京都・相国寺の承天閣美術館で「浮世絵最強列伝」が始まりました。アメリカ人のリー・ダークス氏のコレクションをお披露目する展示会で、その保存状態の良さと幕末までの浮世絵の通史を俯瞰できる出展作品が注目されます。
相国寺の承天閣美術館では、過去にあまり聞いたことがない“浮世絵”の展覧会ですが、素晴らしい展示空間に仕上がっています。“最強”は事実です。
承天閣美術館入口の夏の緑は圧巻
リー・ダークス氏は、戦後に米空軍士官として来日し、退役後は新聞記者や新聞社の経営幹部として活躍しました。在住しているサンタフェはニューメキシコ州の州都で、観光と芸術の街として全米で有名です。
浮世絵との出会いは横田基地勤務時代だったと氏は語ります。アメリカではニューヨークに次ぐ芸術の先端都市と言われるサンタフェの街の佇まいも、氏のコレクションをより充実させたことでしょう。氏の浮世絵を愛する心は、なにより作品の保存状態の良さに表れています。発色や紙の表面がとても綺麗です。展覧会で実物を見ると本当によくわかります。
江戸時代初期の浮世絵の黎明期から幕末まで、展覧会には約160点が出展されますが、前後期で完全に入れ替えされます。特に見たい作品がある場合、前後期どちらの出展かを確認の上、訪問されることをおすすめします。
【公式サイト】 作品リストPDF
展示は時代順に進んでいきます。浮世絵通史を俯瞰するには欠かせない、浮世絵の祖と言われ菱川師宣がきちんとコレクションされています。「衝立のかげ」は墨一色の版画・墨摺絵に筆で彩色した作品で、一見そうは見えないですが春画です。いかがわしさは一切なく、男女の着物に着色された色が主役の二人を引き立たせています。
寛政年間は喜多川歌麿や東洲斎写楽たちが活躍した美人画・役者絵の黄金時代です。黄金時代の名にふさわしい優品がコレクションには含まれています。
喜多川歌麿の「歌撰恋之部 物思恋」は、展覧会チラシの表紙に採用されています。現代のグラビア写真のように女性の一瞬の表情をとらえた傑作です。タイトルからして、恋の物思いにふけっている市井の女性を描いたものでしょう。紅を付けたおちょぼ口と頬についた手の指の表情が絶妙な空気感を表現しています。
勝川春英の「三代目沢村宗十郎の大岸蔵人」は、いかにも血統のよい歌舞伎役者のプリンスであることを、黒以外の色をほとんど使わずに洒脱に表現しています。鼻を極端に細い線で描いていることも、この役者を神格化しています。
歌川国政「岩井粂三郎の桜丸女房八重」は歌舞伎役者が演じた女形のブロマイドです。よく見ると鼻や眼の大きさから男性とわかるのですが、それがかえってこの人物の色気を増しています。まさに芝居を見に行きたくなります。
ご紹介した作品はすべて前期展示の作品です。一部作品の画像は公式サイトに掲載されています。
【公式サイトの画像】 展覧会のみどころ
後期展示ではリー・ダークス氏自身がコレクションの最重要品と評した葛飾北斎「風流なくてなゝくせ遠眼鏡」が登場します。北斎では希少な大判の美人大首絵です。鈴木春信、勝川春章、歌川豊国・国貞・国芳・広重といった浮世絵の魅力を知るにはなくてはならない画家の作品も、前期に引き続き登場します。
緑に包まれた相国寺の境内を歩き、見事な浮世絵で夏を涼むのも乙です。
相国寺境内図が新調されていました
こんなところがあるのです。
ここにしかない「美」があるのです。
太田記念美術館が監修した入門書、英語表現との対比が面白い
相国寺承天閣美術館「サンタフェ リー・ダークスコレクション 浮世絵最強列伝 -江戸の名品勢ぞろい」
【承天閣美術館】http://www.shokoku-ji.jp/j_now.html
【日本経済新聞社】http://www.nikkei-events.jp/art/ukiyoe/
主催:相国寺承天閣美術館、日本経済新聞社、京都新聞
会期:2018年7月3日(火)~9月30日(日)
会期中休館日:8/6,7
開館(拝観)受付時間:10:00~16:30
※8/5までの前期展示、8/8以降の後期展示で全ての展示作品が入れ替えされます。
※この展覧会は、2018年5月まで山口県立萩美術館・浦上記念館、から巡回してきたものです。
※この展覧会は、2018年10月から横浜高島屋、2019年1月から日本橋高島屋、2019年2月から大阪高島屋、に巡回します。
おすすめ交通機関:
地下鉄烏丸線「今出川」駅下車、3番出口から徒歩10分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:25分
京都駅→地下鉄烏丸線→今出川駅
【公式サイト】 アクセス案内
※この施設に駐車場はありません。
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