京都国立近代美術館では、展示室に至る階段を上るとワクワク感が高まる
京都国立近代美術館で「岡本神草(おかもとしんそう)の時代」展が始まっている。岡本神草は、大正時代から昭和初期にかけて活躍した日本画家で、妖艶な舞妓の描写で観る者に強いインパクトを与える。
神草が活躍した大正時代は、日露戦争の勝利や第一次世界大戦による好景気で、「日本は一等国になった」と大衆が感じた時代で、文化面でも「大正ロマン」と呼ばれる新しい潮流が続々現れた。画家では竹久夢二がその代表だ。「夢二式美人」とも呼ばれるほどのその情緒的な画風は、明らかに正統派美人画とは一線を画すもので、広告や挿絵を通じて気軽に絵に触れるようになった大衆が生み出したヒーローとも言える。
神草もそうした時代の波の中で新たな表現を求めたのだろう。妖艶で官能的、怪しいとまで思わせる濃厚な舞妓の描写には、当時流行した“自由恋愛”を意識しているものと感じられる。女性の美や魅力を男性的理想像に美化することなく彼が追及した表現が“妖艶”なのだろう。
神草は38歳の若さで早逝し、残した作品は多くないが、この展覧会では彼の画業を一覧できるよう可能な限り作品が集められている。また彼の生きた時代を理解すべく、競い合った同時代の画家や師であった菊池契月の作品もあわせて展示されている。江戸時代後半の文化・文政期に浮世絵や芝居による大衆文化が花開いた時代から100年後、大正になって再び日本で大衆文化が花開いた。そんな特異な時代を俯瞰する意味でも興味深い展覧会だ。
1919(大正8)年頃の「拳を打てる三人の舞妓」は、三人の舞妓が戯れている構図だ。神草は展覧会直前になってなぜか絵の中心部分だけを切り抜いて出品し、残された部分は長らく行方不明だった。しかし残された部分は昭和末期に発見され、京都国立近代美術館所蔵となった運命めいた作品だ。三人の舞妓はみな、微笑を浮かべているが感情は伝わってこない。「うちらとどんな恋愛ゲームをしはりますか?」とささやいているように見える。神草がなぜ切り抜いたのかはわからないが、切り抜く前後で見比べるとますますその怪しさに引き込まれていく。
※神草がどのように切り抜いたかは公式サイト配布の展覧会チラシPDFで確認できる
1918(大正7)年「口紅」(京都市立芸術大学芸術資料館蔵)も濃厚で妖艶な作品だが、後に清楚な美人画を描く菊池契月に師事するようになってからは、美人表現にも変化が現れる。
京都国立近代美術館は菊池契月の秀作を多く所蔵しており、この展覧会でもいくつか出品されている。1920(大正9)年「少女」は、二人の少女は着物を着ているが長い髪を自然におろしており、清楚なタッチもあいまってとても斬新な印象を与える。
他にも甲斐庄楠音や福田平八郎など同世代の画家の作品も見逃せない。秋らしさを次第に増してきた京都・岡崎をぜひ訪れてほしい。
京都・岡崎の晩秋の風景に神草の絵はよく合う
京都展終了後、年を改めて笠岡市立竹喬美術館と千葉市美術館にも巡回予定と聞く。最寄りの方はあわせてお楽しみに。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさんある。ぜひ会いに行こう。
妖艶な美人画家を盛りだくさんに紹介、神草は「口紅」で紹介されている
京都国立近代美術館「岡本神草の時代」展
http://www.momak.go.jp/Japanese/exhibitionArchive/2017/422.html
主催:京都国立近代美術館
会期:2017年11月1日(水)~12月10日(日)
原則休館日:月曜日
※展示作品は、展示期間が限られているものがあります。