時には目食耳視も悪くない。

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ピアノにまつわるエピソード

2020年04月20日 | 本の林
 緊急事態宣言が全国に拡大されている今現在、外を出歩く人は少なくなっていると思いますが、こんな状況になる前にちょっと話題になっていたのがストリートピアノです。

 駅の構内や街中にピアノが設置され、誰でも気軽にピアノに触れることができる機会が提供されていました。
 自宅にピアノがない人でも、実物を弾くことができ、中にはそうしたストリートピアノで演奏するところを撮影したものをインターネットで公開する人もいて、音楽を介した新しい形の交流が生まれつつあるのではないかとも感じていたのですが。。。

 人が密集することがウイルス感染のリスクを高めてしまう今の状況では、人々が集い、音によって醸し出された臨場感を共有するという体験を味わうことは夢のまた夢になってしまったように思われます。
 一説には、このウイルスが完全に駆逐されることは非現実的なことであり、人間は今後、ウイルスとの付き合い方を考えながら生きていかなくてはならないということも耳にします。

 人と人が相対することなしに行われる音楽がどのようなものなのか、また、どんなものにできるのか、音楽を生業とする人たちの頭を悩ませ続けるだろう課題です。

 さて、現在のピアノの原形が作られたのは、およそ300年前のイタリアでした。
 バルトロメオ・クリストフォリ(1655-1731)というチェンバロ製作者が新しい打弦システムの鍵盤楽器を開発し、それを「グラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ」と名付けました。

 それまで鍵盤楽器として主流だったチェンバロとクラヴィコードの良い所を組み合わせ、なおかつ、新しいものとして誕生したのです。
 そして、イタリアからドイツに渡り、ザクセンの名工ゴットフリート・ジルバーマン(1683-1753)や数々の職人たちによる改良が続けられ、1900年頃に現在のピアノの姿になりました。

 この200年の間には、鋳造技術の向上やピアノ用鋼鉄線の発明など、近代文明の発達がピアノという楽器の成立に大いに貢献したという事実があります。
 いわば、ピアノは人類が辿った近代の歴史を物語る生き証人と言っても過言ではないと思います。

 クリストフォリが1709年に、最初のピアノを作ってから20世紀初頭まで、ピアノは常に変化し続けていました。
 作曲家たちは自分たちの時代において、最新の機能が備わったピアノのために曲を書きましたし、最先端の楽器を求めて何マイルも旅をしました。

 今のように家庭はおろか、街頭にまでピアノが置いてある時代ではありません。
 また、ピアノが改良される度に、それを上手に弾きこなせる技術にも変化がありました。

 現在、ピアノの名手と言われる人でも、もしも昔のピアノを弾いたら、うまく弾けない可能性もあるでしょう。

 鍵盤を押してから、音が出るタイミング、そして、押された鍵盤が元の状態に戻るタイミングが、それぞれの時代のピアノによって違いがありますし、鍵盤の数にも違いがあります。

 例えば、モーツァルトが活躍した時代は、今のように全国各地どのホールに行っても、同じタイプのピアノがあるとは限りませんでした。
 作曲家やピアニストたちは、現在よりもずっと臨機応変なパフォーマンス力を求められたことでしょう。

 1980年に青土社から出版された《音楽の手帖 ピアノとピアニスト》は、そうしたピアノにまつわるエピソード、ピアニストたちの紹介、ピアノ音楽についての貴重な資料が満載された、まさに珠玉の一冊です。

 気まぐれに、ストリートピアノの鍵盤を一つ、ポーンと鳴らすように、何気なく本書を手にしてみてはいかがですか。

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