【村民の声⑬】
楽しく話して 楽しく歌って②
岩崎邦子
私がパークゴルフをするようになったきっかけなどは、以前に「村民の声」にも書いている。まだ、元気村に入村する前のことであるのだが、パークゴルフの会を立ち上げた人は、Iさんという方で、「是非に」と、入会させてもらった。その会で楽しく過ごして、私達夫婦は、体調も良くなり、元気になれた。だが、ある時プレー上で、迷惑と困惑が起きて、その会は退会をしてしまった。この経緯は、私の過去のエッセイに細かく書いている。
話は戻るが、Iさんご夫婦は、かつて「歌声喫茶」に通っておられたのではないだろうか。
「楽譜なんか分からないけどね」
そう言いながら、Iさんはアコーディオンを器用に弾き、リクエストをすれば、ほぼどんな曲でも伴奏をしてくれる人だった。
パークゴルフの会の総会などの後には、アコーディオンの伴奏で、必ず何曲かを歌うのが通例となった。以後、歌の好きな何人かの仲間に入れてもらい、近くの小さな貸事務所に集まって、週に一回は歌うようになった。
そんなIさんから、『うたごえ喫茶―懐かしい歌・思い出の歌集』を貰った。日本の昔からの歌からロシア民謡などを含め、100曲を優に超している歌集だ。時代を共に生きてきていれば、ほとんどの曲が懐かしく歌えるし、「皆で歌う」ことが楽しかった。
▲うたごえ喫茶の歌集
パークゴルフ「I」の会で、遠征して一泊旅行に出かけたが、その食事の後の宴会では、カラオケをすることになり、円座になった席でマイクが順番に回って来た。すんなりと歌い出す人がいたし、私も何の曲を歌ったのか記憶がないが、どうにかやり過ごすことが出来た。斜め前方に座っていた夫は、手を振って、しきりに歌えないことをアピールしている。もう呆れてしまった。
「お酒が飲めないのは仕方ないけど、『歌えません』では、機嫌が悪いように見えるからね!」
私は家に帰ってから、怒りを込めて夫に言い放った。
しかし、カラオケに慣れていない身には、気後れすることもあるだろう。それも、よく分かるのだが…。
夫の行くゴルフも、一泊遠征となれば、宴会後のカラオケは付きものになる。率先して歌える人もあれば、「歌いたいけれど・・・」と、どこか消極的になってしまう人もあるだろう。
そこで私は、Iさんから貰ってアコーディオンを伴奏にして歌った曲の中から、30曲あまりをパソコンで打ち出し、歌に見合ったような適当な絵を挿入して、「懐かしい歌・思い出の歌」と題した歌本を作った。そして、最後のページには、吉幾三が歌っている『これが本当のゴルフだ』を載せた。歌詞の内容が面白く、ゴルフのプレーをすれば、誰もが経験するだろう、痛くて苦い場面がパロディになっている歌である。同感する気持ちになって笑い転げた。以下はその歌詞だ。
■吉幾三の「これが本当のゴルフだ」
(ナイスショットで~す)
♪吉幾三のこれが本当のゴルフです(です)
ハァ~ バーも無(ね)ェ ボギーも無ェ
バーディなんか見だこと無ェ
ティショット ダブッたら
セカンドショットもダブッたぜ
木の下で前見えぬ 7番アイアン持ったけど
球でなく 芝でなく 前の木 しっかり叩いたぜ
おら こんなゴルフいやだ
おら こんなゴルフいやだ
松の木がいやだ
ゴルフやめたら 土地を買って
庭師で 飯食うだァ かァ
(ファ~ ファ~)
♪お客さん 2発ともОBです
ハァ~ 3度目のバンカーだ
打っても打っても出やしね
7回だ 8回だ
後ろが3組 詰まってらァ
キャディがヨ睨んでる いらいらしながら 睨んでる
12回 ヤ 出たけどよ 向こうのバンカーに入ったぜ
おら こんなゴルフいやだ
おら こんなゴルフいやだ
砂地がいやだ
ゴルフやめたら トラック買って
山から砂選ぶ
(お客さん バッグにもう ポール入ってませんけど)
♪ハァ~ パーパット 2メートル
下りのラインだ パーパット
打っただヨ 打っただヨ
青木みたいに打っただヨ
グリーンから 外れたよ そしたらバンカー入ったぜ
詰まってる 詰まってる
うしろが5組も詰まってる
おら こんなゴルフいやだ
おら こんなゴルフいやだ
パットがいやだ
ゴルフやめたら 居酒屋行って
一人でパ~ッとやるだァ
(ハァ~ パ~ッとね)
おら こんなゴルフいやだ
おら こんなゴルフいやだ
パットがいやだ
ダメでもともと 笑えば笑え
性格そのものだ (ほんとうだね)かァ
吉幾三のこれば本当のゴルフだ
ハイ ナイスショットです
ワッハッハッ てか!
当時、千葉の奥の方のゴルフ場からマイクロバスがやって来て、一泊ゴルフに参加するために、ゴルフ練習場に集合している人を迎えに来たものだ。いわゆる「ジジイ幼稚園バス」というものだ。
なんと夫はバスの中で「今夜のカラオケの参考曲に…」と私の手製歌本を皆さんに渡したそうである。宴会になり、カラオケとなる前に希望する曲を紙に書き、幹事に渡すことで、会をスムースに運ぶことになるからと、夫は率先して働きかけていたとか…。
後に参加された方から、夫のことを「呑んでもいないのに、呑んだ人より元気に場を仕切っていた」と聞かされた。半信半疑となったのだが、変われば変わるものだ。この辺りのことは、以前に私が書いたエッセイにも、少し書いたと思う。
当時のゴルフ仲間のIさんは、夫より一回りも若く、立派な体、仕事にも成功されていて、跡継ぎの息子さん達も優秀な様子。ご夫婦でゴルフをされていた。宴会は良いけど、カラオケなんて全然気が乗らない」としきりに言っていて、悪酔いはしないものの、根っからのアルコールが好きな人なのだ。
ところが、だ。あれほど嫌いとも思っていたカラオケが大好きになった、という。Iさんは、少し大きな病に罹ったが、良医に出会ってその脅威からは解放された。そして息子さん達に家業を継がせ、悠々自適な身に。
ご本人が言うには、私の作った歌本に感化されて、歌うようになったらしい。日々をYouTubeなどから検索して、好きな歌手の歌を歌うことで過ごしているという。歌い方もいろいろ研究して、「お家カラオケ三昧の日々」なのだそうだ。
▲筆者がつくった歌集
ちなみに、私の作った歌本には、「老化の源は咽喉(のど)にあり! 声からはじめるアンチエイジング術!」と銘打って、高齢者が罹りやすい病気の予防法を載せた。もちろん何かの健康本から引用したものだ。こんなことが書いてある。
●高い声が出にくい、音が変化する、声がかすれる、大きな声が出にくいなどの現象は、声帯の老化が原因。「楽しく話すこと、歌うこと」を心がけて生活したい。
●歌うことは、認知症予防にも効果的です。何を歌えばよいのか、どこで歌えばよいのかというルールはない。楽しんで歌うということがポイントだ。
●歌を歌うことは、ストレスを発散させ、精神状態を安定させる。血圧を安定させ、認知症予防にもつながっている。薬で血圧を下げていた高齢者が、カラオケをはじめてから血圧が安定した、という事例も少なくない。
●高血圧が原因で動脈硬化や糖尿病を引き起こし、認知症になりやすい。だから、認知症予防には高血圧を改善することだ。
●その方法の一つが歌うこと。認知症を予防したり、高血圧を改善するだけではない。気に入った歌や曲であれば、メロディーや歌詞を覚えやすい。脳を働かせる証でもある。
●最新の曲を覚えることだけでなく、「この歌、懐かしいなあ」という古い歌を聞いたり、歌ったりすることも脳にとって良いことだ。
●歌うことでストレスを発散し、血圧も整え、脳を刺激する。楽しんで認知症予防ができる。
●嚥下障害や誤嚥性肺炎の予防にも、声を出す(楽しく話す、楽しく歌う)ことが大切である。
「楽しんで歌う」ことの大切さを強調したかったからに他ならないのだが…。Iさんには「私は良いことをしたのか~」などと、うそぶいてもみるが、すっかりカラオケで歌うベテランになられたIさんの歌を聞かせてもらって、感心しきりなのだ。
選んだ歌や、自分の声にあわせて、「♯」や「♭」でキーを合わせることで、歌いやすくなるのだとか。 「そっか、なるほど~」であるが、滅多にカラオケ店に行くこともないので、要領がつかめない。
何をするにしても、私は極めることが出来ないが、歌詞に込められた感情や気持ちなどは、未体験なことでも表現して歌えたらと、思っている。懐かしい歌や思い出のある曲ばかりが良いのではなく、人生の機微をしみじみ歌い上げる曲も、軽快なリズムに乗った歌、ウブな恋心や、ドロドロした男女の愛憎劇も、少し英語が入った曲も、人生の終盤になった今は、どんな歌でもトライ出来たら良い。
白井健康元気村でも、村民でカラオケを楽しむ機会が出来ている。呼びかけのメールが届いて、自分の都合が良ければ、喜んで参加して、楽しく話したり、楽しく歌ったりをしたいものだ。