【気まま連載】帰ってきたミーハー婆㊹
聞き上手・話し上手
岩崎邦子
テレビの天気予報で伝えていた今年の東京の桜の開花宣言は、例年より早かった。
満開となった3月27日の日曜日は、オミクロン株のまん延防止もすでに解除になっていたので、家族連れで花見を堪能する上野公園をはじめ、都内の桜の名所が賑わっている様子がニュースで流されていた。
これから桜前線は北に向かい、地方での見事な桜満開の景色が見られることだろう。我が住まいの白井市の桜は少し遅れて咲き始めたが、464号線沿いの桜並木や、我が家から見える公園の桜が見事である。
28日の月曜日は晴れだった。桜も八分か九分咲きくらいだろうか。パークゴルフに出かけるには、絶好のお日和でもある。
「こんなに見事な桜の景色が見られるのは、そうそうあるものではないな」
と夫。
「いやいや、『我が家こそ』『、おらが町こそ』なんて思ってる人は、日本中にたくさんいるよ!」
素直に言わない私だ。
朝からくしゃみや鼻水が出ていた。ひょっとして花粉症なのか。
パークゴルフ場には、すでに仲間が集まっている。指定席のようになっているテーブルに荷物を置き、プレーのためのチケットを買い求めたり、クラブを出したりの用意も出来た。
受付を済ませることと、組み合わせが決まるまでの雑談タイムだ。Tさんも既に用意万端の様子。
「朝からくしゃみが出て…」
そうTさんに話しかけた。、
「そうなのよ~、私なんかさぁ」
どうやら、彼女も花粉症らしい。
私としては、今の時期には花粉症で苦しんでいる人もあるだろうし、自分が花粉症になったとも思っていないが、家にあった花粉症や、くしゃみや鼻水に効く薬を飲んできたことを話そうとしたのだが……。
あっちが痛い、こっちが痛い、「食欲が落ちると、痩せるねぇ」とか、Tさんが不調を訴えるが、私は「ふ~ん、そっかぁ」としか言えない。朝方の夫の言葉掛けに意地悪を返した私だが、ここでは「聞き役」に、徹することになった。
私自身、おしゃべりは好きだが、耳の聞こえも良くないので、独りよがりや勘違いをすることもあるだろう。会話とは、例えつまらないことや、ちょっと気づいたことでも、キャッチボールが出来てこそ楽しいのではないか。でも、主婦をしていると、自分が中心になり人の気持ちを察するのが疎くなる。
現役時代の夫は、絵に描いたような「会社人間」だった。営業という立場で相手の懐に入り、希望や不満などを聞き出す。そして、こちらの条件などを納得してもらうように話すことを心掛けてきた。
仕事では聞き上手・話し上手なのに、なぜか家では決して見せない。当時の私は若かったので、そんな夫の落差に腹を立てたものだ。
テレビのお笑い番組で、こんなシーンをよく見かけないだろうか。
МCに名指しされたタレントが主題に沿った話をしている最中、別のタレントが話を横取りをして自分の身に起きたことを、面白おかしく話し始める。
「笑いを取る」ということが彼らの生命線なのだろうが、視聴者は白けてしまう。ましてや笑わせる機会を逸してしまったのが、贔屓のタレントなら、同情するしかない。
かつて行われていたプチ同窓会で、幹事役から順に2、3分の挨拶を促されたことが多々がある。スピーチ時の禁句は「病気の話、個人的自慢話・孫自慢はご法度」だと、何かの本で読んだことも。
確かに、確かに、自慢話が過ぎると、「あなたは偉い!」が言えなくなるものだ。では、短い時間に一体何を話したら良いのだろう。
「趣味の話とか、これから何を頑張りたいか」を、簡単明瞭に短く話すのがベターなのだとか。
男性だと、会社などで人前で話すことには慣れているので、往々にして社会問題や自分が読んだ本からの関心事を得々と話す人が少なくない。「へぇ~、そうなんだぁ」と、私なんか思ってしまう。
それに異論や持論がある人は、自分のスピーチの順番でもないのに、次々と割り込んで話し出す。あららぁ、順番はどうなってるの? スピーチの進行を元に戻すのも、幹事役の腕の見せ所なのかも。
年を重ねてきてしまった今も、自分の気持ちに合ったことや、興味のあること、あるいは教わりたいことなどがあって、そうした会に所属することになる。私も聞き上手だけでなく、話し上手にもなりたいな。
【岩崎邦子さんのプロフィール】
昭和15(1940)年6月29日、岐阜県大垣市生まれ。県立大垣南高校卒業後、名古屋市でОL生活。2年後、叔父の会社に就職するため上京する。23歳のときに今のご主人と結婚し、1男1女をもうけた。有吉佐和子、田辺聖子、佐藤愛子など女流作家のファン。現在、白井市南山で夫と2人暮らし。白井健康元気村では、パークゴルフの企画・運営を担当。令和元(2018)年春から本ブログにエッセイ「岩崎邦子の『日々悠々』」を毎週水曜日に連載。大好評のうち100回目で終了した。