どんな動物が中で待ってるのだろうか?
京都・鹿ケ谷(ししがたに)の泉屋博古館(せんおくはっこかん)本館で「生誕140年記念特別展 木島櫻谷(このしまおうこく)」が始まっている。
木島櫻谷は、明治から昭和にかけて京都で四条派の流れを汲んで活躍した日本画家で、京都画壇の巨匠・竹内栖鳳と同世代だ。写生を重んじ、西洋の油絵のような遠近感や立体感のある画風が特徴で、中でも生命力を気品高く表現した動物画はとても魅力的だ。
展示室内にはたくさんの彼の写生帖が展示されている。四条派の開祖のような存在で写生の大切さを京都画壇に知らしめた円山応挙も実にたくさんの写生帖を残しているが、櫻谷も線の弾き方をとても熱心に研究していることがわかる。応挙も櫻谷もとにかく絵を描くことが大好きで、どう描けば魅力的な表現ができるのか、という命題をひたすら追求し続けたのだろう。
若いころの作品「熊鷹図屏風」(個人蔵)に描かれたクマは、雪の上でじっと一点を見つめている。その目はとても優しく、獲物を狙っているようには見えない。どちらの方向に進もうか、目と鼻と耳で感じながら熟考しているように見える。鑑賞者が動けばクマがこちらに振り返るのではないかと思えるくらいに実にリアルで、大自然の中で生きる力をみなぎらせている。
「寒月」(京都市美術館蔵)は一双の屏風だが、伝統的な屏風の構図のように左右でペアにしていない。奥行きを示し、横長の西洋の油絵のような仕上がりにしている。まるでブリューゲルの農民画のようだ。月明かりに照らされた一面銀世界の竹林を狐がひっそりと歩いている。竹は雪が解けるまでひたすら耐えており、狐は水や獲物を求めて凍えるような寒空を歩いている。とても静寂に感じさせる絵だが、動物と植物の営みを実に繊細に表現している。
「獅子図」(櫻谷文庫蔵)は、円熟を増した晩年の秀作だ。堂々としたオスのライオンが座ってどこかを見つめている。アフリカの大地で自分の群れに他のオスが侵入してこないかじっと監視しているように、とても鋭い目に描いている。ライオンが正面(鑑賞者の方)を向いていないこともあり、この絵に圧迫感はない。しかし観る者に絶妙な緊張感を与える。生きる営みに真摯に向き合っている姿が表現されているからだろう、この作品も本当に生命力があふれている。
鹿ヶ谷のお屋敷街にふさわしい館の前庭
「木島櫻谷」展は、東京・六本木一丁目の泉屋博古館・分館にも2018年2月に巡回予定だが、晩秋の京都の鹿ケ谷の静けさと木々の美しさはここでしか味わえない。展覧会と同時に京都の紅葉をお楽しみください。館からは哲学の道や永観堂、銀閣寺が近く、ゆっくり歩いて巡るには抜群の立地だ。
櫻谷作品に関心を持っていただいた方には、この秋の京都は“櫻谷づくし”なのでご紹介したい。烏丸御池の京都文化博物館で「木島櫻谷の世界」、衣笠の櫻谷文庫で「木島櫻谷旧邸特別公開」が、会期と並行して行われている。あわせてぜひご訪問ください。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさんある。ぜひ会いに行こう。
画商の著者が近代京都・大阪画壇の100人の画家の作品を解説、参考価格も表示
泉屋博古館本館 「生誕140年記念 特別展 木島櫻谷-近代動物画の冒険」
https://www.sen-oku.or.jp/kyoto/program/index.html
主催:泉屋博古館、櫻谷文庫、京都新聞、BSフジ
会期:2017年10月28日(土)~12月3日(日)
原則休館日:月曜日
※展示作品は、展示期間が限られているものがあります。