ガソリン価格は青天井状態だ。
来週さらに1リットル当たり10円上がり、170円台になるという。
周知のように日本では、ガソリン税の暫定税率が30年もつづき、改定期のこの春わずか一ヶ月だけ125円廉価になった。
しかし、自民党と公明党は衆議院で再議決を実施、4月末から暫定税率が復活した。
そもそも日本には数多くの「特別措置法」とか「暫定税率」などがあるが、暫定は名ばかりである。30年以上も継続すること自体、「暫定」のはき違えもいいところで、政府・自民党は国民を舐(な)めきっている。
日本のマスコミは、相も変わらず、原油が高騰..とばかり外信を垂れ流しているが、本当に原油の高騰はまっとうな経済現象なのであろうか?
本稿ではそれを言及する。大マスコミも「頭がついている」なら、単なる垂れ流しでなく、「なぜ」について言及すべきだ!
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ところで、先週5月22日、ニューヨーク・マーカンタイル取引所の原油先物相場は指標となる米国産標準油種(WTI)の7月引き渡し分が時間外取引で一時、1バレル=135ドルをつけ、過去の最高値を更新した。
同取引所で135ドル台は歴史上初めてとのことだ。
CNNは、「130ドル台になったのは、需要逼迫感の強まりとドル安のためと見られる。さらに石油輸出国機構(OPEC)が増産に否定的な姿勢を示すなか、中国の輸入が活発なことも一因となっている」などと報じた。
確かに中国の輸入が活発なこと、そして石油輸出国機構(OPEC)が増産に否定的な姿勢があることは間違いない。しかし、ここ半年の原油価格の上昇は、需要逼迫感の強まりとドル安や中国、OPECの対応だけでは説明しきれない。
この2008年5月上旬、米国の連邦議会上院で、以下に示すように原油市場に対する投機資金の規制を強化する「石油取引透明化法」が検討されている。法案は、レビン及びフェインシュタインという民主党の2名の上院議員が提案している。
Levin and Feinstein Introduce Oil Trading Transparency Act
WASHINGTON Senators Carl Levin (D-Mich.) and Dianne Feinstein (D-Calif.) today introduced the Oil Trading Transparency Act to ensure that energy commodities traded on foreign exchanges using trading terminals located within the United States are subject to the same speculative trading limits and reporting requirements as energy commodities traded on U.S. exchanges.
国際的な石油価格は、米国の西テキサスの代表的原油、ウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)の石油先物の価格で決まっている。
解説: WTIとは
ウエスト・テキサス・インターミディエートの略で、西テキサス地方で産出される硫黄分が少なくガソリンを多く取り出せる高品質な原油のことを指す。そのWTIの先物がニューヨークマーカンタイル取引所(NYMEX)で取引されている。原油価格の代表的な指標にはこのWTIのほか、欧州産の北海ブレント、中東産のドバイがあり、これらが世界の3大原油指標と言われている。そのなかでも、WTI原油先物は、取引量と市場参加者が圧倒的に多く、市場の流動性や透明性が高いため、原油価格の指標にとどまらず、世界経済の動向を占う重要な経済指標の1つにもなっている。
出典:http://chartpark.com/wti.html
国際政治ジャーナリスト、田中宇氏によれば、この「WTIの先物は、ニューヨーク商品取引所(NYMEX)に上場しているが、同じ先物商品は、ロンドンにあるICE(Intercontinental Exchange)という企業が運営するネット上の先物取引市場でも取り引きされており、アメリカのヘッジファンドや投資銀行は最近、ニューヨークのNYMEXだけでなく、ロンドンのICEを通じて、さかんにWTI先物を買い、原油価格を高騰させている」という。
さらに「NYMEXはアメリカの市場なので、そこでの先物取引は、米政府の商品先物取引委員会によって監視され、投機的な行為は取り締まられる。だがロンドンのICEは、外国の民間企業による相対取引の市場なので、米政府の監視の枠外にある。投機で原油をつり上げたい米投機筋(ヘッジファンドや投資銀行)は、ロンドンのICEで先物を売買し、米当局の目を盗んで意図的に原油価格をつり上げ、ぼろ儲けしており、規制が必要だ」というのがレビン及びフェインシュタインの2人の民主党上院議員の法案提出の理由であった。
原油の高騰は、日本やEUなど西側先進諸国で経済や生活を圧迫するだけでなく、自動車交通を主要な移動手段としている本場米国でも国民の足である自動車の燃料高騰をもたらしている。
これについて、私はこの春3月カリフォルニア州に環境政策の現地視察ででかけたとき、帰国後以下の報告を行った。
◆青山貞一:カリフォルニア州のガソリン価格
すなわち、米国カリフォルニア州でもガソリン価格がこの数ヶ月異常に高騰しており、カリフォルニア州の市民のなかには、元々、石油利権屋として名高いブッシュ大統領が何らヘッジファンドや投資銀行筋の原油先物の投機に対策をとらないと憤慨している者もいた。
事実、米国連邦議会の上院では、一昨年6月にまとめられた原油先物取引に関する報告書のなかで「投機資金は2000年から原油先物相場をつり上げている」とか、「WTIの先物取引の30%はロンドンICEで取り引きされている」と指摘されており、単なる需給の逼迫で価格が高騰としているではなく、ヘッジファンドや投資銀行筋などによる故意の操作によって高騰していることを指摘していた。
しかしながら、ブッシュ政権は上記の上院報告書を事実上無視、ここ1年半、対策をとってこなかったのである。
要するに、米国政府を支配するブッシュ大統領自身が原油高騰の仕掛け人であると言ってもよい。
田中宇氏によれば、次のようになる。すなわち、「この問題を指摘した石油・地政学専門家のウィリアム・エングダールによると、現在の国際原油価格のうち最大で60%が、投機筋によるつり上げ効果によるものだという。
WTIはアメリカ産の石油種であるため、ロンドンのICEが、WTI先物を自社の市場で取り引きする商品の中に加えるに当たっては、米当局の認可が必要だったが、ブッシュ政権は2006年1月、この認可を出している。
その後WTIの高騰が激しくなり、同年6月に上院が投機を警告する報告書を出したが、米政府は無視した。ブッシュ政権はまるでWTIを高騰させることを意図したかのように、投機筋にICEという抜け穴を作ってやった、とエングダールは書いている。
エングダールの分析が正しいとしたら、現在1バレル120ドルを超えているWTIの価格は、投機を排除すれば、50ドル程度まで下がりうることになる。」
1バレル当たり50ドルと言えば、1リットル当たりで31円である。ただし、1ドル=100とした場合。これに各種処理、運賃を入れてもガソリンは1リットル60円程度、日本のようなガソリン税を入れたとしても1リットル90円がいいところだ!
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ところで、世界中で使われている先物原油の100%がWTIではありえない。事実、米国と一線を画すロシアや中央アジア系産油国やブッシュ政権と敵対するヴェネズエラなど反米系産油国は、それぞれの国内では日本から見ればタダみたいな価格でガソリンを販売している。
さらに友好国との間での原油の取引価格はWTI価格に比べ格段に廉価である。しかし、米国始め日本やEU諸国に原油を売る場合は、WTI価格に近い価格としているのが実態である。
Gas jumps above $3.67, oil passes $126 on Venezuela concerns
By JOHN WILEN, AP Business Writer Fri May 9, 4:20 PM ET
http://news.yahoo.com/s/ap/20080509/ap_on_bi_ge/oil_prices
NEW YORK - Oil rose above $126 a barrel for the first time Friday, bringing its advance this week to nearly $10, as investors questioned whether a possible confrontation between the U.S. and Venezuela could cut exports from the OPEC member. Gas prices, meanwhile, rose above an average $3.67 a gallon at the pump, following oil's recent path higher
つまり、完全に市場化されていない原油は、産油国の世界政治、外交における重要な戦略物資となっているのである。
ということで、先に私のブログで書いたように、ヴェネズエラが国内でガソリンを1リットル当たり3~5円とただ当然で売っていたとしても、米国はもとより日本に原油を売る場合にはWTIに近い馬鹿高い価格で売っているのである。
その結果、今後、世界中で馬鹿高い原油が売られることになる。対米隷属、追随の日本は、追随する米国のブッシュ大統領が仕掛け、何らまともな対策をとらない原油価格の高騰のダメージを最も受ける国となっている。
日本が反米の産油国と何ら友好関係を有していないことも、この先、日本がどうにも救われない主要な原因となっている。
かくして、WTIの先物原油価格が1バレル当たり200円まで高騰するという観測もあながち間違いないことになる。
さらに今後、実際に確認埋蔵量レベルで原油が逼迫すればするほど、ますますこの傾向は顕著となる。
もちろん、ブッシュ政権の任期は来年(2009年)の1月までであり、大統領を民主党がとる可能性が高く、すでに民主党が過半を占めている米国連邦議会と相まって「石油取引透明化法」などが通過する可能性もある。
しかし、エネルギー資源や食糧が各国の戦略物質となる可能性が大きくなるなか石油の上に工業や経済が成り立ってきた、「油上の楼閣」ニッポンの行く末は暗澹たるものとなるだろう。