◇幻想詩人YO=YO◇    □Visionary Poet Yo=Yo□

【死刑囚】エリク君が覚醒するような詩・死刑への依存と甘え なお著作権は放棄しておりません、無断転載はお断りいたします

 ◇ サイコ その10◇

2013-09-29 23:15:32 | 小説
ジュンは死なない。

ジュンが死んだら世界も崩壊する。

ジュンは泣かない。

ジュンは、サッカーの試合の時のように、花びらのように笑うだけだ。

そして、世界が滅びる時も、ジュンが花びらのように笑って、

人類を救ってくれる。

暑くもなく、寒くもなく、涼しくもなく、暖かくもなく、何もない世界が

もうすぐやって来る。

金儲けもなく、酷使される労働もなく、基準もなく、座標もなく、

すべてが平等の世界がもうすぐやって来る。

その時、ジュンは神になる。

ジュンは時間は循環しないと言った。

人間は錯覚しているだけだ。

朝が来て、夜が来るから、時間が循環していると錯覚している。

夏が来て、冬が来るから、時間が循環していると錯覚している。

ほんとはそうじゃない。



「客(ビッグサム)から電話だ。」ジュンの携帯が鳴った。

 ◇ サイコ その9◇

2013-09-29 22:53:42 | 小説
何にもモルヒネを使っていないのに、ジュンの施術は痛みを取り去ってくれた。

ジュンがキャプテンだったら、部員はみなジュンに付いていくだろう。

こんな神の手で癒されて、試合の疲れも消え去ってしまう。

ジュンの霊魂が、やさしく包み込んでくれている。

このホテルの部屋の空間が、世界の主管であるジュンのものであるかのように。



ジュンはマッサージしながら、マッサージのコツをテレパシーで教えてくれている。

相手の痛みを感じて、それとシンクロする「て」の動き。

もし多次元の宇宙ならば、痛みと言う神経作用は、どこか別の次元に消えてゆく。

「禅」のような施術だ。

ジュンが教祖(グル)になったら、きっと世界中から痛みが消えていく。

きっと、きっといつか、そんな日がやって来る。

そうだ、人類が滅びる前に、ジュンが救世主になる。

きっと、きっといつか。



 ◇ サイコ その8◇

2013-09-29 22:39:29 | 小説
ジュンは、体調を気にしてくれた。

最近調子の悪い事はないかと尋ねた。

腰痛が持病だから、ジュンはマッサージしてくれた。

夜の間、不自然な姿勢で男の股間を嘗めているので、腰に負担がかかってしまう。

ジュンはベッドの上に両膝を付いて、大きな掌で優しく揉み解してくれた。

ジュンの肌は、すべすべと言うようり、しっとりとしていた。

そして、適度に冷たかった。

運動部のキャプテンだった高校時代、自ら率先して後輩のスポーツマッサージをしていた。

怪我をした部員の事を誰よりも気にかけていた。

そして、独学で本格的なマッサージ技術を身につけていた。

こうすれば、客が喜ぶんだと言って、その技を教えてくれた。

ジュンの手は神の手。

ジュンの手に揉まれていると、筋肉がとろけていく。

まるでふわふわした、宇宙のベッドの上で時間の穴の中に落ちていくよう。

「時間は循環しないんだ。」ジュンは口癖のように言う。

「時間は落ちていくだけだ。落ちたら、もうそこから人は這い上がる事はできない。」

ジュンはまたポツリ言った。


 ◇ サイコ その7◇

2013-09-27 05:43:25 | 小説
或梨と言うのは、ジュンの妹の名まえだった。

漢字は有里だった。

6歳の時に、心臓の手術が失敗して死んでしまった。

ジュンが泣き続けていたので、両親は犬を飼う事にした。

大きな犬も検討したが、候補から除外された。

家の中で飼えるチワワに決まった。

ジュンの家は借家だったからだ。

大家に内緒で飼い始めたので、或梨は一度も外界に出たことがない。

ジュンがホテルに住み始めるようになった時、

バスケットに入れられて、一瞬外に出ただけだ。

ジュンの荷物は、或梨と小さなトランク一つだけだった。






 ◇ サイコ その6◇

2013-09-27 04:27:40 | 小説
ジュンは準優勝のパレードに参加しなかった。

ジュンの両親は、国立に向かう途中、交通事故で亡くなっていたからだ。

地元の商店街には、ジュンを一目見ようと多くの女子中高生が集まっていたのに、

準優勝のトロフィーは副キャプテンが持って行進していた。

ジュンは1月の新学期、学校にも来なかった。

ジュンは2月に傷害事件を起こして、卒業式の10日前に自主退学した。

推薦で大学進学も決まっていたのに。

ジュンは腕から背中にかけてTATOOを入れた。

ジュンが半袖のシャツを着ていると、長袖を重ね着しているように

見える。


買い物を終えて、ジュンが部屋に戻ってきた。

珍しく散髪もしてきた。

スキンヘッドになっていた。

DJホンダの帽子がよく似合っている。

或梨がジュンに尻尾を振って出迎えている。

或梨はジュンが6歳の時に、ジュンの双子の妹の代わりに

ジュンの家にやって来た。