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第38期女流本因坊戦は、「上野愛咲美・女流棋聖の優勝⇒⇒女流本因坊位の初奪取」と言う結果になりました。そしてこの対局を以って、2019年の囲碁の女流棋戦(タイトル争奪戦)は全て終了。
2019年の女流囲碁は、上野愛咲美さんと藤沢里菜さんの2強時代。
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==女流棋戦ふりかえり2019
……No.01(全3回)==
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ただしこの投稿『女流棋戦ふりかえり』では、タイトルを争った棋士やその時の棋譜に限らず「再見の価値有り」「気付かれざる逸話」に注目しています。
今回の注目は、鈴木歩・七段。日本棋院・東京本院所属の女流棋士。2000年代の女流棋戦での優勝経験あり。
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【写真】鈴木歩・七段(日本棋院所属)
【プロフィールサイト】
http://archive.nihonkiin.or.jp/player/htm/ki000380.htm
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A》ファンの眼 vs プロの眼
2019年の女流棋戦での、鈴木歩さんの結果。
女流立葵杯と女流本因坊戦では、鈴木歩さんは本戦トーナメントで準優勝。挑戦権獲得ならず。その相手は、どちらも上野愛咲美さん。
こうした結果を見てか、
「鈴木歩さんって、大事な対局で勝てないイメージがある」
と言う類のコメントが、ネット上に数件ありました。実際には〈歩さんが弱い〉のでは無く、対局相手の〈愛咲美さんが強すぎる〉だけなのですが……
一般的なファンはそう評価していても、プロの間での評価は、実は正反対。以前に小林覚・女流九段は、
☆女流棋士に強い謝依旻
☆男性棋士に強い鈴木歩
と言う評価を紹介されていました。どうやらこれは〈お世辞・おべっか〉では無く、本当らしい。現に男性棋士の間では「歩さんとの対局では、最後まで気が抜けない」と警戒されているらしい。
そこで最近の戦績を調べた所、中堅棋士が参加する中庸戦では、男性棋士相手に〈本戦で8位〉になっている。プロフィールを見れば、〈七段〉になっている。
同じ人物の内容や成果を評価するのでも、ファンとプロとでは全然違ってところいる。そうした事は珍しくありません。
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B》育児・子育てを経て強くなり
実戦譜を取り上げます。2019年、女流立葵杯の準決勝より。
白番は鈴木歩さん、黒番は万波奈穂さん。
左下で黒が三々に入り、左上では流行定石。現地解説の小林光一・名誉棋聖によれば、「右下の戦いは、黒が失敗したかな……?」
この碁の注目点を【参考図】に。
白1のツナギを見届けて、黒2と大桂馬。
これに対する白の返事は、白3の〈上ツケ〉
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【参考図】
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白3ついて、小林光一・名誉棋聖はこんな解説をされていました。
「このツケ1本は好手、最新の囲碁AIも高く評価します。
ただし人間のプロの感覚では、右上の黒石を強くし、黒地も増やしている。ですので、プロにとっては〈内心、打ちにくい感じもある手〉」
「歩さんは筋の良い碁を打つ人なので、白3の様な手は〈昔の鈴木歩さん〉であれば打たなかった。でも〈今の鈴木歩さん〉は打った。
……と言う事は、歩さんは、タイトルを持っていた当時より間違い無く強くなっています。
子育てや育児で忙しい中、AIを使って勉強しているんだと思います」
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C》AI流と熟練芸
参考図の白3。局後の検討タイムで、鈴木歩さんは次の様に返答。
「右上をどう打つのが良いかを考えていたら、白3はAIが選びそうだな……って。
ですので、AIっぽく〈格好つけた手〉を打ってみました( 〃▽〃)」
鈴木歩さんの打ち回しは、プロ入り当時から〈玄人好みの熟練派〉。地にカライく、ヨセが上手い。攻めや戦いを急がず、じっくりと打ち進める。
また、難解詰碁を解く早さや正確さでは張栩・九段をも脱帽させ、計算の早さ正確さでは絶対的な信頼をされている。
こうした点から、鈴木歩さんは「プロが認めるプロ」と言えます。
蛇足として。鈴木歩さんの碁についての、棋譜並べの視点で一言添えますと……
〈AIを使わない人間流〉の羽根直樹・碁聖の棋風が好き──と言うファンが、最近増えているらしい。
そうした羽根碁聖の打ち方が好きな人にとっては、(もしかしたら)鈴木歩さんの打ち方も気に入って頂けるかも知れません。
(1回目・完)
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