木の下で話しましょう

ソトコトとは、木の下で話しましょう、というアフリカ語源の福祉用語です。

90歳

2013-06-08 | 社会

南部方面からの帰りの地下鉄電車内で真正面に座っていた五十代とおぼしき婦人が、やおらバッグから化粧品ポーチと手鏡を取り出し化粧を始めた。

隣席の二十代女性が、年配婦人の化粧する姿には、流石に驚いたのか携帯をいじりながらも落ち着かない様子でチラチラと横目で観察をしている。

目鼻立ちのはっきりした美人ではあるが、これみよがしにぱたぱたとパフをはたき厚塗りをしているのを観察している内に、もしかして精神障碍者かもしれないと考えた。そうでなければ、この年齢では・・・・合点がいかない。

たぶん、若いころには、ブイブイ言わせたのだろう、容姿に自信のある女は、その仕草ですぐにわかる。次に半目を閉じながら片眉を描き始めた。

満員電車が停車して私の隣のわずかな隙間に老齢の小柄な婦人が尻から器用に入り込み座した。

TVでよく面白がって大阪のおばはんの形態を実写していたのを彷彿とさせる・・なるほど。

「こんな隙間によく入れましたね~細いからでしょうね」

何気なく話しかけると、少しの間があり、静かな車内に響き渡るような声で前の婦人を非難し始めた。

「よくもあの歳で人前で化粧が出来るな、車内での化粧は禁止のはずやで、な?」

同意を求めるので、そうなの?と返した。

実は、乗り物を皆無に近く利用しないので知らなかったのである。

「そうよ、この前TVでゆうとった。公衆道徳マナー違反やで、しかし、顔は別嬪やけど、動く電車内で、よ~も、あんなに綺麗にすいすいと眉を描くな~今頃の眉は細いのが流行ってるのか?」

「さ~?私は一度も眉を描いた事がないので知りませんわ」

「そうか、前のんは派手な顔やから太い眉が似合うわ、家で化粧する時間もないほど忙しいのやで、わても身に覚えがあるけど、公衆の面前では、せんかったわ」

「お元気そうやけど、おいくつですか?」

「わてか、わては90歳や」

へっ!!びっくり仰天!まだ自立してしゃんしゃん外出をしているのか。

「73歳の息子が危ないから独りで出歩くな言うけど今日は日本橋へ芝居を観に行くのんや」

「何の芝居ですの?」

「なんでアンタに芝居の事まで言わんならんのや」

少しご機嫌を損ねたようだ。

ふたりとも、大声なので静かな車内の乗客が、我々を注視しているのがわかる。

「そうですね、ただの通りすがりなのにね~」

すぐに機嫌を直し応えてくれた。

「花魁道中や」

よく理解出来ないけど・・・?

「大衆演芸や」

ふうん、そうでっか。。。

そうこうしている内に目的駅に到着した。

 

後ろから横に座っていた八十代とおぼしき干乾びた婦人が声をかけて来た。

「あのお婆さん、元気やね~感心するわ」

「本当やね、頭もはっきりしてたし」

改札を出てからも話ながら歩き他の電車へ乗るので別れた。

 

しかし、高齢化社会というより、高齢者のみ社会だわ・・・

服装だって化粧だって老けてはいないが、後ろ姿は、よたよたとして、ちと、寂しい。

先方を歩く半ズボンにロングTシャツの男子を追い抜き様に拝顔したら・・・ふむ・・・たぶん、七十代だっただろうか・・・・

追い抜かなきゃ、良かったかも。

そういや~ 堺市で凄いスピードで飛翔する燕を見た。