1.浄瑠璃の大成者
近松門左衛門は、室町時代に始まった古浄瑠璃を新しい舞台芸能として大成、歌舞伎にも足跡を遺した。
2.時代物から出発
近松は越前(福井)の武家に生まれた。青年期を京で過ごし、広く古典や俳諧の素養を身に付けた。作家としての彼は、31歳の年に書いた『世継曾我』、2年後に『出世景清』など過去の時代や外国に素材・背景を採り、歴史上の英雄や女人を登場させる「時代物」にまず非凡な手腕を見せた。彼は、過去の人物を自らの生きる江戸時代によみがえらせ、武士の精神や美しい人情、あるいは義理に縛られた苦しい生き方などを生々しく描いて観客に人気を博した。
3.世話物の大反響
元禄16年、たまたま大阪に起こった若い男女の情死事件をすばやく取り上げたのが『曽根崎心中』で、これが「世話物」の第一作となった。世話物と言うのは、当時の民衆の姿をそのまま舞台に再現する形をとるもので、観客の反響もひときわ大きかった。この時、近松はすでに50の坂を越えていたが、予想を上回る反響に励まされてますます旺盛な創作活動を繰り広げていた。
4.虚実皮膜の理論
近松は、人物の性格描写や心理描写に力を入れた。男と女、親と子が愛情を貫こうとしながら封建的な道徳や金銭の壁にはばまれて身を破る悲劇、それをまさにそうありそうな事ーーー虚構の真実として描いた。その演劇論は穂積以貫『難波土産』に「虚実皮膜の論」として伝えられている。
5.出世景清
(1)時代浄瑠璃。従来のきわめて叙事的であった幸若舞曲『景清』などから、史劇的な作品に脱却したもの。これより以前の浄瑠璃を古浄瑠璃と呼んで区別し、浄瑠璃史上に新しい時期を画した作品とされている。
(2)内 容
平家の遺臣悪七兵衛景清は、主家の仇を報じようと畠山重忠をねらうが失敗する。愛人阿古屋の訴えで妻や舅が捕えられ拷問を受ける。そこで景清は自首して出、阿古屋は景清の面前で二児を刺しとともに自害する。景清も首を討たれるが、清水観音の身代わりによって助かり、両眼をえぐって日向の国に下る。
6.曽根崎心中
(1)世話浄瑠璃。大阪の曽根崎天神の森で男女の心中事件があり、これを題材にしたもの。歌舞伎で上演されていたものを浄瑠璃に仕組んだ。世話物の地位を確立した作品である。空前の大当たりをとり、自信を深めた近松は24編の世話物を書くことになった。
(2)内 容
伯父の営む醤油商平野屋の手代徳兵衛は、天満屋の遊女お初と深く愛し合う仲であった。主人の妻の姪との結婚話を断ったことから、すでに徳兵衛継母が受け取っていた持参金を返さなければならないことになる。徳兵衛はようやくの思いで金を用意したが、友人九平治の甘言にのせられてその金をだまし取られ、しかもみなの面前でひどいはずかしめを受ける。徳兵衛は死を決意し、お初もこれに深く同情して、二人は曽根崎天神の森で心中する。 つづく
近松門左衛門は、室町時代に始まった古浄瑠璃を新しい舞台芸能として大成、歌舞伎にも足跡を遺した。
2.時代物から出発
近松は越前(福井)の武家に生まれた。青年期を京で過ごし、広く古典や俳諧の素養を身に付けた。作家としての彼は、31歳の年に書いた『世継曾我』、2年後に『出世景清』など過去の時代や外国に素材・背景を採り、歴史上の英雄や女人を登場させる「時代物」にまず非凡な手腕を見せた。彼は、過去の人物を自らの生きる江戸時代によみがえらせ、武士の精神や美しい人情、あるいは義理に縛られた苦しい生き方などを生々しく描いて観客に人気を博した。
3.世話物の大反響
元禄16年、たまたま大阪に起こった若い男女の情死事件をすばやく取り上げたのが『曽根崎心中』で、これが「世話物」の第一作となった。世話物と言うのは、当時の民衆の姿をそのまま舞台に再現する形をとるもので、観客の反響もひときわ大きかった。この時、近松はすでに50の坂を越えていたが、予想を上回る反響に励まされてますます旺盛な創作活動を繰り広げていた。
4.虚実皮膜の理論
近松は、人物の性格描写や心理描写に力を入れた。男と女、親と子が愛情を貫こうとしながら封建的な道徳や金銭の壁にはばまれて身を破る悲劇、それをまさにそうありそうな事ーーー虚構の真実として描いた。その演劇論は穂積以貫『難波土産』に「虚実皮膜の論」として伝えられている。
5.出世景清
(1)時代浄瑠璃。従来のきわめて叙事的であった幸若舞曲『景清』などから、史劇的な作品に脱却したもの。これより以前の浄瑠璃を古浄瑠璃と呼んで区別し、浄瑠璃史上に新しい時期を画した作品とされている。
(2)内 容
平家の遺臣悪七兵衛景清は、主家の仇を報じようと畠山重忠をねらうが失敗する。愛人阿古屋の訴えで妻や舅が捕えられ拷問を受ける。そこで景清は自首して出、阿古屋は景清の面前で二児を刺しとともに自害する。景清も首を討たれるが、清水観音の身代わりによって助かり、両眼をえぐって日向の国に下る。
6.曽根崎心中
(1)世話浄瑠璃。大阪の曽根崎天神の森で男女の心中事件があり、これを題材にしたもの。歌舞伎で上演されていたものを浄瑠璃に仕組んだ。世話物の地位を確立した作品である。空前の大当たりをとり、自信を深めた近松は24編の世話物を書くことになった。
(2)内 容
伯父の営む醤油商平野屋の手代徳兵衛は、天満屋の遊女お初と深く愛し合う仲であった。主人の妻の姪との結婚話を断ったことから、すでに徳兵衛継母が受け取っていた持参金を返さなければならないことになる。徳兵衛はようやくの思いで金を用意したが、友人九平治の甘言にのせられてその金をだまし取られ、しかもみなの面前でひどいはずかしめを受ける。徳兵衛は死を決意し、お初もこれに深く同情して、二人は曽根崎天神の森で心中する。 つづく