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奈良博「糸のみほとけ」展 ~糸の表現力には息をのむ

2018年07月16日 | 美術館・展覧会

奈良国立博物館で、日本の仏教美術を代表する至宝である国宝・當麻曼荼羅(たいままんだら)を主役にした展覧会「糸のみほとけ」が始まりました。

信仰の対象となる仏様を表現するにあたって古代の日本では、絵画・彫刻ではなく、糸を用いた刺繍や織物による像造が盛んに用いられました。この展覧会は、糸で表現した仏教美術の魅力を余すことなく伝えています。

1,300年前の染色が現在も残っていることには、まさに驚きです。仏様をいかに綺麗に表現するか、古代の先人たちの熱い思いが伝わってきます。



日本や中国では古くから、刺繡(ししゅう)や綴織(つづれおり)で仏様を画像として表現することが行われており、本尊としてあがめられてきたものも少なくありません。奈良の當麻寺は綴織で表現した「當麻曼荼羅」を本尊とする代表例です。

「曼荼羅」というと、空海が中国から持ち帰り、密教の世界観を表現した「両界曼荼羅」が有名ですが、當麻曼荼羅は密教とは無関係です。正式には観経変相図(かんぎょうへんそうず)と呼ばれ、西方極楽浄土の様子を表現しています。日本の中世社会に絶大な影響を与えた浄土信仰のかなり初期の痕跡ともいえます。

當麻曼荼羅は約4m四方の大作です。構図や技法が極めて高度で作例が他に存在しないことから、奈良時代以前に中国で造られたものであると考えられています。鎌倉時代頃まで約400年間、現在のように當麻寺の本堂に掲げられていたことこら損傷が激しく、近年までは絵画か織物かも判別できないほどでした。

この展覧会で展示されている當麻曼荼羅の国宝の原本も、ほぼ全面に渡って茶色に変色しており、おおまかな画像がやっと確認できる程度になっています。正倉院の宝物のように、光と湿度から守られて保管されてきたものとは異なります。しかし1,300年前の織物が現存していることだけでも、この仏様が発する強いオーラを感じることができます。


今までの奈良博の特別展とは逆に、西館から展示が始まる

展覧会では、完成当初の當麻曼荼羅の姿をしのぶことができる類似品や複製品が展示されています。

【公式サイトの画像】 主な出陳品

京都・真正極楽寺(真如堂)の刺繍當麻曼荼羅は、真如堂を菩提寺としていた豪商・三井家が江戸時代に寄進したもので、奈良時代の當麻曼荼羅の姿に近いと考えられています。

刺繍であるがゆえに、平面の中に浮き出た立体感が印象的です。ムスリムや欧州のタペストリーのような太い糸による立体感と構図のシンプルさはないものの、線と面の表現や構図はきわめて日本的で繊細です。金糸を主に使っており、光り輝く西方極楽浄土のイメージを見事に表しています。


(株)川島織物セルコンによる部分復元
【画像出典】(株)川島織物セルコン ニュースリリース

日本を代表する織物メーカー・(株)川島織物セルコンによる国宝・綴織當麻曼荼羅の部分復元も注目です。可能な限り忠実に古代の技法で制作されましたが、1日に織ることができた大きさは3.5cm四方に過ぎなかったことは驚愕です。糸でなければ伝えられない“ぬくもり”をとても強く感じます。

【公式サイトの画像】 奈良国立博物館蔵 国宝「刺繍釈迦如来説法図」

国宝・刺繡釈迦如来説法図(ししゅうしゃかにょらいせっぽうず)は国宝・綴織當麻曼荼羅とほぼ同時代の制作ですが、こちらは保存状態がよく発色が美しくのこされています。センターの釈迦が纏う赤い袈裟が、構図としてとても効いています。

【公式サイトの画像】 大英博物館蔵「刺繡霊鷲山釈迦如来説法図」

刺繡霊鷲山釈迦如来説法図(ししゅうりょうじゅせんしゃかにょらいせっぽうず)は、中国・敦煌の莫高窟(ばっこうくつ)で発見された繡仏(しゅうぶつ)です。中国大陸的なおおらかな仏様のお顔の表現が美しい逸品です。


奈良博の案内もようやくInternationalに近づきました

「糸による仏教美術表現」が、古代から継続して日本で行われてきたことがきちんと学べる展覧会です。仏教美術の美しさは彫刻や絵画だけではありません。


奈良の鹿と外国人観光客が木陰で仲良く休む

こんなところがあるのです。
ここにしかない「美」があるのです。



写仏にも使える図版と解説で曼荼羅を徹底理解


奈良国立博物館
修理完成記念特別展 糸のみほとけ ―国宝・綴織當麻曼荼羅と繡仏―
https://www.narahaku.go.jp/exhibition/2018toku/ito/ito_index.html

主催:奈良国立博物館、読売テレビ、日本経済新聞社
会期:2018年7月14日(土)~8月26日(日)
原則休館日:月曜日
開館(拝観)受付時間:9:30~17:30、毎週金・土曜と8/5-15は18:30まで

※8/5までの前期展示、8/7以降の後期展示で一部展示作品が入れ替えされます。
※この展覧会は、今後の他会場への巡回はありません。

おすすめ交通機関:
近鉄奈良線「近鉄奈良」駅下車、東改札口C出口から徒歩15分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:1時間15分
JR大阪駅→JR環状線→鶴橋駅→近鉄奈良線→近鉄奈良駅
【公式サイト】 アクセス案内
※この施設に駐車場はありません。
※渋滞と駐車場不足により、クルマでの訪問は非現実的です。


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