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池谷裕二氏 脳の「無意識」を鍛えろ (3) 脳は何のためにあるのか?

脳は何のためにあるのか?

  地球上の生物のなかで、脳を持っているのは、圧倒的に少数派です。生物の総重量で見ても、脳を持たない生物の方が多い。ということは、人間は万物の霊長で地球を支配しているなんて馬鹿げたことを考えていますが、実は地球を支配している勝者は、脳を持っていない生き物なんです。脳は非常に燃費が悪く、人間では体重の2%を占めていますが、エネルギー消費量は何と20%にも上ります。生きるために脳があるはずなのに、脳を食わせるために、人間は苦労して食料を調達しているようなものです。
  では、人間は生存競争では不利になることを承知で、なぜ、多大な労力を費やして、ここまで脳を発達させたのでしょうか。
  私が長年、考えて出した結論は、「宇宙を早く老化させるため」です。

  「生命は宇宙を老化させるために存在する」という、ロシア出身の物理学者の説があります。
  彼は、「ビッグバンから始まった宇宙は、エントロピーが増大し、低エネルギーで安定した平坦な状態に向かっている」と言いました。「エントロピーが増大する」とは、秩序だった高エネルギーの状態から、無秩序で低エネルギーの状態へと移行していくことです。しかし、この宇宙の不可逆的な変化に逆行しているものが存在しています。・・・・それが生命なのです。
  私は「池谷裕二」として生きていますが、数カ月ですべての細胞は入れ替わってしまいます。でも、「池谷裕二」であることは変わりません。このように生命は形を保ちながら、構成する分子を入れ替えていきます。このような存在を先ほどのロシア出身の物理学者は「渦」と呼びました。海にできる「渦」を思い浮かべてください。それを形づくっている水はどんどんと入れ替わっていますが、「渦」の形は保たれています。生命もそれと同じだというわけです。
  「渦」の特徴は、構成物質を入れ替えながら、懸命に形を保とうとすることです。この振る舞いこそが、先ほど述べた秩序から無秩序、高エネルギーから低エネルギーという宇宙の不可逆的変化に逆らっているのです。

  では、なぜ生命は宇宙で存在を許されているのか。その存在意義はなんなのか。

  ここで、お風呂の水を抜いたときのことを思い出してください。お風呂の水を抜くということは、浴槽に溜まった水の形を壊し、水位を下げることですから、秩序から無秩序へ、高エネルギーから低エネルギーへの移行を意味します。つまり、「エントロピーの増大」が起きている。この過程で、浴槽の詮の周りには「渦」できます。この「渦」はなぜ生じるのか。これは「渦」を手で潰してみると、よくわかります。「渦」がないと、水がなかなか抜けません。つまり、「渦」は「エントロピーの増大」に逆行する存在でありながら、水を早く抜くために発生しているのです。
  (投稿者注:お風呂の「渦」を手で潰すやり方がイメージできないですけれど、ペットボトルに入れた水を考えれば、「渦」を作らないと水はなかなか抜けませんね)

  つまり、生命は宇宙の「エントロピー増大」の速度を速める「渦」の役割を担っていて、先ほど述べた「生命は宇宙を老化させるために存在する」という結論の意味です。
  そして、人間を見ればわかるように、脳を持った生命は、宇宙や自然を破壊する能力、すなわちエントロピーの増大を速める能力が非常に高い。このことが生命の中でも、人間が地球でいま、わがもの顔で振る舞うことを許されている理由だと考えられます。人間の高い自然破壊能力は、発達した脳の賜物です。

――おわり

参考:文藝春秋SPECIAL
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