2年近くのリニューアル工事を終えた野村美術館がようやく再開し、所蔵の名品がフルにお披露目される展覧会が始まりました。茶の湯や能楽を愛した野村證券の創業者・野村得庵(のむらとくあん)のコレクションの保管・展示施設として1984(昭和59)年に開館しましたが、今回のリニューアルで展示室はとても見やすくなりました。
南禅寺別荘街の中にあり、京都東山の静寂な空間にとても合う名品が揃っています。能面の展示も充実しています。美に対する深い精神性を感じさせる美術館です。
得庵は茶人としての号で、二代目・野村徳七(とくしち)が経営者として知られる名前です。父親の初代・徳七が始めた両替商を発展させ、日露戦争や第一次大戦の相場で巨万の富を得ます。1918(大正7)年に大阪野村銀行(旧:大和銀行、現:りそな銀行)、1925(大正14)年には野村證券を設立し、野村財閥を築き上げます。
徳七は三井の益田鈍翁や高橋箒庵ら時代を代表する数寄者との親交もあり、茶の湯と能楽の世界に傾倒していきます。野村美術館の北に隣接する碧雲荘(へきうんそう)は、徳七が自らの日本文化への美意識を表現する場として建てた別邸で、11年もの歳月をかけて1928(昭和3)年に完成しました。
当時を代表する名工である北村捨次郎が数寄屋建築を、小川治兵衛が作庭を担当しました。数寄屋は重要文化財に指定されています。南禅寺界隈別荘で重文の建築は、他に清流亭があるだけです。
企画展は1Fの展示室で行われています。能楽の展示(前期のみ)はB1Fです。
茶入(ちゃいれ)は、すりつぶした茶を入れる手のひらにすっぽり入ってしまうほどの小さい壺です。多くは絵付けなどの模様はなく、きわめてシンプルなデザインです。光のあて方や見る角度で微妙に表情を変える深い黒と茶色の肌がとても不思議です。この不思議さに美を見出すことが茶の湯の世界ではとても大切にされています。「上杉瓢箪茶入」も、まさに不思議な魅力を持った茶入です。吸い込まれるような肌の色の変化に魅了されます。
【公式サイトの画像】 千利休「妙一字」
展示室の奥では茶室空間を再現した展示が行われています。床の間の利休筆の「妙」の一字が目を引きます。書ではありますが、絵としてみてもとても美しいと感じるまとまりがあります。
【公式サイトの画像】 永楽保全「秋草絵茶碗」
茶碗も名品が揃っています。幕末の京都の陶工・永楽保全(えいらくほぜん)の「秋草絵茶碗」は、秋草と感じさせるはかなさを実に雅(みやび)に絵付けしています。絵付けは茶碗の形にもフィットしており、とてもバランスの良い作品です。
同じく幕末の仁阿弥道八(にんあみどうはち)による「雲錦手四方鉢」は、華やかさと気品が両立しています。両社の個性の違いを興味深く鑑賞できます。
10月23日からの後期展示では全面展示替えが行われ、私の好きな酒井抱一も登場します。楽しみです。
【公式サイトの画像】 酒井抱一「楓図」
右手の緑が碧雲荘
碧雲荘も徳七の美意識を体感する意味でぜひ見てみたいものですが、非公開です。一般公開される機会もめったにありません。南禅寺界隈別荘のほとんどは非公開です。所有者として多数を占めるオーナー経営者や企業が、来客の迎賓施設や自社の保養施設として使用していることが多いためです。碧雲荘も現在も引き続き創業家と野村グループの所有です。
南禅寺界隈別荘で常時公開されているのは、無鄰菴(むりんあん)だけです。
【公式サイト】 碧雲荘
【公式サイト】 無鄰菴
こんなところがあります。
ここにしかない「美」があります。
アート業界の全貌を知ると美術館の見方も変わる
野村美術館
リニューアルオープン記念 開館35周年名品展
―茶の湯の美・能楽の美・日本の美―
【美術館による展覧会サイト】
会期:2018年9月8日(土)~12月9日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:00
※10/21までの前期展示、10/23以降の後期展示で全面的に展示作品が入れ替えされます。
※展示期間が限られている作品があります。
※この展覧会は、今後の他会場への巡回はありません。
※この美術館は、常時公開している常設展示はありません。企画展開催時のみ開館しています。
◆マナー教室◆
◇室内を見学する場合、持ち物が無意識に壁や置物に触れ傷つけてしまいます。
手荷物は預ける、リュックは前に抱える、レンズの大きい一眼レフカメラは持ち込まない、など配慮しましょう。
◆おすすめ交通機関◆
地下鉄東西線「蹴上」駅下車、1番出口から徒歩10分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
京都駅→地下鉄烏丸線→烏丸御池駅→地下鉄東西線→蹴上駅
【公式サイト】 アクセス案内
※京都駅から直行するバスもありますが、地下鉄の方が、時間が早くて正確です。
※この施設には無料の駐車場があります。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。
________________________________
→ 「美の五色」とは ~特徴と主催者について
→ 「美の五色」 サイトポリシー
→ 「美の五色」ジャンル別ページ 索引 Portal
「美術館・展覧会」カテゴリの最新記事
中之島香雪美術館「上方界隈、絵師済々」_後期は大坂画壇
カラヴァッジョ展 巡回のフィナーレを大阪で見て思うこと
婦人画報が伝えた京都の魅力の展覧会_えきKYOTO 1/20まで
中之島香雪美術館「上方界隈、絵師済々」_円山・四条派は奥深い
嵐山 福田美術館にさらなる手応え_福美コレクション展 II期 1/13まで
国宝彦根屏風と国宝松浦屏風 見事な競演_奈良 大和文華館 12/25まで
ハプスブルク展、欧州随一の名門の至宝の数々_西洋美術館 1/26まで
神戸市立博物館リニューアル_神戸観光の目玉に大変身
京都 泉屋博古館「花と鳥の四季」展_江戸花鳥画の写実表現はスゴイ
円山応挙から近代京都画壇へ、すべては応挙から始まる_京近美