goo blog サービス終了のお知らせ 

☆Voli alla gloria☆

路が見えぬなら飛んでしまえ。日々の思考と感覚の記録を綴ってゆきたい、とあるバンカーのブログ。

2007年06月24日 | 短編小説
あの時の貴殿の瞳は。

どんな色をしていたのだろう。

薄暗がりで。

ブロンズグラスを互いに傾け合い。

ここ、東京では、皆、このブロンズの杯で交わす。ある雨上がりの夕べ。

互いに人を待つ風で。そんな風に過ごす時間が貴殿にとっては無駄な時間ではなかったのだろうか。

ネクタイを外そうか外すまいか。せめてボタンを外して楽になりたかったろう。

僕は人の瞳を観察するのを趣味と心得ていた。瞳を見れば何かを感じることができる。その何かを模索中だ。

ここ、東京では、不思議な感覚に襲われる。

何かに解き放たれたような感覚を覚えつつも、そして自由に貴殿の瞳を観察することができるような気がするが。しかし、何か締め付けるものを感じる。窮屈だ。

いささか店内は暑い。外は雨。襟足のあたりにジメジメと感じるものがある。そんなことはどうでもよく。

ひたすら一方向を貴殿は見つめているが。今の僕はその先に何があるのかを予測するという作業に追われている。

ここ、東京では、常に歩きまわる。暑かろうが。どんなに全身にジメジメを感じようが、だ。そんな風に互いに歩きまわってバッタリ出会ったという。それを運命と言う言葉で貴殿は片付けようとしたが。それは少し方角が違っていて。単なる偶然のはずだ。それとも貴殿が謀った策略か。

その瞳の奥に映る光景を覗き込むわけでもなく。さりげなく盗み見るでもなく。そのバランス感覚をもってして、映りこむ先をトレースする。

それが僕に与えられた今日の任務だった。

その瞳に映るモノが相当な市場価値をもっているはずだと、誰かから聞いた以上は、少なからず馬鹿げたことだと思ったが。しかし、確かめてみる余地はある。だからこそ、実は僕が貴殿を呼び込んだのだ。

薄暗がりの中で、はたしてそれを捉えることができるかどうか。

夜が明けたならば。

僕は貴殿の瞳をそっくりそのまま誰かの為に持っていくだろう。

そんなことも知らずに貴殿は。貴殿は…。



夜が明けると目の前が真っ暗で、それから僕は永遠に光を失っていた。

ある酩酊の手記。

2007年05月29日 | 短編小説
俺はいつだって自分を信じて疑わない。

まずそれを断ってこの筆を執るということを。

この自分に向って誓う。

いや、願う?

まぁ、いい。

なんとでもいえ。

しかしだ。

「あの女」はもうすでに、その、機能を果たさなくなった。

それだけのことだ。

明白なことだ。

疑いの余地もない。

何が、見返してやる、だ。

自分をもっと大切にしろ。

少なくとも俺が与えた優しさ以上のモノを。

自分自身に与えてやらなくちゃ。

自分がかわいそうだと、そう思わないのか。

こんな風に俺が「あの女」のことを思っていること自体が。

最後の慈悲にでもなればいい。

自分を犠牲にしてまですることなんて何一つない。

絶対に。

馬鹿げたことだ。




また夜が更けて。

明日もまた何も知らないような顔をした日の光が。

われわれの心を無意味に照らすのだ。

誰かが「ファック」とつぶやいたとしたら。

俺はそれを歓迎の言葉と受け止め。

今日はもう眠ることにする。

乾杯。

今夜あの場所で。

2006年10月23日 | 短編小説
彼女はウイスキーが好きだった。

その日も二人のお気に入りの場所で待ち合わせ。

今日はどんな服装で来てくれるんだろうか。

いつも僕の方が先に酔いつぶれてしまうから…今日こそはしっかりしなくては。そう決心して僕は待ち合わせ場所へと向かう。

強いんだよなぁ…彼女。

多分僕は、彼女のそういうところにも強く惹かれるものがあったんだろう。

酔わないわけではないのだけれど、どれだけ飲んでも、ものすごく思考がはっきりとしている。ような気がする。
どうしたらあんな風に保っていられるのか不思議だ。

それでいて…「きちんと」乱れてもくれる…。

そんな器用さに惹かれたんだろうか。でも、だからといって、計算高いっていうのとは違うんだ…。

それから、彼女は、僕なんかよりもものすごくお酒に詳しくって…それをもっともっと知りたいと思うほどに、彼女のことも知りたいと思うようになる。

そうやって僕はいつも…彼女に弄ばれているのかな。

自分もそれを望んでいるのかな。

やれやれ。

今日も、夕日がきれいで。遠くかすかに見える山の稜線が美しい。

対話。

2005年12月17日 | 短編小説
彼女は僕に訊く。

「その…2.5という数字は大きかったのかしら?」

サングラスごしの彼女の瞳の表情はわからない。

「どうでしょうか…。僕にはよくわからないんです。そんな数字、今の僕にはなんの意味も持たないでしょうし。」

「そう…。2.5秒…。2.5分…。2.5時間…。どんどん長く、大きくなるものだと思うけれど…。」

「違うんです。そういう意味ではないんです。その2.5って言うのは。」

「あら、どういう意味なのかしら?」

「正確には2と5ってことなんです。言い方がまずかったかな…。すいません。」

僕は単純に計算を間違っていたことを密かに恥じた。

「ちょっと意味がわからないわ。」

「わからなくったっていいんです。もはや意味のない数なんですから。」

そう呟くように言葉を吐きだすと僕はティーカップのふちをなぞった。

「気分はどうなの?」

「どうでしょう。まだ自分でも自分がどんな気分なんだか解りません。少なくとも今まで味わったことのない気持ちを抱いているってことは言えそうです。」

「そう。」

「仕方ないんです。自業自得と言えばそうなのかもしれません。」

「そう、あなたにもそういう経験があったってことかしら。」

「そうではありません。それだけはわかるんです。深く、深層をも解っているんです。それに関しては。一度たりとも、ありません。それが今までこの…2と5と言う数字を築き上げてきたんでしょうし。築き上げたなんて言うと、なんだか大きな建造物のような気もしますね。2と5。まぁそれが概念的であることは言うまでもないでしょうけど。まぁ小さくはなかったと思っていますよ。いろんなことがありましたから。」

一息にそう僕は言った。いろんな光景が頭のなかを回転していた。

「それで…その自業自得っていうのは…どんな意味で、なの?」

僕は、頭の中に回転する光景を一つずつ整理しながら、ゆっくりと考えながら話した。

「僕は、自分でも…少し驚いたくらいなんですが…。僕に関わっているある人物の影響なのでしょうか…。まず、自責の念と言ったら言いすぎかもしれないんですが、それに近い気持ちに駆られると共に、自分のことを振り返ってみたんですよね。最近の自分を、です。すると何か、すべてが惰性で流れていた感じがするんです。その惰性は良くも悪くも取れるもので。安定したモノといえばそれはそうです。何も波風がなく。ただ順風満帆とまでは言えない。どう言ったらいいのかな…。海の上を、ただ空を見つめて大の字でいる感覚。ただ、決して波に「流されて」いるわけではなかった。大の字になりながらも、どこかで自発的に「泳いで」もいたはず。ただ、それはあんまりかっこいいものではなかった、そう思いました。」

テーブルの上の木目の同じ箇所をいったりきたり、目でなぞりながらそんなことを無意識に話していた。

「そう…。海ね…。好きよ、私も、海。」

「海になんてさほど行かないくせに、海を想うことは多いんですよね。昨日夜中…車を走らせて…浜辺に行ったんです。波の音は静かでした。遠くには花火をする人たちも見えて。久しぶりに波の音を聴いて…新鮮でした。」

彼女は僕が話し終わるのを見計らったように最後に残った自分の煙草を僕に薦めた。

「僕は…。」

出かけた言葉を押し戻すように煙を吸い込んでいた。

よく晴れた、土曜日の夕方だった。

大学生の日記です - 日記・ブログ

邂逅。

2005年10月09日 | 短編小説
その女性との出会いは先の通りであった。なんだか、お金がありそうなというか、そんな格好。彼女はサングラスをかけていて、瞳の表情はうっさらとしか見ることは出来なかった。
僕はなんとなくマスターとその店の雰囲気が欲しくなってというか、ふらっと学校帰りにいつものように立ち寄ったのだったけれど。その方を見たのはそのときが初めてだった。いつもの、お店全体を眺められるような隅の席に座って、腰をおちつけた。僕は思えばお店に入ると全体を見渡せるような席に執着するかもしれない。店の雰囲気を眺めるのが好きだから。店員さんが忙しく動く様。お客さんが次々と入れ変わる様。楽しそうに会話する人たち。何か企みごとでも相談してるんじゃないかと思わせられるような、神妙な顔で話し合ってる人。ほんとに、色々な人がお店には来るのだ。
そうやって眺めている中で、なんか、そこにそぐわない形で現れたモノが「彼女」だったのだった。何でそぐわなかったのは解らない。年齢だろうか。いや、そんなの関係ない。なんというか…年をそれなりに重ねた女性であることはなんとなくわかったのだけれど、彼女が発している「何か」が、その年齢とのギャップがあったからではないかと思う。僕はその「何か」はなんだろうかとその女性を遠くから眺め、考えていた。

続く…

復讐。

2005年08月11日 | 短編小説
あの方は復讐に燃えている。年齢は…そうだな、僕の見たところでは、50ちょうどか、過ぎたか、過ぎないか、そんなところだと思う。年齢のせいか、いくぶんふくよかな、それでもファッションにはよく気が行き届いているといった感じの女性だ。普段は自宅で英語塾の教師をしてい、他にも英語に関する仕事全般もちょくちょくやっているらしい。翻訳の仕事だとか、通訳の仕事だとか、そんなところだろう。
僕がその方と知り合ったのは、ある喫茶店で、だった。
話は少しずれるけれど、その店の紹介をしてみよう。その喫茶店、とは、港区にある小さな喫茶店のことだ。確か…名前は…「喫茶唐津」。なんで港区に「唐津」なんていう名前の店があるのかは甚だ疑問だったけれど、その突拍子もないネーミングに僕はいつしか惹かれ、そこの店主とも仲良くなっていた。店主(マスターなんて呼べるほどの風貌ではなかったのであえて店主と呼ぶ)にいつしか店の名前のエピソードを訊いたことがあった。店主は九州の出身だった。あ、唐津といえば、確かに九州にその地名があったはず…僕は改めて日本地図を拡げ、九州を眺めた。詳しいことはそのときは店主は言わなかった。僕のほうも名前については特別気にしてもいなかったけれど、でも店主には、僕がこの店に初めて入ることになったきっかけは、この店名だったことに間違いない、そういった趣旨の言葉を曖昧に伝えた。

続く。



※登場する名称、個人名は全てフィクションです。