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京都 真如堂 元禄時代の最先端博物学にふれる_涅槃図公開 3/1から

2019年02月24日 | お寺・神社・特別公開

新暦3月15日前後は、釈迦の年忌法要である涅槃会(ねはんえ)が多くの寺で行われ、釈迦の入滅の様子を描いた涅槃図が公開される寺があります。京都・真如堂(しんにょどう)もその一つで、毎年3月の一か月間、涅槃図が公開されます。

  • 高台にあり、四季の移ろいや庭の美しさでは京都有数の寺だが、案外知名度が低い
  • 涅槃図では日本最多の127種の生き物が生き生きと描かれ、時間の経過を忘れて見とれてしまう
  • 公開期間中に授与される、無病息災に利益がある餅菓子「花供曽(はなくそ)」も人気


三井家の菩提寺で、海北友松の墓もあります。境内の雰囲気は女性的でとても優美です。



京都の東、京都大学と平安神宮を見下ろす小高い丘・吉田山に真如堂はあります。洛中を見渡せる絶景で知られる金戒光明寺の北に隣接しています。真如堂からは洛中は見渡せませんが、逆に五山送り火の大文字山を真正面にのぞむことができます。

真如堂は通称で、正式には真正極楽寺(しんしょうごくらくじ)と言います。正式名称は京都人の間でもあまり知られていないほどで、寺の公式サイトのURLもshin-nyo-do.jpです。真如堂という通称は創建時の本堂の名称に由来します。

平安時代半ば、藤原道長による摂関政治の絶頂期を迎える直前の984(永観2)年、後の一条天皇の生母・藤原詮子(ふじわらのせんし)の別荘があった神楽岡(かぐらおか)に”真如堂”を設けたのが寺の始まりです。神楽岡とは吉田山の旧称で、創建時の真如堂は現在地の北の隣接地にありました。

その後、応仁の乱や秀吉の都市政策の影響で寺地を転々とし、現在地に落ち着いたのは江戸時代半ばの1693(元禄6)年になってからです。



真如堂が現在地に落ち着いた頃、京都では三井家の繁栄の礎を築いた三井高利が松阪から拠点を移し、晩年を過ごしていました。祖先の縁で三井家の菩提寺になった真如堂は、三井家から多くの寄進を受けることになります。

【寺公式サイトの画像】涅槃図

3月に公開される涅槃図も、三井家からの寄進です。1709(宝永6)年に海北派の絵師によって制作されました。涅槃図は仏画ですが、荘厳というよりも若冲が描く生き物のように、まさに”生き生きと”描かれています。

京や大坂で上方文化が絶頂期を迎えていた元禄時代らしい華やかさにつつまれています。127種も描かれた生き物は、当時の博物知識の集大成のようです。三井家が金に糸目をつけずに発注したことをうかがわせます。元禄時代の上方には、日本の最先端の文化が集積していたのです。


随縁の庭

3月の涅槃図公開時には、以下の一級の寺宝は公開されませんが、常時公開の二つの庭園の絶景を楽しむことができます。

  • 重文の本尊「うなずきの阿弥陀」
  • 国宝の運慶が書写した「法華経」
  • 重文で応仁の乱の様子が史実として確認できる「真如堂縁起」
  • 狩野山雪の重文「寒山拾得図」


随縁(ずいえん)の庭は、現代を代表する名庭です。2010年に昭和の名作庭家・重森三玲の孫・重森千靑(しげもりちさを)による作品です。日本庭園におけるアール・デコのような幾何学的なデザインが、何より目を引きます。伝統的な日本庭園の意匠に、現代の魅力を付加した逸品です。数百年後に特別名勝(=庭の国宝)になっているかもしれません。


涅槃の庭

涅槃の庭からは、東側の大文字山を借景にした絶景をのぞむことができます。高台にあるため高層建築が目に入らず、いにしえのナチュラルな風景を味わえます。枯山水ながらも1988年の作庭と新しく、こちらもモダンな名庭です。

桃山時代の代表的な絵師・海北友松(かいほうゆうしょう)は、本能寺の変直後の天王山の戦いで敗れた明智光秀の重臣・斎藤利三と親交を深めていました。利三の処刑後に真如堂に手厚く葬ったことで、三代将軍・家光の乳母で利三の娘・春日局から海北家と真如堂は庇護されることになります。

3月の涅槃図公開中に授与される”はなくそ”は、刺激的なネーミングですが、実に素朴な菓子です。ほのかな甘さと餅を揚げたかりかりした食感が絶妙です。創建時から女人の庇護を伝統とした真如堂の優雅さが現れた授与品です。


野路菊

3月になると随所で植物がうなり声を発し始めます。いかにも新鮮で瑞々しい緑を楽しめます。水をはじくピチピチした葉の質感は、春の訪れを象徴しています。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



涅槃図はなぜこんなにも多様な描写をしているのか?

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真如堂(正式名称:真正極楽寺)
涅槃図公開
【JR東海 そうだ京都、行こう。】真如堂 涅槃図公開

会場:真如堂 本堂
会期:毎年3月1日~31日(日付で固定)
原則休館日:なし
入館(拝観)受付時間:9:00~15:45

※この寺は観光目的で常時公開されています。
※公開期間が限られている仏像や建物・美術品があります。

真如堂(正式名称:真正極楽寺)
【公式サイト】 http://shin-nyo-do.jp/



◆おすすめ交通機関◆

地下鉄烏丸線「丸太町」駅下車、1番出口から市バス乗り換え「真如堂前」下車、徒歩8分
京阪鴨東線「神宮丸太町」駅下車、5番出口から徒歩25分
地下鉄東西線「蹴上」駅下車、1番出口から徒歩25分

JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:40分
京都駅→地下鉄烏丸線→丸太町駅(烏丸丸太町)→市バス93/204系統→真如堂前

※京都駅から直行するバスもありますが、地下鉄とバスを乗り継ぐ方が、時間が早くて正確です。
※この施設には駐車場があります。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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