KANON廃園

スタジオカノン21年間の記録

たんぽぽ論争〜こぼれエピソード1

2019年10月04日 | カノンの記録
2001年のフルーツバスケットで、OPと#18、#25の演出を担当された長浜氏とは
実は前年に[モンスターファーム〜伝説への道]というTVシリーズのOPで顔を合わせていました。
この作品の美術監督から依頼されたものですが、
(多分スケジュール的な理由で手が空かない状態だった?)
演出も本編と違う人なので、美術も多少違っても構わないというようなことを言われて、お引き受けしました。
モンスターファームは当時人気のゲームのアニメ化で、すでに1期は2000年3月終了。
続けて新章がスタートしたというわけですが、実はファンタジー系バトルものというぐらいしか知らず、アニメも全く見ていませんでした。
内容もよく分からないまま引き受けたのですが、OPは異世界と現代の背景シーンがあって、全く手が出ないという内容ではありませんでした。

長浜氏はコンテも原図も描き起こす絵の達者な方で、演出も1カット1カット大変凝っていたように記憶しています。

BOOKで重ねた街並みが左右に流れていく、昔の「立体アニメ家なき子」のような手法も多用されていました。

作画出身の演出家に多いのですが、BOOKが多いとか、PANを多様する、望遠表現好き、など、作業量を増やすばかりの過剰な演出が時折見受けられますが、
長浜氏は緻密表現ばかりではなく、大胆に省略したようなカットなど、緩急のつけ方が上手な感じです。
 
何よりも、打ち合わせではどのカットも熱く語る、熱心さにあふれているお方。

その中に、現代の都会のシーンで、道路ぎわにタンポポが咲いているカットがありました。
このカットについては別段演出意図としての説明は受けていなかったのですが、現代シーンはモノトーン調に、という一連の流れで描いたものです。
ところがなぜかこのカットだけ何度もリテイクをいただき、(修正用紙に具体的に絵の形の修正が載せてあり、もっと、角度はこうとか、太さはこうとか、絵図らの指示)
修正指示通りに直しては見たものの再リテイクとなるので、一体この絵のどこがいけないのかと、ちょっと怒り気味に直接電話してみました。
詳しいやり取りは忘れてしまいましたが、どうやら、演出意図が私の解釈と全く違っていたようです。
 
こちらとしては、都会のアスファルトに咲くたんぽぽなので、やっと咲いてるような、ひ弱なイメージかと思っていました。
ところが 長浜氏曰く、「そうじゃないんです! アスファルトを割って咲いてくるのだから、逆に生命力に溢れた力強さが必要なんです!」とのことで、
鼻っから、解釈が違っていました。
どう直して納得いかなかったわけです。
考えてみれば、冒険と戦いに向かうお話で、ましてOPで無意味なカットがあるわけもなく、タンポポ一輪で力強さ、元気さの象徴としたいというほうが納得です。

もっとも、絵図らのリテイクではなく、最初にこの意図を説明してくれたらよかったのに、というだけのことなのですが、 
この件以来、長浜氏と私は噛み合わない、ぶつかり合う関係という印象を周りに与えてしまったようです。

美術のK氏は、「その意図が 説明しなきゃ見た人(視聴者)にすんなり伝わらないなら意味ないよね。」とすっぱり。

しかし背景家は演出家ともっと表現の意図について話し合うべきです。
伝わらないこと(うまく伝えられないこと)は自分で勝手に直す、という演出家も多く、ちょっと心外です。

「フルーツバスケット」では、竹牢のBOOKで「ちょいボケ、ちょいちょいボケ、さらに強いボケ」など何段ものBOOK指示を出すので、
どれほどの意味があるのか、無駄な作業させるなと突っ込んだこともありましたが、デジタルでいろんなことをやってみたいころだったのかもしれません。

もちろんその後は「蟲師」などの監督をつとめ、
長浜氏の目覚ましいご活躍ぶりを賞賛しております。はい。


いっそタンポポを動画にすればよかったかも・・・