神はそれでも意地悪に僕らの魂をいつかは取り上げるのだろう

クズと思われても仕方がない赤裸々な日記。

The world is not enough/其の七(最終章)

2013年04月22日 22時19分40秒 | 日記
俺とTは出会い喫茶を出てホテル街の近くのファミレスDに入り、「出会い喫茶も、やっぱり割り切りか…」と話した。
「俺、お前と一緒じゃなかったら、多分、割り切ってたよ…」とTが呟いた。
それは俺も同じだった。
もう今回の冒険をネタにするのは難しいだろうな、と思った。今でこそ笑い話になっているけれど、当時の我々は酷く消耗していたし、何かに対して失望していた。その失望の根底にあるものの正体に気が付くのはもう少し先の話だけれど、とにかく、我々は疲れていた。

このままではいけない。

この雰囲気を払拭するために、我々は音楽の力を借りることにした。
俺はドラムが叩けるし、Tはギターが弾ける。

我々は急遽、H駅のCスタジオを予約した。

スタジオに入ったのは午後九時半だった。ドラムスティックとギターとシールドはスタジオで借りた。
当時の俺は、当時活動していたバンドのメンバー以外の人間とスタジオに入るのは初めてで、緊張していた。けれど、いざセッションをしてみると、とても楽しかった。二人の呼吸が合うと、何とも言えない充実感に満たされた。その充実感をまた味わいたくて、我々は後に二人でユニットを組むことになるのだけれど、それはまた別の物語。

一時間半でスタジオを出ると、憔悴した気持ちはすっかり消えていた。

H駅の改札前で、我々は拳を重ねて別れた。

「また遊ぼうぜ」。



冒険を終えて、愛は金では買えないけれど、限りなく近い場所になら行けるということが分かった。
だからこそ、我々は愛を信じようとするのだろう。


なんてね。




…(終)

The world is not enough/其の六

2013年04月22日 15時21分16秒 | 日記
彼女は、正直に言うと、とても可愛かった。目がくりくりしていて、肌が白く、黒い髪の毛からは良い香りがした。

彼女は俺の顔をその大きな瞳でまじまじと見て、「ウォーリーに似てますね」と笑った。


意味が分からない。


俺「…そうですか?」
女「うん!よく言われるでしょ?」
俺「いえ、初めて言われました」
女「えー?おかしいなぁ」


おかしいのはお前の頭だ、と思ったけれど、もちろん口には出さなかった。
我々は取り留めもない会話をしばらく続けた。
ふいに、彼女が「今日は何しに来たの?」と尋ねた。
「あの…誰かとお茶でもしようかなって」と俺が言うと、彼女は眉間に小さな可愛い皺を寄せ、「お茶だけ?」と俺を見つめた。


俺「え?」
女「大人の付き合いは?」
俺「それって…」
女「割り切り」


出たー!!!


俺「お茶だけは駄目ですか?」
女「うーん、割り切りがいいかなぁ、あたしは」
俺「無粋なことを訊いてしまいますが…値段は幾らぐらいですか?」
女「うーん…人によるかなぁ」


俺は心の中で「アーメン」と唱えた。

神よ、わたしは、お金さえ払えばこんなに可愛い女の子とニャンニャン出来る世界に生きているのです。


次の瞬間、10分間のフリートーク終了を告げるアラームが鳴った。



…つづく

The world is not enough/其の五

2013年04月22日 15時00分19秒 | 日記
「出会い喫茶」とは、個室で待機している女の子を客が選んでトークし、口説いてカップルになる、というシステムの店で、当時の俺には全く縁の無い存在だった。
今でこそ様々なシステムが存在する出会い喫茶も、当時はシンプルなものが多く、その店も女の子のセレクトで1000円、10分間のフリートークで2000円、カップルが成立すれば5000円を店に支払う、という形だった。

我々が来店した時点で待機している女の子は二人だった。
俺もTもテンションが上がっていた。それと同時にテンパってもいたけれど、テレクラよりは面白そうだったし、何より、電話を待つという受け身の姿勢ではなく、こちらからアクションを起こせるというのが魅力だった。
もしもカップルが成立したら軽くお茶でもすればいいか、と相談し(今にして思えば本当に馬鹿だと思う)、我々は計3000円を払ってそれぞれの個室に入った。

個室は四畳も無いくらい狭く、テレビと座布団と小さなテーブルしか無かった。
女の子が「はじめまして」と言って笑った。
ミニのワンピースで体育座りをしているから今にも下着が見えそうだ。
俺は緊張のために喉の奥から込み上げてくる液体を飲み下しつつ、「はじめまして、こんにちは」と笑った。
「座って」と彼女が隣の座布団を指差した。
俺はジャックパーセルを脱いで座布団の上に正座した。



…つづく

The world is not enough/其の四

2013年04月22日 01時25分26秒 | 日記
テレクラRを出たのは午後三時頃で、我々は酷く疲れていた。

Tの部屋には五回も電話がかかってきたようだ。彼も俺と同様、「割り切りを探してる」と言われたので五本ともコールバックした、とのこと。
彼は勇気を持って最後の電話で割り切りの意味を訊いてみた。
それに対して女は「一回きりの肉体関係で金銭のやり取りをすること」と答えた。

「要するに売春じゃねぇか」と彼は笑った。


二人でM駅周辺をぶらぶらしながら、「何だか不完全燃焼だよな」と話した。
確かに、新しい世界を求めてテレクラに乗り込んだが、そこで我々は、もっと、何か、面白いことが起こるのを期待していたのだ。それが、この有り様か、と。

我々は立ち食いそば屋に入った。
Tはとろろそばを食べながら、「俺、大人の階段を昇りてぇんだよ」と呟いた。
俺はワカメそばを食べる手を止め、「例えば?」と訊いた。
Tは首を横に振り、「分からねぇ」と答えた。
「とりあえず、ホテル街の方に行ってみるか」


ホテル街で我々の目に止まったのが、「出会い喫茶」だった。



…つづく