18 07:08:49 | Weblog

「ただしい姿勢が健康の基礎である」。
この言葉は、ともて分かりやすく、それほど間違ってもいないでしょう。
でも「ただしい」っていったいどういうことなんだろう?
許容範囲はどのくらいなのだろう? …云々。
突き詰めてみると、疑問はつきません。

じつは、わたしたちの身体は、歪むように出来ています。
歳をとる、仕事や生活環境が変わる、その一つ一つにうまく適応してこその身体なのです。
「生きる」ために柔軟に姿勢を「使い分ける」、こういった方がぴったりきます。

たとえば、歳をとると骨重量が落ちます。
これは、姿勢にとってマイナスでしょうか?
少なくとも、筋力が衰えるなかで一定の運動能力を保つためには、けっしてマイナスではありません。

たとえば、ウサギは骨重量を軽くして高い運動能力を保つ生き方を選んだ生き物です。
骨折しやすいという弱点もありますが、本気で走るとかなり速い。これは、肉食獣や猛禽類の手から逃れ、素早く巣穴に潜り込むために、大切な能力です。
骨の軽さは、ウサギにとって生きてゆくための不可欠な要素なのです。

「ただしい」という言葉には、どうも価値判断が伴います。
姿勢の善し悪しを机上の神学論争にしないために、わたしは「比較運動学」のようなものをたえず心がけています。
つまり、他の多くの生き物のなかで、生存競争によって鍛えられ形づくられてきた「人類の身体」に目を向けてみようというわけなのです。

人類の身体に残された進化の痕跡には、価値判断ぬきに多くの「考えさせる要素」があります。人の身体運動や関節の状態と読み解く上で、多くのヒントを与えてくれるのです。

たとえば、わたしたちの足関節にも、大きな進化の痕跡が残されています。
その一つは、指先立ち(趾行性といいます)とかかと立ち(おなじく蹠行性)を使い分けらえるような関節のつくりです(上図)。
指先立ちは、早く駆けるのに適し、短距離のときには誰もが無意識にとる足関節の形態です。イヌやネコなど肉食獣の多くが採用している構造です。

一方、かかと立ちは、足指を自由に使うのに適しています。通常のわたしたちの足関節の状態です。マラソンなど長距離走の選手も、このような足関節の使い方をしています。おもに霊長類が採用している足関節の構造です。

イヌやネコは足の指を自由に使うことが出来ません。そのかわり鉤爪(かぎづめ)を発達させました。鋭い爪を引っ掛けて獲物を捕えたり木登りをします。わたしたちは、チンパンジーのように足指を自由に使うことはで来ません。しかし、足の爪は平爪です。これは、指を自由に使うことを想定した造りです。

こう考えてみるとどうでしょう?
わたしたち人類は、チンパンジーのように木登りが得意ではない。
でも平地の上で長時間二本足で立っていることができる。そのためには、足裏にのびる血管や神経が十分に発達し、なおかつ直立姿勢からくる圧迫から解放されていなければならない。

その結果、足指こそ不自由なものの、斜面でも、岩上でも、洞くつのなかでも、長時間、手を自由につかってありとあらゆる作業をおこなうことが出来る足関節の構造を身につけたのだと。

短い時間であれば、指先立ちになってかなり速くかけることもできる。これは、大きな肉食獣に襲われて逃げる時や、逆に他の生き物を追い掛けて捕らえるためには、とても便利な大切な運動能力だ。

このような足関節の構造は、森で暮らす人々「森の民」の生活の仕方に、ぴったりとフィットしたものであることがわかります。

人類の足関節の造りは、こういった生活の、おそろしく長い時間の積み重ねのなかで磨き上げられてきたのではないでしょうか?

たとえば、足半(あしなか)という履物があります。高度成長前、日本の農村ではわらじづくりが農閑期の副業の一つとなっていたと思います。日常の生活では、足半のような、つま先部分をカバーするものが多く用いられていた思われます。

最近では、健康法として、注目されているようです。

わたしたちは、職業上、こういったさまざまな点をふまえて、足関節の構造や弱点、歪みの表れ方というものを読みといてゆきます。形やバランスにくずれるには、それなりの理由があります。合理的な力の逃れ方、バランスの崩れ方といったものがあるのです。

たんに机上で平行と垂直を見て、機械的に「正しい姿勢」を見分けているのではないのです。ここに日本で培われてきた伝統的な技術のすぐれた点があるのです。

これはまた、次回に。

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