カラダを科学する本格的整体ブログ

人間のカラダのおもしろさを、生命科学、スポーツコーチング、認知心理学、動物行動学など、越境しながら学ぶ未来派整体術。

均整師の目02

2008-08-23 08:05:26 | Weblog




(前回、リンクの貼り方に問題あってご迷惑をおかけしました。以降、気をつけます。
日常的な姿勢の歪みとからめて、足首のつくりをもう少し深めてみましょう。

じつは、足先のつくりは同じ哺乳動物でもかなり多様です。哺乳類は単弓類という共通の爬虫類をから枝別れした動物群ですから、このような足先の多様性は、それぞれの種が歩んできた進化の痕跡を伝えているのです。

わたしたちを含めて動物の筋肉は、いく筋にも重なりあって働いています。
表層の筋肉は広い領域をおおい、多くの関節をまたいでいます。
深層の筋肉は狭く限局された領域をおおい、1つか2つの関節をまたいでいます。

カバーする領域の広さから表層の筋肉は多関節筋と呼ばれ、身体を曲げるとか、ボールを投げるとか、比較的大きな身体の動きを生み出します。
これに対して深層の筋肉の多くは単関節筋です。
単関節筋とは、1つの関節をカバーする筋肉という意味です。関節1つ分ですから、動きといってもかなり限定されます。
とくに脊椎骨に付着する深層の単関節筋(多裂筋とか回旋筋といいます)などは、関節の構造上、動作と呼べるほどの可動範囲がありません。
「動かす」というより、むしろ関節を「固定する」といった方がふさわしいのです。

表層筋と深層筋にはどのような働きの違いがあるのでしょう?
水族館でカツオなどの泳ぎを見てみますと、通常の泳ぎでは胴体をぷるぷると振動させるように動かしています。
一方、とっさに向きをかえるとか、一気にスピードをあげる時は、大きく身体をしならせて、大きく尾ビレを使います。

通常の泳ぎ(胴体のぷるぷる)をささえているのが、おもに脊椎に密着した深層の筋肉です。
この筋肉群は、遅筋と呼ばれる筋繊維を多く含んでいて、反応の速度は遅いけれども疲れにくいという性質を持っています。

これに対して、素早い身のこなしを作り出すのが表層の筋肉です。
この筋肉群は、対照的に速筋と呼ばれる筋繊維を多く含んでいて、刺激に対して素早く反応するけれども疲れやすいという性質を持っています。

水中で生活するカツオには、体重を支えるために関節を固定する能力はほとんど必要ありませんが、陸上の生き物ではそうはいきません。
重力にうちかって身体を動かさなければ、食べ物を取るも出来ませんし、生殖活動の相手にめぐりあうことも出来ません。
陸生の動物は、生きてゆく必要から、自然に骨格が頑丈になり、関節を固定するために深層の筋肉群が発達したのです。



前回紹介した「つま先立ち」の走りと、「かかと立ち」の歩き。両者の違いを形づくるのもこの深層の筋肉群です。

じつは、「つま先立ち」の状態では、足首の関節に「遊び」があります。
関節が不安定で不用意な外力を受けるとぐにゃりと折れ曲がってしまいやすい状態です。当然、長時間の使用には耐えられません。無理をすれば関節そのものを故障するリスクが高いのです。

これに対して、「かかと立ち」の状態は、関節の遊びが少なく長時間使用してもそれほど負担ではありません。関節を故障するリスクもほとんどないといってもよいでしょう。

関節に「遊びがある」とはどういう状態かというと、骨と骨とを結合している関節の包みや靱帯にたるみ(余裕)があって、筋肉の力をつかって頑張らないと関節を固定できないということです。

かかとをつけた直立姿勢は、つま先立ちにくらべてかなり遊びの少ない状態です。しかし、まったく遊びがない訳ではありません。じつは、これにも大きな理由があるのです。

もし、完全に遊びがなければ、坂道にまっすぐ立つことができなくなります。でこぼこ道を歩くには難儀をするし、石や木に片足をかけたり、高いところにかけ昇るのに、たいへんな困難が伴うでしょう。

人間の生活様式にとって、たいへん不便なのです。わたしたちの足首のつくりは、二足で歩いて手を自由につかう生活に都合よくできているのです。

関節の遊びをなくすためには、足首を90°の状態からさらに深く曲げなければなりません。
限界まで曲げて、つま先が上にあがった状態です。
こうすると、足の裏は少し内向きに傾きます。そして、骨と骨を結合している靱帯にしっかりと張力がかかり、足首が安定した「遊びのない」状態になるのです。





スポーツを見ていると、強いけり出しや足首の支えを必要とする場面で、意識的にこのような足首の使い方(最大屈曲・内反位)をしています。
なぜ、足裏がすこし内反するのか、ここにもれっきとした理由があるのですが、これについては、改めて別の機会にご紹介します。

通常の立ち姿勢のことを考えてみましょう。
この時、わたしたちの足首には少し遊びがあります。
遊びがあるということは、筋肉の支えが必要だということです。
脱力して足の筋肉を休ませるにはすこし勝手が悪いのです。

そこで、わたしたちは通常、自然に足を休ませるポーズをとります。
身体の重心を外側に移動して、足を外側に倒してしまうのです。



こうすると靱帯に張力がかかり関節の遊びが少なくなります。筋力を節約してラクに立つことができるのです。

どちらの足にどのくらい荷重するのか、身体の休ませ方には個人差があります。こういったクセの積み重ねは、当然、足の裏の形状の左右差、個人差となってあらわれます。

姿勢の歪みは、こういった個々の関節の使い方のクセを反映してあらわれてくるのです。

膝関節は、直立姿勢でほとんど遊びのない関節ですから、足首周辺の深層筋のクセは、ストレートに股関節の深層筋のクセに直結します。両者が相補いあって、立ち姿勢の基盤ができるのです。

いま述べたような関節の連動性に対する理解は、身体の均整をはかるうえでのもっとも基本的な知識です。脊柱の疲れやすい部位も強ばりやすい部位も、このように連動する身体の上に描かれた波紋のようなものだからです。

その意味でも、筋肉の階層性は、わたしたちの身体に宿る進化の痕跡と、歪みの振れ幅を教えてくれるとても興味深いデーマなのです。

興味のある方は、足を投げ出して座り、正面から左右の足の裏をデジカメで撮影して送って下さい。いろいろ面白いことがわかりますよ。


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