なんでもない石

私が文化服装学院に通っていた時のお話です。

入学したての一年次は、みんなファッション工科基礎科というところで
ファッションの基礎をみっちりと教えられました。

そんな中で、当時の学院長の小池千枝先生の特別講義を受けることができる日がありました。

小池先生は、学生たちに
「自分で気に入った石をひとつ見つけて持ってきなさい」とおっしゃいました。
私たちはその石をどう使うのかわからないまま、
それぞれ気に入った石を見つけて持っていきました。

そして先生はおっしゃったのです。
「道端にあるたくさんの石の中からあなたがそれを選んだということ」
がとても大事なことだと。
たくさんのものの中から自分だけが気に入った唯一を見つけ出すとが、
個性であり、ファッションにおいてとても大切なことだと。

それから、私たちは自分たちの見つけてきた石をじっくり眺めてデッサンしました。
何でもないような石が、そのお話を聞いて、とても愛しく思えたことを覚えています。

そのとき初めて、ファッションを学ぶという原点を知ったのだと思います。

なんでもない石　　

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