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【連載】小説・マルクスの不倫㊦

2020-03-02 06:34:24 | 【連載】小説・マルクスの不倫

【連載】小説・マルクスの不倫(下)

 

【作者紹介】池田一貴(いけだ いっき)

福岡県生まれ。団塊の世代。東京外大卒。産経新聞社を経てフリーランスのジャーナリスト。現在、ノンフィクションおよびフィクションの作家として執筆活動。国民新聞に3年以上連載したマルクス批判の評論「マルクス先生さようなら」の単行本化に向けて加筆補訂作業中。

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▲カール・マルクス

■登場人物■

▲左からエンゲルス、フレディ(不倫の息子)、エリナ(末娘)、ヘレーネ(不倫相手のメイド)、イェニー(妻)

【小説】

マルクスの不倫(下)

 

                   池田一貴

 

 

       十 公安警察

 東啓大学文学部准教授・小池南冥(みなみ)は、婚約者で画家の里美しのと二人で新宿の喫茶店にいて、極左(過激派)組織・中革派の大幹部、中山清秋を待っている。この日、大教室での講義が終わった直後、今日会いたいと中山から誘いがあったからである。
 「それってクイズなのかい? 哲学者と詩人と政治家の三つから、生涯の仕事を一つ選べって」
 「クイズじゃないわよ。ま、性格診断の一種かな。血液型性格判断みたいな」
 「ふーん。あ、そうか。俺もわかったぞ」
 「なにが? クイズの意味? それとも自分が選ぶべき仕事はどれか、ってこと?」
 「両方だよ。まず、俺が選ぶのは詩人だな」
 「えー、哲学や思想を教えているくせに?」
 「心の底ではロマンチストなのさ。三つの仕事は知・情・意のどれを重視するかを判定するための三区分だね。哲学者は知、詩人は情、政治家は意を表してるんだろ?」
 「正解。さすがね。でも詩人なの?」
 「願望だよ願望。好みの科目が得意科目とは限らないだろ?」
 「はあ、そういうことね」
 「マルクスだって若いころは詩を書いていたけど、詩人の才能はなかった。遠い親戚にあたるハイネは、正真正銘の詩人だったけどね」

 しのが、この席って落ち着かないわね、ウェイトレスがしょっちゅう行き来するし・・・と不満を漏らすと、小池はニヤリと笑って答えた。
 「中山さんは今でも敵対する党派から命を狙われている。だから、喫茶店は必ず、正面とは別に裏口のある店を選ぶし、敵に襲われたら、すぐに調理場から裏口へ逃げられる席をとる。それも正面入口を斜めに見る席が最適らしい。そんな条件にぴたりなのは、この店ではここだ」
 しのは驚いて声もない。そんな危ない思いをしてまで外出しなくてもいいだろうに、と言いたそうである。
 「今日のように外が明るいうちは、まだ危険度が少ない。それに中山さんが動くと、昼間なら必ず警視庁公安一課の私服刑事が二人尾行につく。だから敵に襲われる確率は低いそうだ」
 「えー、刑事が護衛してるようなものなの?」
 「いや、中山さんに言わせると、自分が刑事の目の前で襲われても、公安の刑事は傍観しているだけだろう、と笑っていたよ」
 「そんなあ、たとえ極悪人でも、その人が殺されそうになったら助けるのが刑事、いや警察官の仕事でしょう?」
 「普通はね。でも、公安部の刑事はそうじゃない。一般の警察官や捜査一課、捜査二課などの刑事部の刑事は、国民一人ひとりの生命・財産を守る。しかし公安部が守るのは国民個々人ではなく、国家・社会そのものだ。つまり、そのために個人が犠牲になってもしかたがない、というのが基本的な考え方だ。だから、中山さんの死を傍観する可能性もあるってことさ」
 「し、信じられない・・・」

 

       十一 後期高齢者と孫

 中山清秋が正面のドアから入ってきた。
 「いま、中山さんが入ってきたから、あまりジロジロ見ないで帰ってくれ」
 しのは、わかった、と答えて席を立ったが、中山が連れてきた女性を見て「あっ」と声をあげ、立ちすくんだ。
 「あなたは・・・哲学者・・・」
 その女性は授業中、しのに三者択一のクイズを出した女子学生だったのである。彼女自身は哲学者を選択した。
 「さきほどはどうも。授業中に話しかけて、ごめんなさいね。私、岡田マリです。小池先生には教室移動中に自己紹介しましたよね」
 「あ、はい。もちろん覚えていますよ。しかし、中山さん、岡田さんとはどういう関係で・・・」
 「恋人どうしに見えるかね?」
 「まさか・・・」
 「いやね、ぢいぢ。先生にはちゃんと本当のことを話してよ」
 「ぢ、ぢいぢ?・・・な、中山さん」
 「この子は、わしの娘の娘、つまり孫だよ」
 「えーっ」
 中山が来たら、音もなく帰るはずだった里美しのは、帰るに帰れなくなってしまった。
 「小池くん、わしはそちらの席の方が都合がいい。替わってくれんか」
 中山が正面入口の見える席を所望したので、小池は素直に席を譲った。この喫茶店では中山の定位置である。小池はしかたなく里美しのを二人に紹介した。婚約者とは言わず、友人として。
 ふいに中山が言う。
 「いま入店してきた男二人は公安だ。・・・よっ」
 中山は軽く右手をあげた。年配の刑事だけがそれに応えて軽く手をあげた。親しくはないが顔なじみ、といった感じの互いの応答である。
 「小池くん、今日のあんたの講義はおもしろかった。で、少々質問したいことがあったので、ここに呼び出したというわけだ」
 「え、講義を聴いていたんですか。教室で?」
 「いや、ボイスレコーダーで録った声を、同時に電波で飛ばす方式らしい。詳しい方法は知らんが、うちの技術班にとっては容易(たやす)い仕組みだと聞いた。もちろん、教室であんたの声を録ったのはこの孫だが」
 「はあ・・・無断でそういうことをされては困りますね。下手をすれば言論弾圧につながりかねない。部外者でも私は聴講を認めていますが、講義内容の無断録音と拡散は問題です。とくに学生の勉強という目的以外の二次使用は禁じています。以後、おやめください」
 「そう硬いことを言いなさんな」
 「いいえ。中山さんも政治に携わる人間なら、自由な言論が脅かされることを問題にしたことはあるでしょう。国家権力が言論を盗聴し弾圧するのは許せないが、民間の政治団体なら許される、という理屈は成り立たない」
 「わかったわかった。事前に断らなかったことは謝る。しかし理解してほしい。わしがのこのこ教室に出向いたら、おたくの大学にも革プロ派がいるから、教室が修羅場になる可能性もある。それを避けるためにも・・・」
 「わかりました。次からは事前に了解を得てください。もちろん二次使用は禁止です」
 中山清秋は無言で頷いた。岡田マリも、勝手なことをしてすみません、と謝罪した。

 

       十二 メイド死亡事件

 「で、質問だがね、マルクスの不倫の相手は、ヘレーネ・デムートだけだったのか、それとも他にもいたのか」
 中山の関心事もそこにあったか、と小池はなぜか微笑ましくなった。
 「いた、と思いますが、明確な証拠は残っていません。その意味では証拠不十分で、推定無罪でしょうね」
 「やはりそうか」
 「というと、何か心当たりでも?」
 「うん。別のメイドが死んだ件でね」
 「ああ、その件をご存じでしたか」
 小池南冥は授業では触れなかったが、喉元まで出掛かっている話があった。マルクス家のメイド死亡事件である。ヘレーネの出産から十年ほど後の話だが、ヘレーネの異母妹でマリアンネという若い女性が、やはりメイドとしてマルクス家に加わった。彼女が突然死したのである。
 マルクスの女性関係に厳しい目を向けたある著書は、この突然死を「堕胎の失敗の結果」と推測している。父親はマルクスであった、と。
 十九世紀半ばの当時、医学はまだ発達しておらず、妊娠中絶には危険がつきまとった。ある種の毒性物質を飲用することで堕胎をはかったからである。吐剤、催眠剤、キニーネ、水銀、火薬とジンを調合した服用剤・・・等々、仮に中絶に成功したとしても妊婦の健康を損なう恐れが強かった。場合によっては死に至ることも。
 同時代(江戸後期)の日本では、堕胎は「中条流」と呼ばれ、怪しげな医者が中絶に手を貸した。当時は医者に国家資格などはなく、自称医者でも営業できた。中絶で妊婦が健康を損ない、または死に至る場合があったことは英国と変わらない。いや、正常な分娩でも産後の肥立ちが悪ければ命を落とす場合があったのだから、女性にとって妊娠・出産・中絶は命がけの仕事だったといってよい。
 ヘレーネが妊娠・出産したとき、マルクスと妻イェニーとの関係は険悪になり、ギクシャクし、妻は鬱状態におちいった。もし再びマリアンネの妊娠が発覚したら、今度こそ夫婦関係は破局を迎えたかもしれない。だからマリアンネに対しては、マルクスが必死に堕胎を勧めた(というより命令した)可能性が大である。その結果がメイドの突然死だとしたら、マルクスの罪は深い。
 しかし、明確な証拠はないのである。
 小池の説明に、中山は満足そうに頷いた。
 「さすが学者先生だね。話が公平というか客観的だ。マルクスを貶めることだけを目的としていない、ってことがわかるよ」
 「でもね、中山さん、勧善懲悪じゃないけど、マルクスも結局、罰を受けたんじゃないかな。妻イェニーが早死にしたことと、子供たちがみんな不幸な死に方をしたことも、マルクスが受けた罰だったような気がします」
 「そうかい」
 妻イェニーの兄弟はみな長生きしているし、両親も老衰で死去しているから、病気に弱い家系ではなかった。しかしイェニーは、マルクスの不倫が発覚して以来、ひどい精神的衰弱状態になり、心のバランスを崩した。因果関係は証明できないが、そんな夫婦の危機のなかで幼い子らが次々と夭折していった。三人が幼くして死亡しただけでなく、大人になった次女の最期は夫との心中死だったし、末娘エリナは結婚詐欺師に事実上殺された(心中する約束で先に青酸カリを飲み、男は飲まなかった)のである。
 話を戻して、一八五一年三月に生まれた三女フランツィスカは、その翌年、わずか一歳で亡くなった。貧困のため幼児用の棺桶をすぐには購入することもできない状態だった。母イェニーは「天使の遺体」が柩もなく床に横たわっていると嘆き悲しんだ。
 一八五一年六月にはメイドのヘレーネ・デムートが、マルクスの不倫の息子フレディを生んだ。当時のことを、妻イェニーは政治的配慮をにじませながら書いている。
 「一八五一年初夏には、またひとつの事件が起きた。そのため内外の憂慮はいよいよ増すばかりだった。これについては詳しく触れようとは思わない」と。
 筆にするだに心乱れる事件だったことが窺われる。同時に、詳細を書き残せば、これまでの政治的苦労が水泡に帰すような破廉恥事件であったことも、彼女は知っていた。彼女の精神は激流に溺れ、鬱に沈み、冥海の底をさまよっていたのである。さらに、マルクスの不倫またはその可能性は、ほかにも数件あった。

 

       十三 不倫妻と拳銃

 不倫の兆候は結婚の前にまでさかのぼる。結婚前なら、マルクスが他の女性と関係したとしても「浮気・不倫」とは呼べまい、というのが常識的な見方だろうが、マルクスとイェニーはすでに結婚の約束を交わし、親の反対でまだ正式な挙式をしていないだけの状態だったから、倫理的には相手を裏切ってはいけない関係にあった。
 にもかかわらずマルクスは、年上の人妻と怪しいピクニックに出かけたりしていたのである。相手の名はベッティーナ・フォン・アルニム、やはり貴族である。イェニーは事実を知り、嫉妬していた。
 ほかに結婚後、名前がわかっているだけでも、テンゲ夫人、さらに姪のナネッテとの関係も疑われている。年上女性(妻も四歳年上)との関係だけでなく、正反対のロリータ好みという指摘もある。しかしそうなると、年齢に関係なくただの色情狂だったということになりかねない。どうも、これらは有名税のひとつかもしれない。
 妻イェニーは四十代で天然痘を患い、美しい顔に病気の跡、いくつもの瘢痕(あばた)を残した。夫の不倫を疑う妻にとっては被害妄想を募らせる要因でもあったろう。
 鬱が原因かどうか定かではないが、イェニーは肝臓を患い、肝癌となって六十七歳で死去した。短命とまではいえないが、病気に強く八十歳近くまで生きた人の多いヴェストファーレン家の家系では、早死にの方である。
 マルクスは悲嘆にくれた。なに不自由ない貴族のお嬢さんを、質屋通いの貧乏生活へと導き、あまつさえ不倫で苦しめてしまったことを、マルクスは後悔した。いや、後悔したにちがいない、とぼくは思いたいですね。小池南冥はそう中山清秋にいった。
 「きみも、けっこうセンチメンタルだね」というのが中山の答えだった。「マルクスはそんなに甘くない。相当に冷酷だよ。無実の人間を『血の粛清』で殺すぐらいの太い神経を持っていなければ革命なんて実現できない。レーニン、トロツキー、スターリン、皆そうさ。マルクスはその元祖だ。妻を悲しませたことなんか、小さなエピソードのひとつにすぎない」
 小池は憮然とした表情で聞いていた。
 「小池くん、日本人にはロマンチストというか、センチメンタルな自称革命家が多すぎる。日本左翼の走りである幸徳秋水にしてからがそうだ。日本で最初にマルクスとエンゲルスの『共産党宣言』を翻訳・紹介したのは、幸徳秋水と堺利彦の二人だった。共訳だがね。幸徳は、マルクスに似て男女関係にだらしないところがあったが、マルクスと違い、その関係に溺れる欠点があった。大逆事件で死刑に処せられたのも、結局その報いだったと言えるだろう。あれは冤罪だったと思うが」
 「その点に関しては私も同意見です。大逆事件は、爆裂弾を作って天皇弑逆を狙った管野スガ、宮下太吉ら四人の未遂罪としては確かでしたが、検察がそこに幸徳を加え、主犯にでっち上げたのは、幸徳と管野の不倫関係があったからでしょうね。影響力の大きい幸徳が狙い撃ちされたのです。あと『共産党宣言』は英訳本からの重訳でした。訳文を掲載した『平民新聞』が出たのは明治三十七年、日露戦争のさなかです。幸徳や管野が大逆事件で検挙されたのは明治四十三年、死刑執行が翌四十四年でした。数十名の大量検挙で左翼は壊滅的な打撃を受けましたが、たまたま赤旗事件で下獄していた堺利彦、山川均、大杉栄、荒畑寒村らは冤罪に巻き込まれずに助かりました」
 「幸徳秋水は大逆事件なんて起こすはずがないんだよ。彼は『社会主義神髄』という著書の中で「社会主義と国体」についてこう述べている。「我日本の祖宗列聖の如き、殊に民の富なりと宣ひし仁徳天皇の大御心の如きは、全く社会主義と一致契合するもの」で「是れ東洋の社会主義者の誇りとする所」とまで言っているのだから」
 「秋水は達意の文で知られた名文家で、かつ熱情あふれる男でしたが、どうにも下半身がゆるすぎます。妻との結婚式の初夜に、吉原へ女郎を買いに出かけていますし、後輩の荒畑寒村が赤旗事件で獄中にあるとき、荒畑の妻・管野スガと不倫の関係になりました。卑怯千万ですね。これで一気に仲間内の評判を落としました」
 「四十年ほど前、荒畑さんが九十二歳のとき、俺は会ったことがあるよ。本当に幸徳秋水を殺そうと思ったんですか、と訊いたら、不機嫌な顔で『寒村自伝』に書いた通りだよ、との答えだった」
 獄中の噂で秋水と管野スガの不倫を知った寒村は、出獄するとすぐに、二人が宿泊中の湯河原の旅館を訪ねた。財布をはたいて東京からの片道切符を買い、懐には拳銃を忍ばせていた。二人を殺して自分も死ぬ覚悟だったから、帰りの汽車賃はない。鼻息荒く旅館へ上がると、時すでに遅し、二人は大逆罪容疑で検挙された後だった。寒村は泣きながら線路をとぼとぼと東京まで歩いたという。
 「どうにもやりきれない話ですね。でも、レーニンやスターリンと違って人間味があるのも事実です」
 「その人間味は、革命家としては弱点だよ。冷酷無比にならねばならん」

 

       十四 ド素人

 これを聞いた小池は、厳しい目で中山を睨んで言った。
 「共産主義者って皆そうなんですか。冷酷無比・・」
 「皆かどうかは知らん。しかし革命の歴史を見れば、罪もない一般人民が革命本隊に殺されているのは事実だ。例外はない。革命家は無辜の大衆を煽り、信用させ、利用するが、邪魔になった一部人民は必ず消される。殺されているんだ。人民のためと叫びながら人民を殺す。それが革命さ。おれもこの歳になってやっと理解した。いや理解じゃない。肚にすえたのだ。今さら変えようがない」
 彼の手は、敵とする他党派活動家の血にまみれている。しかもすでに七十代後半の後期高齢者である。今さら改心して罪を詫び、刑に服すこともできない。あと何年生きられるか、彼自身にもわからないのだ。
 「マルクスには、妻子を愛する男という側面のほかに、情熱的かつ冷酷な革命家という側面もあったでしょうね。もちろん、資本主義社会のメカニズムを解明する学者という側面もありましたし、さらに不倫に走る好色漢という側面もあったでしょう。どれか一つをとらえて『これがマルクスだ』とは言えないでしょうが、中山さんはどのマルクスが好きですか。革命家マルクス?」
 「いや、一番嫌いだね。むしろ・・・」
 意外な返答に、小池としのが顔を見合わせた瞬間、大声で「逃げろ!」という叫びが上がった。声の方向を見ると、公安の刑事がイスから立ち上がって、腕を振っている。中山を振り返ると、すでに孫の手を引いて調理場へ駆け込んでいた。八十歳近い老人とは思えない迅速な行動である。
 「ケッ、ド素人が!」という声が耳に残っているが、それは中山が席を立つ瞬間に、吐き捨てるように漏らした言葉だった。
 そのド素人が三人、ヘルメットに鉄パイプで武装して正面入口から雪崩れ込んできた。逃げた中山を追って調理場へ殺到した。皿やカップなど食器が割れるけたたましい音が店内に響き渡り、客席は騒然とした。公安の刑事二人が駆け寄ってきて「ケガはありませんか」と小池に問うた。小池は「大丈夫です」と答える。
 「あれは何ですか。内ゲバですか」という小池の問いには何も答えず、公安の刑事は調理場へ入ってゆく。中山も岡田も、武装した三人組も、すでに裏口から消え去った後である。刑事が戻ってきて言う。
 「気をつけてお帰りください。できたら、タクシーで。まだ仲間がいるかもしれません」
 「そのつもりです」と答えた。事情聴取も何もないので拍子抜けしたが、歩道へ出て、数台のパトカーの到着を背中に聞きながら、悟った。
 (ああ・・・全部盗聴されていたのか・・・) (完)

 

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