女流立葵杯の街から

囲碁の女流棋戦の中継予定を中心に投稿しています。

女流棋戦ふりかえり__2020年(No.03/03)

2020年10月22日 | 女流棋戦ふりかえり

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 2014年、福島県会津若松市。この年に誕生した #会津中央病院杯(現・ #女流立葵杯)の前夜祭にて。

 本戦入りし、前夜祭に出席した女流棋士。#謝依旻、#藤沢里菜、#万波奈穂……等々の有名な人はファンに囲まれていました。
 そんな中、会場の隅に1人で立っていた、学生服の女の子。雑誌か何かで見た記憶がある女の子。しかし、名前が全然思い出せない。プロの人かも知れないけれど、もしかしたら私の勘違い……?
 そんな事を思いつつ、名前を聞いてみた。

「初めまして。
 日本棋院所属の星合志保と言います」
「……エェッ!?、星合さん(◎-◎;)」

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 ≡≡ 星合と飛田・新しい求心力
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 この時が星合さんとの初対面でしたが、知らないはずが無い。
 星合さんが院生時代に通っていた都内の碁会所の1つは、東京都新宿区にある『碁席秀策』。碁席秀策で行われていた『水曜会トーナメント』と言う企画に、院生時代の星合さんが参加していました。
 そもそも碁席秀策は、私が都内に出向いた時の拠点。その店の中に掲示されていたトーナメント表を見て、私は星合さんの名前を知ったから。
 加えて碁席秀策のスタッフからも、
「星合さん、もうすぐプロになりますよ」
 と言う話を聞いていましたから。そんな、プロになったばかりの星合さんと、福島県での初対面。

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A≫リアルからオンラインへ

 2020年春、新型コロナウイルスの拡大防止の為に、衣食住と医療に関する事以外のあらゆる活動が、日本国内で活動自粛が要請される。それにより、

●プロの棋戦は予戦・本戦・争奪戦は全て延期
●イベントは全て中止(阪急納涼囲碁まつりや平塚囲碁まつり)
●有名な囲碁サロンの閉業

 こんな事が相次ぎ、一体どうなってしまうのか……と思われていた矢先、コロナ禍で苦しむ民間の碁会所や囲碁サロンを支援する為のクラウドファンディングが立ち上がる。
 それと同時に、「どこからアイディアを見付けて来たんだ……?」と言う数の企画を、若手棋士がオンライン上で次々実施。
 その勢いで、「これまでは出来る訳が無い」と言われていた〈オンラインによるプロ棋戦の対局〉が実現。

 それらの副産物として。
 SNSで情報発信をされている若手や中堅の現役棋士が、オンライン上での指導碁や、ファン同士の対局譜の添削を開始。それにより、
「活動自粛中でもプロの指導を受けられる」
 と、東京や大阪から遠く離れた地方の囲碁ファンからの申し込みも相次いだらしい。
 それらの全てに、何かしらの形で、星合さんが関わっていたらしい。

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B≫フラッグを掲げよ

 コロナ以前の2019年。都内で開催された活動は、『クリスマスでも囲碁がしたい』『女子囲碁お茶会』『謝family囲碁会』『浴衣囲碁まつり』『女流棋士フォトブック大感謝祭』……

 そのきっかけは、2017年。
 某囲碁イベントで星合さんに お会いする事があり、こんなお話しを。
「都内で囲碁イベント、やってみたらどうですか?。仲の良い女流棋士と一緒に」
 それに対する星合さんの答えは……
「そうですね、他の棋士仲間にも話を聞いてみます」

 そんな話を星合さんにしたきっかけは、2005~2010年の個人的な経験。囲碁の勉強の為に、私が都内に通っていた頃。
 どんな囲碁活動があるのかと、ネット検索して結果。都内の情報としては碁会所や囲碁教室の案内は見付かっても、〈棋力・年齢・性別不問の囲碁イベント〉や、著名な囲碁棋士が関わる活動の案内等は見付からない。当時はSNSが無かったり知られていなかったから、情報を探したり見つけるのが今より難しかった。

 プロ主催のイベントに参加したい、プロの指導を受けたい__と言うニーズは大都市ならあるはずなのに、そうした囲碁ファンの仮に 期待を叶える為の環境が整っていない。このまま放置すれば、関東近郊の囲碁文化が衰退してしまう。
 そうした事を解決する為には、フラッグ……囲碁活動を探す為の目印や、棋士仲間の求心力となる存在が必要。
 そのフラッグと なりえる存在は誰かと考えたら、私の知り合いの中では、NHK杯の聞き手をされて全国区になった、星合さんだろう……と。
 それが、若手棋士が主催する囲碁普及のきっかけになった様です。

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C≫天性のリーダーシップ

 2020年1月。都内の某囲碁サロンに行き、囲碁サロンのスタッフから聞いた話。
 そこの常連さんには、星合さんの小学校時代(中学校だったか?)の恩師がいらっしゃるそう。その先生によれば……

「志保は子どもの頃からリーダーシップがあって、学級委員とかにも積極的に立候補していた。志保がいると、クラスが良くまとまった。
 子どもながら、児童からも教職員からも信頼される存在だった」

 星合さんの恩師によれば、星合さんの今のリーダーシップの様子は、子どもの頃から全然変わっていないらしい。

 2020年。そんな星合さんと女流本因坊戦の本戦で対局された1人が、関西棋院所属の飛田早紀さん。
 コロナ禍により、リアルの囲碁イベントが休止を余儀なくされた頃。星合さんと飛田さんは次々と動画配信をし、ファンに娯楽提供を行った。それを評して お2人の対局は『ユーチューバー対局』と命名。
 プロ入りした時期と所属、そして年齢も違いますが、実は院生時代には、『碁席秀策』の水曜会トーナメントに通っていたと言う共通点が。

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 最近ではSNSを始める現役の囲碁棋士も増え、その中には7大棋戦の本戦在籍者も。
 また、これまでは普及活動には あまり関わって来なかった無名の棋士が、普及活動に参戦する様に。

 その様子を見ていると、経歴や先輩後輩問わず、

「星合さんや飛田さんみたいな事をすれば良いのか」

 と言う感じの反応。星合さんや飛田さんの発想や取り組みが〈現在の普及活動のモデル〉と認めれて伝播し、それをヒントにした現役棋士による活動が成果をあげている。
 これから数年、囲碁普及の具体論は星合さんや飛田さんの活動がモデルとなり、それを真似して後輩の囲碁棋士が育っていく。そんな流れになっていくのだろうな……と言う予感がしています。

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【YouTube、自戦解説動画】

◇星合志保

https://www.youtube.com/watch?v=DWgq0YRWVgc

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◇飛田早紀

https://www.youtube.com/watch?v=EX7sFQIaglM
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女流棋戦ふりかえり__2020年(No.02/03)

2020年10月14日 | 女流棋戦ふりかえり

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 2018年の女流立葵杯。この年、関西棋院理事会が動揺。その理由とは、所属棋士である#吉田美香 八段 、田村千明 三段の お2人が本戦を勝ち抜き、現地・福島県会津若松市での対局が決まったから。

「関西棋院所属の女流棋士が、5年連続で現地入り。しかも2018年は、2人も4強に……これはエライコッチャ。
 立葵杯には毎年毎年お世話になっているのだから、関西棋院としても ご挨拶に伺わない訳にはいかないやろう」

 そんな話が行われたらしい。そこで、関西棋院理事である #榊原史子 先生が、前夜祭での挨拶に急遽出席。

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 ≡≡ レディ・サムライの覚醒 ≡≡


 新型コロナウイルスの感染拡大防止の為、2020年は現地対局は無し。本戦の対局会場は東京本院。関西棋院からは岩田紗絵加さんが準決勝に進出。立葵杯以外では、非公式戦ながらも結城聡九段に勝たれた。こうした出来事は、着実に実力を付けている証拠かも知れない。

 そこで〈2020年、活躍した1人〉を挙げるとしたら、#岩田紗絵加 さん(写真の女性)かも知れない。

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A≫関西棋院が発掘した才能
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 岩田さんの経歴。
 元々は東京の院生。院生を辞めた後には、男女混合の東京予戦を勝ち抜き、アマ全国大会に出場。
 院生時代から参加していた都内碁会所での対局成績は、現役のプロ(本戦リーグ在籍者)相手にも互先で勝率5割を超える様に。
 アマの全国大会の後、都内の碁会所スタッフからの報せには「岩田さん、プロの試験に合格しました。関西棋院みたいですけど」

 今は行われていない様ですが、以前の関西棋院では、アマ棋戦で活躍した実力者を採用する制度『研修棋士採用制度』がありました。その制度によって採用されたらしい。

 関西では関西棋院と関西総本部の所属棋士、そして地元在住のインストラクターが協力し合い、囲碁普及をされています。その結果として、2005年頃までには着実に囲碁ファンの増加に成功。
 しかし囲碁棋士の県外出張や女流棋士の産休・育休等の事情があり、関西圏内で行う普及活動に必要な人材が不足していたらしい。そこで関西棋院が始めたのが、優秀なアマ人材をプロとして採用する『関西棋院研究棋士採用制度』

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B≫対局と慶應と海外遠征と
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 関西棋院所属の女流棋士は普及活動に力を入れており、活動の様子をインターネット上等で紹介しています。
 研修棋士制度とは どの様なモノなのか。採用基準を読んだ事がありますが、この制度では試験対局・大会実績だけを基準に採用するのでは無く、❬❬ 関西棋院が行う普及活動に協力する事 ❭❭ と言う文言が繰り返し書かれていました。

 この2つを鑑みて私が推測していたのは、「関西棋院でプロになったのだから、岩田さんも関西での普及活動に参加するのだろう」
 しかし、それについての話は全然伝わって来ない。

 一体どうしたのか……とと気になっていた頃に放送されたのが、NHK囲碁フォーカスの特集。画面には、スーツケースを牽いて歩く岩田さんの姿が。番組のナレーションでは、
「関西棋院所属棋士としての対局に加え、慶應義塾大学に通学。
 関西と東京を往復する〈二足のわらじ〉の生活をしています」

 その前後、岩田さん ご自身がツイッターに、「世界大会に出場する為、韓国に行ってきます」と投稿。

 こんな旅生活を続けていたら、体力的には大変では無いのか?__そんな疑問もありました。しかし ご本人としては、特にキツいとは感じていなかったらしい。
━━日本と外国の移動生活が多いが、その方が体調や碁の内容が良い━━
 と、女流立葵杯保持者4連覇の藤沢里菜さんがコメントされていましたが、岩田さんもそうなのかも知れない。

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C≫常識を変えた剣豪スタイル
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 そんな岩田さんの碁の内容について。若手棋士の1人は、

「元々実力は ある程度あったのですが、安定感に欠ける印象だったのでそこを克服したことで勝ち進みやすくなったように思います」

 そんな評価をされています。

 これまで一般事情として。囲碁棋士として強くなりタイトル戦に絡む為には、

「院生在籍中に、プロの採用試験に合格する」
「中部地方や関西地方では無く、(強いプロが多い)東京本院所属のプロになる」
「高校や大学には行かず、囲碁の公式戦や研究会に専念する」
 
 これが条件・常識と言われています。しかし岩田さんの場合、そんな常識とは全て逆。

「院生を辞めてアマの大会に出る様になってから、急激に強くなった」
「東京本院所属では無く、関西棋院所属の棋士になった」
「関西での棋士業と、関東での学生業を同時平行」

 それらに加え、海外への武者修業。そんな岩田さんの囲碁棋士としてのスタイルを伝え聞くと、日本全国を1人旅して腕を磨いていた昔の剣豪の様な印象があります。そんな岩田さんの事を、

 〈日本囲碁界の #レディサムライ 〉

 と呼ぼうかと思っています。

#女流棋戦ふりかえり
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女流棋戦ふりかえり__2020年(No.01/03)

2020年10月01日 | 女流棋戦ふりかえり

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 2019~20年にかけての、女流棋戦の注目ポイント。
 2018年秋頃にプレスリリースされた〈女流特別採用推薦棋士制度〉
 翌年1月に突如発表になった〈英才特別採用推薦棋士制度〉

 これらの制度でプロ入りした新人女流棋士の成長と戦績。

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 ≡≡ 新人女性棋士の後ろ姿 ≡≡


 「プロの試験に落ちた女子院生を推薦で採用するなんてバカげている」

「万年赤字の日本棋院が女流棋士を増やしたら、間違いなく破綻する」

 2019年の上半期、ネット上ではそんな投稿が乱発していました。しかし同年の夏以降になると、落ち着いて来た。その背景には、

「近年の院生女子は成長著しく、院生や若手棋士のレベルを超えている。
 プロ採用試験に不合格だったから__と言うだけで、院生を辞めさせてしまうには余りにも惜しい」

 そうした理由で推薦制度導入を模索された小林覚・日本棋院理事長の判断の通り、2019年採用の主だった女性棋士達が、ファンが想像していた以上の活躍をされた事。
 新制度は愚策にあらず__それを急成長と実力で証明したのは、〈英才特別採用推薦棋士制度〉でプロ入りした仲邑菫さんだったのは間違いないはず。
 
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A》畏怖に微動せぬ新世代

 新制度でプロ入りした新人の女流棋士達。
 その中で、私が特に注目しているのが森智咲さん。

 

 森さんについては、

◎パズルやクイズ、なぞなぞ が好き。
◎詰碁が得意で、手が見える。
◎対局時や棋風は相当きつく、狂暴に近い。
◎百人一首でも負けるのは嫌い。
◎韓国の囲碁道場でホームステイして勉強。

 この様な事が、週刊碁の企画〈#新初段シリーズ〉で紹介されました。ここまで読めば、平成の若手四天王である張栩さんや山下敬吾さん、お2人のエピソードを合わせた様な感じ。しかしそれ以上に驚かされたのは、下の2つ。

◎研究会での結果らしいが、結城聡九段に勝っている事。
◎週刊碁での、森さんのコメント。
「山下敬吾先生には教えて頂いていますが、山下先生に力碁と言う印象はありませんでした」

 現在は無冠とはいえ、7大棋戦の激戦を くぐり貫けてきた結城・山下の2人の実力に対し、森さんは恐れを全く感じていない……?。もしもそうであれば、これ迄の若手棋士では考えられなかったタフ過ぎる戦闘力や精神力を、森さんは既に兼ね備えているのかも知れない。

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B》先輩棋士の期待と まなざし

 最新情報。
 本投稿に添付した写真とアドレスは、女流本因坊争奪戦の開催地へ向かう新幹線客席での森智咲さんの様子。
 東京から岩手県へ向かう新幹線の中であっても、わずかでも時間が出来ればその間にネット対戦やAIでの研究などを行い、自らの研鑽を惜しむ事が無い❬*1❭。
 この事をツイートされた首藤瞬さんや平田智也さんを初め、多くの先輩棋士が同じ新幹線に乗車されていますが、新人棋士である森さんの仕事ぶりや勉強する様子を、先輩棋士達が端から見ている。先輩棋士の立場からすれば、

「先輩棋士が後輩棋士に教える」

 のではなく、

「後輩棋士から先輩棋士が学ぶ」

 状況になっている。首藤プロや平田プロがツイートされた〈森智咲・新人棋士の背中〉は、迷いや悩みに迷わされる事はなく、ただ一心に、囲碁の勉強や仕事に専念されている。

「森智咲さんは、本当に良い子」

 と、他の若手棋士もツイートされていましたが、単に碁が強いだけではなく、先輩棋士からも信頼と尊敬をされる棋士であったのか……そんな事を思ったツイートでした。

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《ツイートより》

【首藤瞬プロ】
https://twitter.com/shuto_shun/status/1311186159242862592?s=19

 最近の若手は新幹線でネット碁を打つらしい。(本人了解済)
 「地方での記録係は初めて」と言うがPC持参で手慣れたもの。そんな勉強熱心な森智咲初段。明日は記録の合間にYouTubeにも顔を出してくれそうです。

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【日本棋院若手棋士】
https://twitter.com/wakatekishi_igo/status/1311190311457026048?s=19

素晴らしい!
最近の若手は勉強熱心ですね。
見習わないと…

森智咲初段には何度か記録を取ってもらったことがありますが、ミスはないし、姿勢も良いし、打ってて気持ち良かったです。
近い将来対局者として新幹線乗れるといいですね😆(ツイートは平田智也プロ)

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