日本史の勉強している

中国や韓国との歴史認識の相違が問題になっているので、「正しい歴史」を勉強しようと思った。

第六回 夢浮橋

2009-11-27 15:55:04 | Weblog
 これは第六回リポートを提出した際に、参考資料としていただいた作品解説です。
 出家生活にいそしむ浮舟に対して、めぐりくる季節の風物が様々な感情を生起させていく。次の行文の「遣水の蛍ばかりを慰めにてながめぬ」るというのも、微妙である。蛍をながめることは、昔日を懐かしく思い起こさせることになるが、それは心の慰めであるとともに、物思いの痛苦にもなると言うのである。恋の炎の象徴としての「蛍」が、薫や匂宮とのさまざまな思い出を彷彿とさせてしまうからである。彼女は、過去の忌まわしい人間関係をすべて忘れ去ろうとしているにもかかわらず、その過去の人間関係からいまだに自由ではありえないのである。
 この過去を彷彿とさせる蛍の光と照応しあうかのように、山あいを行く一行の松明(たいまつ)の灯が遠望される。後続の叙述によれば、浮舟は、女房たちの話から、それが薫の一行であると知らされる。ここにいたって過去の忌まわしさをまざまざと想起させてしまうのである。ここでの蛍は、薫や匂宮をさすのではなく、むしろ、彼らと関わりあった浮舟自身の魂の底にうごめく愛憐の炎が象徴されているというべきである。
 浮舟が小野の山里に蘇生して出家生活にいそしんでいることは、やがて薫の知るところとなる。薫が、横川の僧都に対面して真相を知ったのである。僧都は浮舟を出家させたことを後悔もするが、小野の山里への案内をという薫の要請には応じなかった。わずかに浮舟への手紙を託しただけである。しかし薫自身は、人目をはばかって小野に立ち寄ることはしない。あらためて、浮舟の幼い弟の小君を使者として派遣した。
薫の使者として立ち現れたのは、浮舟の弟である。彼女の心に即してみると、血を分けた肉親がなんとも懐かしい。すぐにでも会って、母のことも聞いてみたい。しかし彼女は、ここで弟に心を開けば、薫らとの関係を蘇らせ、再び忌まわしい過去に逆戻りしかねないだろう、それが恐ろしい。肉親への懐かしさをも抑えるほかはないのである。
 浮舟は、使者の尋ねる女(ひと)ではなく、人違いだと言い張るほかはない。妹尼など周囲の人々には、いかにもかたくなな人間と見えるけれども、今更どうにもならない。あくまでも人違いを押し通す彼女は、「顔も引き入れて臥し」ている。すべてを断ち切って生きようとする者の、人知れぬ涙があふれるのである。末長い余生をこのように送るほかないのが、『源氏物語』最後の女主人公、浮舟の絶望的な人生である。   おわり

夢浮舟について

2009-11-17 15:35:05 | Weblog
 ものがたりは・・・ 
 横川の僧都のもとに訪れた薫は、僧都から浮舟の動静のあらましを聞き、その僧都に浮舟との仲介を依頼する。とりあえず浮舟の弟の小君に手紙を託すことにした僧都は、彼女を出家させたことを後悔し、また出家の女人を破戒者にさせかねないという懸念も抱いた。
 僧都の文使いとして小君が浮舟のもとに派遣される。その手紙には、薫の愛執の罪が消えるようにしてあげてほしい、などと書いてある。浮舟は、来訪の小君に母中将の君を思い起こして涙ぐむが、対面を厳しく拒んで人違いの手紙だと言い張った。小君はむなしく帰るほかはなかった。
 この話を聞いた薫は、浮舟の心をはかりかねて、もしかすると誰かが彼女を隠し住まわせているのかもしれない、と疑った。
 鑑賞のためにから・・・
 古来、横川の僧都については、横川で修行の日々を送り『往生要集』などを著した高徳の僧、源信僧都がモデルになっていると解する説が有力視されてきた。浮舟の救済を親身に見守る人物として、いかにもふさわしいのであろう。その僧都が小君に託した手紙で、浮舟の還俗(出家した者が現世に戻ること)を勧めているか否かが、古来の難問になっている、と言われる。いずれにしても、浮舟は堅固な意思で出家生活に生きようとしている。
 物語の最後で、浮舟との交渉の絶たれた薫が、実は誰かが彼女を隠し住まわせているのかもしれない、と疑うところも、薫という人物を考える上で重要である。たとえ浮舟との交渉が再開されたとしても、薫自身、従前どおりのかかわりを持とうとはしていない。   おわり

浮舟について

2009-11-07 15:49:36 | Weblog
 〈宇治八の宮の三女、母は中将の君、大君・中の君の異母妹〉
 薫の恋慕に悩む中の君が彼の接近を避けるべく、その存在を告げたのが物語への最初の登場。幼いころ母とともに八の宮邸を追われ、母が常陸介の後妻となるのに従って東国で育った〔宿木〕。継子としての苦難にあい、母の決めた婚約も破談、これを不憫がる母のはからいで中の君の二条院に預けられ、薫との婚約も取り決められる〔東屋〕。常に母親の強い牽引力のよって操作される存在で、環境や状況に受動的に生かされる人物であった。
 二条院で匂宮の懸想に驚き、三条の小家に身を逃がれる。やがて薫の世話を受けて宇治に転居。しかし匂宮はそこまでも追い求め、ついに愛欲の虜となる。薫と匂宮の板挟みに苦悶した末、宇治川への入水を決意〔浮舟〕。宇治では浮舟の失踪とみて遺骸のない葬儀を執行〔蜻蛉〕。実は宇治院の裏で失心していたのを、横川の僧都一行に救われ、小野の山里で養われる。僧都の妹尼の娘婿で、妻を亡くした中将に懸想されるが、以前の愛欲の苦悩に戻るのを恐れて微動だにしない。僧都に懇願して、ついに出家、母を思うと悲しいが仏道修行と手習いに気を紛らわす日々が始まる〔手習〕。のちに薫が弟の小君を使者として派遣、しかし泣きながら対面を拒んだ〔夢浮橋〕。
 母の思惑に自在に操られる浮舟のこうした受動的な人生は、しかし、その生かされている人間関係や環境の現実を相対化してみせる。薫の抱えている悲劇的性格も、かえってこの女君の悲劇として顕現されているともみられる。なお、入水の決意など、当時の貴族女性には考えもつかない、特異な人生の選択であると言える。   おわり