◇幻想詩人YO=YO◇    □Visionary Poet Yo=Yo□

【死刑囚】エリク君が覚醒するような詩・死刑への依存と甘え なお著作権は放棄しておりません、無断転載はお断りいたします

 ◇ 雨と砂時計 その20◇

2013-10-31 05:04:55 | 小説
僕と祖父は高校時代の3年間、ひと言も口を利かずに終わってしまった。

心を打ち解ける事もなかった。

僕は自室にこもって、チャイコフスキーばかり聞いて過ごしていた。

一番良く聞いたCDは、幻想序曲「ロミオとジュリエット」だった。

祖母は背の小さい、笑顔の可愛い人だった。

母とは血のつながりはなく、後妻だった。

毎朝、リンゴパイを焼いてくれた。

僕は祖母の焼いたリンゴパイと、電子レンジで温めた牛乳を飲んで、

斐太高校まで毎朝通っていた。



朝目が覚めると、彩子が僕の膝の上で寝ていた。

彩子はパステルグリーンのドレスを脱いで、下着一枚になっていた。

コンビニで買った焼酎の瓶が空になっていた。

彩子のドレスが、床にくちゃくちゃになって放り出されていた。




 ◇ 雨と砂時計 その19◇

2013-10-31 04:34:26 | 小説
第六章


母が死んだ時(殺された時)の事を父は何一つ僕に語ってくれなかった。

テロリスト達に、最初に女を解放してくれるように交渉しなかったので、

マスコミは、父を卑怯者呼ばわりしていた。

母の遺体が日本に帰国する事になっても、父は帰国しなかった。

僕は日本に帰国してから、母方の祖父の家に暮らし始めた。

ボーイングが小牧空港に着陸する時に、東山のガラスの塔が見えた。

そして建築中のナゴヤドームの屋根が銀色に光っていた。

当時の名古屋空港は、まだ国際空港と呼ぶには手狭で、

小さな地方の空港に過ぎなかった。

僕が、到着ロビーに出てゆくと、マスコミのカメラが数台待ち構えていた。

日本政府の尾形さんと言う人が、僕を迎えに来ていた。

黒塗りの大きな車に乗って、母の遺体と僕は国道を高山に向かった。

祖父の家は高山市の中心部にある、武家屋敷だった。

祖父は中学の教諭を退官していて、時々寺で剣道を教えていた。


 ◇ 雨と砂時計 その18◇

2013-10-31 02:35:20 | 小説
財布から50ポンド札が二枚消えていた。

「優しさも金で買えるんだよ。」と言うテレビドラマのセリフが浮かんできた。

たしか、ジャニーズの山口達也が斉藤由貴に言っていた。



彩子たちのグループと、ヒロシとなぜか僕は、その後2次会に行った。

場所は錦の居酒屋だった。

手羽先のから揚げや、どて煮などを食べながら、僕はしらふでなくなっていた。

檸檬チューハイを6杯飲んだ。

「大野君て付き合ってる人いるの?」

彩子が直球で聞いてきた。

「僕はゲイで、年下の男の子と同棲してます。」と僕は酔った勢いで喋った。

その後、どういう展開でそうなったのか、覚えていないが、

彩子とヒロシがタクシーで僕を僕のマンションまで送ってくれて、

そのまま朝まで飲んでいた。

目が覚めると、ヒロシとジュンが一緒にベッドで寝ていた。

 ◇ 雨と砂時計 その17◇

2013-10-31 02:16:40 | 小説
ホテルのスタッフが、何かに気がついて部屋をノックして、部屋の中に入って来た。

僕はテーブルの上に強い失調症の薬と水を置いていた。

そして、その横に何かあったらこの薬を飲ませてくださいと英文で書いたメモを置いておいた。

海外を一人旅している時は、いつも携帯しているラミネート加工された英文のメモだ。

それを読んで、スタッフのマイクと言う名の30代の男が、僕に薬を飲ませてくれた。

そして、腹を強く殴ってくれて僕はそのまま気絶した。

父が死んで9年も経つのに、いまだに父の幻影に怯えている。

後でマイクと喋って、マイクはホテルスタッフになる前に、フランス外人部隊にいた

経験があるそうだ。

強い葱系の体臭のある男だった。

その夜はマイクは非番で、僕の部屋で僕の話を聞いてくれた。

父の事や、ジュンの事を僕はさんざん喋った。

そして、マイクの太い蒲鉾の様な腕に抱かれて眠った。

翌朝起きると、もうマイクはいなかった。

ホテルの別のスタッフに尋ねると、マイクは今日はデイオフだと言っていた。

 ◇ 雨と砂時計 その16◇

2013-10-31 01:57:32 | 小説
第五章


ロンドンは最悪だった。

小さなB&Bに泊まっていたが、部屋の中で幽霊を見た。

色とりどりの幽霊で、黄色や緑やオレンジや朱色や原色に近かった。

その幽霊達が、どんどん増殖していって、部屋中を埋め尽くしていった。

幾何学模様の階段状の、菌瘤のような増殖力だった。

僕は統合性失調症だ。

夢と現実の境界線が途切れてしまっている。

夢を見ながら、うなされて、父の首のない広い裸の胸が目の前に現れていた。

林の中で、一人取り残されてしまったような感じだ。

僕は子供の頃から、強度のファザコンだった。

ホテルのベッドの上で、父の胸に抱かれて眠っている夢を見ていた。

煙草を吸って、ヤニで黄ばんだ父の歯。

そして、白髪が混じっている無精髭。

父の体から発せられている、渋い男の体臭。

それらの思い出の中で、僕は夢を見ていた。

そして、幽霊が現れた。