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韓国 国立慶州博物館_日本の文化予算の少なさに危機感を覚える

2019年01月06日 | 美術館・展覧会

慶州レポート3回シリーズ最終回は、国立慶州博物館です。韓国ではソウルの国立中央博物館と並ぶ国を代表する博物館です。日本でいう東博や京博・奈良博に該当します。

  • 韓国の歴史と美術を国家として見事にプレゼン、日本の東博の展示はとても貧弱に写るほど
  • 仏像の展示は特に秀逸、日本の飛鳥仏の原点を見て取れる
  • 瓦や鋏の工芸品を見ると、あたかも正倉院展を見ているよう


日本の古代文化の多くが朝鮮半島から伝わったことを学べる博物館です。文化は、ゼロから突然現れるわけではありません。


国立慶州博物館の外観

国立慶州博物館を訪れた最初の印象は、展示品の質の高さは言うまでもなく、展示そのものに対する意気込みを大いに感じたことです。韓英中日の4か国語の表記が完璧に整備され、国家・民族としての歴史や文化を外国人に見てほしいという意気込みが見事に表現されています。お金だけでこうした状況を論ずることはできませんが、具体的な数字としてあげてみると、その差は明らかです。

文化庁による2016年の主要国の文化予算額の調査結果によると、日本の約1,000億円に対し、韓国は約2,500億円あります。韓国より日本の方がGDPで3.5倍、人口一人当たりGDPで1.4倍、人口で2.5倍、大きいですが文化予算は2.5分の1です。人口一人当たりの文化予算ですは世界韓国の6分の1以下の水準です。

【文化庁公式サイト】 諸外国の文化政策に関する調査研究

国家を代表する国立の博物館・美術館の展示には、こうした文化予算の格差を隠すことはできません。予算がないからと行動しようとしない公務員の体質には決して賛同できませんが、公共予算はその国家・自治体としてどの分野に重点を置こうとしているかを示すバロメーターでもあります。こうした格差は、結果的に博物館・美術館の展示の印象として観覧者の記憶に残り、SNSで発散されることになります。


韓国の仏像を、日本の奈良・中宮寺の菩薩半跏像とも比較

広大な敷地に設けられた主に4つの建物と屋外で、常設展示を構成しています。敷地の中央にあり、最も大きいのが新羅歴史館です。石器時代からの新羅の歴史を紹介しています。

【国立慶州博物館公式サイトの画像】 装飾宝剣
【国立慶州博物館公式サイトの画像】 四天王像塼

「装飾宝剣」はペルシャや中央アジアからもたらされたものと考えられています。一目で見て高い身分と経済力がないと入手できないと思える一級品です。古代の新羅の繁栄ぶりが如実に伝わってきます。

「四天王像塼」は、瓦のような平板である塼(せん)に施された彫刻です。上半身が失われていますが、邪気を踏みつける姿がとても優美に彫刻されています。どこかエキゾチックな西域の香りのする造形が魅力的です。

【国立慶州博物館公式サイトの画像】 弥勒三尊仏
【国立慶州博物館公式サイトの画像】 鴟尾

新羅美術館は仏教美術に関する展示がなされています。「弥勒三尊仏」は子供のような表情から「児童仏陀」とも呼ばれて親しまれています。中尊は、日本ではほとんどない、椅子に座る倚像で、隋代に見られる中国のおおらかな様式で造られています。とても温かみのある石像です。

新羅最大の寺院だった皇龍寺に関する展示も、とても充実しています。皇龍寺は、モンゴル軍の侵入で焼き払われた後、再興されることはありませんでした。跡地から発掘された遺物からは、往時の荘厳さを充分に感じることができます。

展示室中の巨大な「鴟尾」は破片を集めて復元したものですが、日本の奈良・唐招提寺の鴟尾と同じく圧倒的な存在感があります。施された文様はとても上質で、国家を代表する寺院にふさわしい威厳も兼ね備えています。


今は亡き新羅最大の寺院・皇龍寺の復元模型

国立慶州博物館は、世界遺産にも指定されている慶州歴史地区内にあり、新羅の都の中心部だったエリアです。館に隣接する月池は、宮殿の庭園の池だったところで、周囲から発掘された遺物を「月池館」で展示しています。

【国立慶州博物館公式サイトの画像】 鋏

展示品では「鋏(はさみ)」が印象に残りました。2018年の正倉院展でも似たデザインのはさみが展示されていました.ろうそくの灯を消すために芯を切るはさみです。王朝の道具にふさわしい優雅なデザインと精緻な文様がとても印象に残ります。日本との文化交流の重みを感じさせる名品です。


新慶州駅に到着するKTX

慶州は韓国の新幹線KTXが通っているため、ソウルからも短時間で移動できます。博物館の周囲では巨大な新羅時代の宮殿や寺院の復元計画が進行中です。同じ慶州にある世界遺産・仏国寺や石窟庵も復元部分が少なくないですが、復元と言われなければ気付かないほど精巧にできています。

韓国の文化遺産の復元に架ける国家の意気込みは日本とはけた違いです。奈良の平城宮跡の復元のスピードは、韓国と比べると新幹線と人力車のような差を感じます。文化は観光産業の根幹となります。観光は世界的に有力な産業として成長を続けます。たとえ本物でなくても空間を体験できることは、かけがえのない観光の記憶として残るのです。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



日韓共同編集の歴史遺産ガイドの決定版

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国立慶州博物館(クンニッキョンジュパンムルグァン)
【公式サイト】 http://gyeongju.museum.go.kr/jpn(日本語)
【釜山旅行情報サイト PUSAN NAVI】 国立慶州博物館(日本語)

原則休館日:1/1、旧正月、秋夕(旧暦8/15)
入館(拝観)受付時間:10:00~17:30(土日祝~18:30、毎月最終水曜・3-12月の土曜~20:30)



◆おすすめ交通機関◆

高速鉄道KTX/SRT「新慶州(シンキョンジュ)」駅下車、700番バスで所要25分「雁鴨池」バス停下車、徒歩3分
慶州高速バスターミナルから11/600/601/603/604/605/607/608/609番バスで所要5分「博物館」バス停下車、徒歩1


新慶州駅まで ソウル駅からKTXで2時間、プサン駅からKTX/SRTで30分
慶州高速バスターミナルまで 釜山総合バスターミナルから50分

※鉄道やバスは本数が少ないため、事前にダイヤを確認の上、利用されることをおすすめします。

【公式サイト】 アクセス案内


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