近くに植木屋さんの家がある。
ご主人はもう九十前と聞いたけれども、ひょろっとしたお元気そうな方だった。
朝、家の前を、道を含めて掃くのが日課だったらしい。
犬の散歩で御宅の前を通ると、よく掃除しているお姿があった。
一斗缶を斜めに切って木の持ち手を付けた、ご主人の手作りに違いない素敵な塵取りを使っていた。
父は庭木の剪定はほとんど自分でしていた。庭木をたくさん植えて大きくした。
その植木屋さんにも昔一度来てもらったことがあったようだが、父の思うような剪定ではなかったのだろう。それきりだった。
単に父が自分でやりたかっただけかもしれないが。
でもさすがに庭の周りに植えた数本のシイノキが大きくなって、お隣の敷地まで伸び放題に枝を広げたのは放って置けなくて、数年に一度業者に何十万か払って剪定してもらっていた。
でも本当のところ剪定はしたくなかった筈だ。大きい木が繁っているのを好んでいた。
私に「故郷のないのはかわいそうだ。ここがお前たちの故郷だよ。」と言っていた。
姉と一緒にいたのかもしれないが、覚えていない。
ただ、そう言ってくれた父の言葉だけが残っている。
母が亡くなってから、その植木屋さんに剪定の仕方を教えてもらいたいと頼んだ。もちろんシイノキ無しで。
暑い時期だったので朝早く来ていただいた。
お年とは思えない身軽さで、伸びた枝垂れ桜に登り、枝を切った。
私は小さな柘植など丸くすれば良いものには手を付けたが、殆どの時間はその仕事振りに惚れ惚れして見ていた。
植木屋さんは残念ながら去年亡くなって、その家には今お孫さんが御夫婦で住んでいる。
植木屋さんの枝垂れ桜は道沿いにあって毎年見事な花を付けていた。
ずいぶんと楽しませてもらったが木も歳を取ったのだろう。今年も綺麗に花を咲かせたが以前の勢いはもうない。