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奥村土牛ワールドを味わう決定版の展覧会_東京 山種美術館 3/31まで

2019年03月15日 | 美術館・展覧会

近代日本画コレクションでは日本随一の山種美術館が、広尾に移転して早くも10年経つようです。今年2019年は山種美術館の誇る近代日本画を大々的に披露する展覧会が目白押しです。その第一弾で、楽しみにしていた奥村土牛(おくむらとぎゅう)展を訪れました。

  • 山種美術館・創設者は無名時代から土牛を支援しており、日本屈指の土牛コレクションを所蔵
  • 代表作で屋外を描いた「鳴門」「醍醐」の他、「浄心」「茶室」などモチーフも多彩
  • 画業を俯瞰できる展示がなされており、繊細な色彩が個性的な土牛の画風の変化を味わえる


山種美術館の数あるコレクションの中でも、質的にとも量的にも充実度は奥村土牛がトップクラスです。山種美術館の日本画への熱い思いを感じることができる展覧会です。


交差点名が「山種美術館前」になっている

山種美術館を創設した山崎種二(やまざきたねじ)は、1920年代から米・株相場で財を築き始めます。旧:山種証券や米の卸売り会社を経営する傍ら、横山大観・上村松園・川合玉堂ら現役の日本画家たちとの親交を続けていました。奥村土牛は無名時代から面倒を見ていたこともあり、館にとっては特に思い入れの深い画家なのでしょう。

奥村土牛は1889(明治22)年生まれで、1893(明治26)年生まれの山崎種二とほぼ同世代です。画家を志して小林古径(こばやしこけい)に師事しますが、院展に初入選して名前を知られるようになったのは38歳とかなり遅咲きの画家です。

土牛はその後も院展に出品を続け、出品作は山崎種二が買い続けます。土牛は1962(昭和37)年に文化勲章受章、1978(昭和53)年に日本美術院理事長と、戦後の日本画家の重鎮に上り詰めます。

今回の展覧会では館が所蔵する院展出品全35点が展示されます。そのため画家としての名を高めた40代以降、重鎮に上り詰めるまでの画業の変化を俯瞰できる、またとない展示を味わうことができます。



初期の作品は、土牛の代名詞のような「グラデーションのように繊細な色彩の変化」はあまり感じられません。それよりも師の小林古径の画風に近く、セザンヌらポスト印象派から学んだとされる奥行きのない面的な色使いも感じます。

【展覧会公式サイトの画像】枇杷と少女

「枇杷(びわ)と少女」は1930(昭和5)年、遅咲きデビュー直後の作品です。41歳ですが、タッチには若々しさを感じます。華やかさのある枇杷の木の下の隅に、無表情で中性的な地蔵のような少女を配しています。謎めいたような構図が印象的です。

鹿を描いた「春光」や、朝顔を描いた「花」は、タッチに若々しさはなく日本画表現が一定の水準に達したことを感じさせる作品です。色使いは繊細になり、線表現がより美しくなります。

【展覧会公式サイトの画像】浄心

土牛は60代に一気にブレイクしたようです。土牛らしい繊細な色彩のグラデーションが見られるようになります。「浄心」は68歳の作品で、中尊寺の秘仏・一字金輪仏を描いたものです。ほのかな後光に包まれて空中に浮かんでいるように見せています。立体感を感じるほどに如実に描いており、思わず手を合わせてしまうようなオーラを発しています。

「水連」は66歳の作品、赤いハスの花が咲く水鉢を鉢が置かれた台を省略して描いています。極楽浄土を思わせるように構図ですが、鉢の外側に黄色い魚が泳ぐ姿を描いています。この魚が妙に現世を感じさせ、デザインとして効いています。

【展覧会公式サイトの画像】鳴門

「鳴門」は70歳の作品、その名のごとく渦潮がモチーフです。渦を巻く白い波が鶯色で表現した海に吸い込まれていく様は、土牛が揺れる船の上で何度も写生して表現したものです。渦から立ち上る水しぶきで海岸線が見えなくなっており、その奥の陸地も同じ鶯色を使っています。渦潮という大自然の芸術に感謝するような深い精神性を感じる傑作です。

京都の大徳寺真珠庵を描いた「茶室」は74歳の作品、土牛が過去に学んだ様々な表現を集大成したような名品です。キュビズムのような立体的な構図、ポスト印象派のような奥行き感のない室内表現に加え、土牛らしい繊細な色彩の変化が、”さび”を感じさせる土壁の表現に見られます。

【山種美術館 Google Arts & Culture の画像】醍醐

「醍醐」は京都に足しげく通って写生を続けた83歳の作品です。すでに新幹線は開通していましたが、年齢を考えると驚異的なフットワークです。醍醐寺三宝院のしだれ桜の全体像を描かずに、人の目の高さの視界に飛び込む花の下の空間を、白い土塀を借景にして描いています。土塀があることで、絶品の桜の美しさをより如実に感じることができます。土牛の代表作と言われることに納得できる名品です。展覧会順路の最初に展示されており、土牛作品への期待感を一気に盛上げてくれます。

「吉野」は85歳の作品で、色彩のグラデーションが円熟に達していることがわかります。私的使用に限って、唯一写真撮影が許可されている作品です。

【展覧会公式サイトの画像】富士宮の富士

「富士宮の富士」はなんと93歳の作品です。大観と同じく土牛も富士山を多く描いています。この作品は、大観に目立つ精神性ではなく、写生に基づく純粋な山としての美しさを追求しているようです。両巨匠の個性の違いを感じることができます。


美術館からも近いシブヤは訪れるたびに風景が変わる

企画力では定評のある山種美術館らしい、充実した構成です。6月からはこちらも日本随一のコレクションを誇る「速水御舟」展が開催されます。絶対おすすめします。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



文庫本サイズで画家の生涯と名作を味わう「ちいさな美術館」シリーズ

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山種美術館
広尾開館10周年記念特別展 生誕130年記念「奥村土牛」
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:山種美術館、朝日新聞社
会期:2019年2月2日(土)~3月31日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

JR山手線・埼京線・湘南新宿ライン「恵比寿」駅下車、西口から徒歩12分
東京メトロ日比谷線「恵比寿」駅下車、2番出口から徒歩12分

JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:35分
東京駅→東京メトロ丸の内線→霞ヶ関駅→東京メトロ日比谷線→恵比寿駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。


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