goo blog サービス終了のお知らせ 

珍盤奇盤のある風景

日本音楽史の暗闇を彩った奇蹟の名曲たち

1曲目 ケン・サンダース「渚のメロディー」

2005-09-17 13:18:57 | 珍盤奇盤
ケン・サンダースである。(1曲目から廃盤だが)

……と、言われても誰だかわからない人が圧倒的多数だろう。
もちろん当たり前だ。『幻の名盤解放同盟ビクター盤』におけるプロフィールはこうである。

 
本名は上岡肇。出生直後にはハーディ・ウェッブと名付けられていたという。
アフリカン・アメリカンの駐留軍兵士を父に、日本人を母親に1946年9月8日横浜に生まれる。
磯子小、根岸中に学び、日本児童劇団へ入団。いくつかの舞台で端役をこなした後、
64年には東宝映画『自動車泥棒』と日活映画『帰ってきた狼』に出演した。
65年秋には日本テレビ制作の芸術祭ドラマ『二十年目の収穫』に主演した。
           

本名が上岡肇なのに、なぜ芸名がケン・サンダースなのか? 
この疑問を抱いた人は読んだ人の中に何人かはいるかもしれない。
その芸名に関する謎の答えはそのうち書くかもしれないが、
たいした理由でないことだけはここで明かしておきたい。

これだけ見ると、何のことのないただのハーフの俳優だと思うだろう。
事実、今何をやっているかも知らないし、興味もそんなにない。
というより知らないほうがいいのかもしれない。

顔は笑えないロナウジーニョに見えることもあれば、岡村隆史に見えることもある。
普通とも、端正とも、不思議とも言えない微妙な顔だ。

ただ、ケンの歌は凄い。何が凄いというよりも、とにかく凄いのである。

曲は、海を想起させる湿ったギターのイントロとともに始まり、
開始6秒で早くも衝撃的なクライマックスを迎える。


オーマイ ベービー
君のくちづけが
素敵すぎたんだ
青い空 白い雲
コンペキの海と 白い砂浜
そして君と僕


ここまでは全てケンのセリフである。
声質は「ナレーターには向かないだろう」と評しておくにとどめる。
朴訥ながらも野性味あふれる声である。
ちなみにコンペキとは早稲田大学の応援歌『紺碧の空』でおなじみの「紺碧」だ。意味はよく知らない。
 
最初のセリフの「オーマイ ベービー」だが、実際は

オォ…マイ………ベイビイ…………………

という表記の仕方が正しい。とにかく粘り気と湿気が凄いのである。
この詩を風呂場で40秒かけて読むと、きっとその雰囲気の一端が味わえるはずだ。
 
ケンが3行目まで語り終わると、異様に安っぽい女性のコーラスが入ってくる。
何語か判別することも難しい(正確には〔ダーリン〕と歌っているらしい)、
スキャットと表現するには非常に勇気のいるそのコーラスは、
曲の湿度をさらに上昇させていく。
 
異様とも言えるほどタメの効いた一人語りは、聞いている人間との距離を徐々に広げはじめる。
そして、その距離に誰もが戸惑いを感じはじめる曲開始から48秒目、突然、二度目のクライマックスが訪れるのだ。


恋のメロディを
愛のメロディを
夜明けまで
うたいつづける


突如、声高らかに歌い始めるケン。その声は朗らかでありながら、
悲しく、湿ったものでありながら、全くムーディーではない。
そこに、おそらくは恍惚の表情を浮かべながら歌っていたであろうケンという男の度量の大きさがうかがえる。
その豪快さは、曲が進むほどにメロディーラインを外れていく音程も気にならなくするほどだ。
他の有名歌手で言えば浅田美代子や左とん平に通じるところがあるだろう。


自分の歌世界を一人だけで存分に堪能したケンは、サビのメロディーの後、
満足気に再度、一人語りをはじめる。もちろんあのコーラスも一緒だ。


いつまでも いついつまでも いつまでも……


2番も全く同じ世界観で曲は進む。もう面倒くさくなったので書き起こさないが、
中学生が英語の時間に国語のノートの隅に落書きしたような詩である。
詩に歌われる海辺は限りなく青く、白いが、聞き続けるうちにその海辺は黒い雷雲に覆われてくる。
豪雨の砂浜を突然走り出したケンを見つめる恋人になったように聞く人間を錯覚させるだろう。

そして、ケンの「いつまでも いついつまでも いつまでも…」のセリフと、
空虚なコーラスがフェードアウトしていくとともに、甘美な186秒が終わるのである。

幻の名盤解放歌集 ビクター編 <うちの家族は女の天下>
ホーム・クッキーズ, ケン・サンダース, ザ・ジャイアンツ, 湊まさゆき, 和久田竜, 平尾昌章, マハロ・エコーズ, 西城正三, 花田, 殿様キングス
Pヴァイン・レコード

このアイテムの詳細を見る

前述の通り廃盤。聴く価値はあるが、探す労力に見合うかどうかは不明。
コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 巻頭言 | トップ | 2曲目 西郷輝彦「ローリン... »
最新の画像もっと見る

1 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (なを)
2020-03-20 05:36:00
ナレーターに向かないと書かれてますが、現在はナレーターと声優さんで活躍されてるというのが面白いでふよね
返信する

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。

珍盤奇盤」カテゴリの最新記事