H市のピンサロにまだ俺が通い詰めていた頃の話。
「外、雨降ってた?」
彼女が黒いレースのワンピースを脱ぎながら尋ねた。
雨?
俺は部屋の中を見回す。
部屋には窓が無い。あるのは白いカーテンと、白い壁と、真っ赤な照明。
俺はネクタイを緩めながら「雨は降ってなかったと思う」と答えた。
「ただ、風が冷たくて寒かった」。
彼女は笑って、「夜だからね」と言う。
「けど大丈夫、」彼女の長い指が俺のワイシャツのボタンを外す。「すぐにあたたかくなるから」。
彼女の柔らかい舌が俺の上半身を伝いながら下腹部に降りていく。
俺は水槽の中を泳ぐ魚を見つめる。
「フライド・ドラゴン・フィッシュ」のワンシーンを思い出した。
浅野忠信演じるナツロウが言う。「弾丸が人間の身体に当たった時の音って独特じゃん」。
彼女の指が俺の首筋を這う。鎖骨をなぞる。
思わず震える。
「敏感なの?」
「分からないな」
「淋しがり屋の人って敏感なんだって。知ってた?」
彼女が笑って俺の臍にキスをする。
黒く長い髪が俺の太股に影を作る。
俺はそっと彼女の肩に触れる。
彼女は顔を上げ、口許に笑みを浮かべる。
ゆっくりと身体を起こし、俺の耳元で囁く。
「少しはあったかくなったでしょう?」
全てを終えた後、彼女は俺にタオルを手渡し、「大丈夫?」と尋ねた。
「何が?」
俺が尋ね返すと、彼女は笑って言った。
「君、震えてたよ」。
外に出ると、風のあまりの冷たさに思わず背中を丸めた。
夜空に星は見えず、孤独が両肩に降り注いでいるような気がする。ピンサロに行くと、必ず孤独感が増す。
浅井健一は「FRIENDLY」で「この世の中は美しいことがたくさんあるよ」と歌っている。
それはつまり同時に、邪悪なものもたくさんある、ということだ。
そういう邪悪なものを一つ一つ背負い込んで、俺は生きている。
これから先も、そうやって生きていく。
その中で唯一、美しいものを、自分だけの美しいものを見つけられればいい。
そんな風に思う。
「外、雨降ってた?」
彼女が黒いレースのワンピースを脱ぎながら尋ねた。
雨?
俺は部屋の中を見回す。
部屋には窓が無い。あるのは白いカーテンと、白い壁と、真っ赤な照明。
俺はネクタイを緩めながら「雨は降ってなかったと思う」と答えた。
「ただ、風が冷たくて寒かった」。
彼女は笑って、「夜だからね」と言う。
「けど大丈夫、」彼女の長い指が俺のワイシャツのボタンを外す。「すぐにあたたかくなるから」。
彼女の柔らかい舌が俺の上半身を伝いながら下腹部に降りていく。
俺は水槽の中を泳ぐ魚を見つめる。
「フライド・ドラゴン・フィッシュ」のワンシーンを思い出した。
浅野忠信演じるナツロウが言う。「弾丸が人間の身体に当たった時の音って独特じゃん」。
彼女の指が俺の首筋を這う。鎖骨をなぞる。
思わず震える。
「敏感なの?」
「分からないな」
「淋しがり屋の人って敏感なんだって。知ってた?」
彼女が笑って俺の臍にキスをする。
黒く長い髪が俺の太股に影を作る。
俺はそっと彼女の肩に触れる。
彼女は顔を上げ、口許に笑みを浮かべる。
ゆっくりと身体を起こし、俺の耳元で囁く。
「少しはあったかくなったでしょう?」
全てを終えた後、彼女は俺にタオルを手渡し、「大丈夫?」と尋ねた。
「何が?」
俺が尋ね返すと、彼女は笑って言った。
「君、震えてたよ」。
外に出ると、風のあまりの冷たさに思わず背中を丸めた。
夜空に星は見えず、孤独が両肩に降り注いでいるような気がする。ピンサロに行くと、必ず孤独感が増す。
浅井健一は「FRIENDLY」で「この世の中は美しいことがたくさんあるよ」と歌っている。
それはつまり同時に、邪悪なものもたくさんある、ということだ。
そういう邪悪なものを一つ一つ背負い込んで、俺は生きている。
これから先も、そうやって生きていく。
その中で唯一、美しいものを、自分だけの美しいものを見つけられればいい。
そんな風に思う。