これは『カフカはなぜ自殺しなかったのか?』などカフカの研究書、また『絶望書店 夢をあきらめた9人が出会った物語』や『トラウマ文学館』などアンソロジーの編集で定評のある文学紹介者・頭木弘樹の最新刊。今回はひきこもりをテーマに集められた11の作品が収録されたアンソロジーなのだが、赤塚不二夫に関する興味深い記述を見つけたので紹介したい。
それは、巻末の「番外編」にある。この章では、『雨月物語』の「吉備津の釜」を“ひきこもらなかったせいで、ひどいめにあう話”として紹介している。頭木さんは『雨月物語』の「吉備津の釜」のラストシーンを赤塚不二夫が翻案した漫画を読んだというのだ。以下、本文から引用する。
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たしか、主人公はイヤミでした。何か事情があって、イヤミは呪われることになって、何日間か、小屋の中にひきこもります。お札を貼って、お経を読んだりしていたと思います。すると、最後の日の朝になって、戸のすき間から朝日が差し込んできて、ニワトリが鳴き、小鳥たちもちゅんちゅんとさえずり始め、朝の物売りの声が「トーフ―(豆腐)」などと聞こえてきます。
(略)
イヤミは、これは完全に夜が明けた、もう大丈夫と大喜びで、戸をさっと開けます。
すると、目の前は、真夜中の真っ暗な闇。音は何ひとつせず、シーンと静まり返っています。
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……これが分からない!
様々な赤塚漫画をおさらいして、一番近かったのは少年キング版『おそ松くん』の「借金取りの年の暮れ」(「週刊少年キング」1973年3号、曙コミックス第28巻ほか)だろうか。ダヨーン達に借金をしているイヤミが家を釘付けにしてひきこもるというストーリーなのだが、ダヨーンが裸踊りをして気を引こうとする描写から「天岩戸伝説」が下敷きになっていることが分かる。
赤塚は名作と呼ばれる作品からアイディアをいただくことが多く、『雨月物語』を扱ったものがあっておかしくない。前述した少年キング版『おそ松くん』をみても、ハーマン・メルヴィル『白鯨』、オー・ヘンリー『最後の一葉』、イギリス童話『ジャックと豆の木』からアイディアを拝借している。同系統の絵柄とみなせる古谷三敏ら赤塚のアシスタント経験者の作品の可能性もあるだろう。
どなたか、この“イヤミの「吉備津の釜」”がどの作品か御存知の方はいらっしゃいませんでしょうか?責任を持って頭木さんにもお伝えします!
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