「論」ブログヨシ樹

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名古屋発日帰り旅 後編

2021年10月30日 | オートバイ


上りのロープウェイからの景観


十月下旬の某日、外は朝からよく晴れていて窓から部屋のなかに燦々と陽の光が降り注いでいた。清々しい秋晴れだ。わたしは今日だと思った。御在所ロープウェイに乗りたい。そして湯の山温泉の温かい風呂に身を沈めてみたい。そう強く思った。御在所岳は三重県三重郡の菰野町にある。四日市市のすぐ近くにあり名古屋市内からなら日帰りで行って帰ってくることができる場所だ。いつかバイクに乗って行ってみたい、と思っていた。そして、わたしは、その機会を虎視眈々と窺っていたのだ。

御在所ツーリング当日の朝は早く起きていたが、あれやこれやの準備をしていたら出発は午前十時頃になってしまった。遅くとも後、一時間は早く出発したかった。上はバイクウエアを着て、下は革製のパンツを穿いて出発した。足にはライディングシューズ、手には革製の冬用のグローブを嵌めた。けれども当日は、よく晴れていたため革製の厚手のグローブは暑くて、とても嵌めていられず、すぐに外して結局、素手でバイクのハンドルを握った。それでも冷たい、と感じることはなかった。

出発が遅かったので朝の通勤ラッシュは、とうに過ぎていた。お陰で道が比較的、空いていたのは不幸中の幸いであった。国道23号を四日市市方面に向かってひた走る。トラックの間はすり抜けて通った。途中、バイクを何回もおりて地図をこまめに確認した。それが奏功して今回のツーリングは、ほとんど道を迷うことはなかった。こういうときにスマホがあれば、と思わぬでもないが、ガラケーを使える期限ぎりぎりまでスマホは購入すまい、と心に決めている。

そうこうしている内に、わたしは四日市市街を走っていた。途中で道沿いに黄色い看板を見つけた。松屋である。ちょうど昼時であるし店舗の前にバイクを停めた。店の入口にある自動販売機で食券を買ってカウンターで昼食セットを食べた。値段はワンコインだ。安い。安いのが何よりだ。

わたしは、いわゆるグルメには、さほど興味がないので不味い料理よりは旨い料理の方がよいくらいの感覚で旅行では、まず食費を切り詰める。思うに貧乏人には貧乏人なりの旅行の作法というものがあるのだ。要するに分相応に旅行を愉しめればいいのである。昼食セットをたいらげて外に出て店の前に停めてあるスクーターに跨り、また御在所ロープウェイを目指して走った。山に行く途中のバイパスが走りやすくて爽快だった。外気が少し冷たい、と感じた。バイパスと並行して、すぐ近くを高速道路が走っていた。

御在所岳の麓にある湯の山温泉は山田洋次監督、渥美清主演の人気映画である「男はつらいよ」のロケ地としても有名だ。行ってみると旅館などの佇まいは、くだんの映画に出てくる映像で見た佇まいとほぼ同じで驚いた。ここは時間がゆっくり流れているのだろう。新しくできた「湯の山かもしか大橋」を渡り、湯の山温泉を横目で見ながらバイクで坂道を上っていくと、すぐに御在所ロープウェイの駅の目の前まで行くことができた。

御在所ロープウェイを利用する客の専用の駐車場にバイクを停めた。バイクだとワンコインである。念のために記すが百円ではない。どうやら料金は時間制ではないようだ。駐車場からロープウェイ乗り場までしばらく歩くと思いきや、すぐ目の前が乗り場なのだった。駐車場からロープウェイ乗り場まで目と鼻の先なのである。

御在所ロープウェイの麓の駅に着いたのは午後一時過ぎだった。けれども駅の窓口で若いお姉さんに聞くと次の出発は午後二時半ということだった。場内アナウンスに耳を澄ますと強風のためゴンドラに乗る客の人数制限をしているようだ。だいぶ待たなくてはならない。引き返そうかとも思ったが、ここまで短くない距離を走ってきているのだ。何にもせずに戻るのは嫌だ。結局、待つことにした。

ツーリング当日は全くのオフの日ではなく晩に副業の家庭教師の授業があった。名古屋市の自分の住まいに遅くとも午後七時までには戻らねばならない。午後七時がデッドラインだ。そういう時間のやりくりをして、ここまで来ているのだ。

それゆえに授業の予習のために問題集も持参していた。しかし強風のためにページを繰ることができないくらいだった。だがそんな事情を家庭教師先に話してみてもどうにもならない。風がとても強かったので授業準備はできませんでした、という言い訳はとおらない。それゆえに強風と格闘しながら強引に問題集を読み進めて数ある設問も解いた。

見る人が見ると異様な光景だったかも知れない。けれども、他人からどう見られているのかなどに頓着してはいられなかった。待ち時間をぼうっと過ごしているわけにはいかなかったのだ。人間、その気になれば、この程度のささやかな障害は十分、乗り越えることはできるのだと思う。要は、やる気のあるなしである。旅先で当日の授業の予習をする、という泥縄式の準備はいかがなものか、と我ながら思ったが自分のやりたいことをするには時間を捻出する必要があるのだ。

午後二時過ぎに改札口前の列にわたしも並んだ。時間になると改札口を通り過ぎゴンドラに乗り込んだ。年配のご夫婦との相乗りだった。三人を乗せたゴンドラはぐんぐん高度を上げていく。駅が段々小さくなっていく。遥か彼方に伊勢湾が見えた。山はまだ紅葉していなかった。

風のために時々、ゴンドラは揺れた。なかなかスリリングな乗り物だ。思うにロープウェイというのは愉しめない乗り物である。もし何かの間違いで落下でもしたら、と想像すると怖い。恐怖が景色を眺める快さを上回る、というのがわたしの偽るところのない感想だ。



下りのロープウェイからの景観


十五分ほどで山の上にある駅に着いた。ゴンドラから出ても帰りのことを考えると見るべきスポットを見て回る時間的な余裕はなかった。ゆっくりと滞在したかったが、また下りのロープウェイに乗るためにすでにできている長蛇の列に並んだ。下りは午後四時に出発する、という若いお姉さんのアナウンスを聞いてげんなりした。一時間以上、並びながら待たなくてはならないからだ。

しかしながら、もしかりに紅葉シーズンに強い風が吹けば、もしかすると二時間、三時間待ちになるかも知れない。わたしが思うに紅葉シーズンの混雑は避けられないだろう。そして、そのときに今日のような強風が吹かぬ、という保証はない。そう考えると一時間程度の待ち時間ならば短い、といえなくもない。

残念ながら今回のツーリングでは山の紅葉を見ることは叶わなかった。だが結果的に一時間程度の待ち時間で済んだのは怪我の功名といえるのかも知れない。したがって、あえてシーズンオフのときに御在所ロープウェイを訪ねるのもいい考えだと思う。

ゴンドラを降りて午後四時過ぎに駅の敷地内にある売店で職場の同僚にあげるお土産を購入して帰りを急いだ。何しろ夜に授業があるのだ。秋の日は釣瓶(つるべ)落とし、というが帰路に就いて気がついたら日は、とっぷりと暮れていた。暗いなかスクーターのスロットルを思い切り、開けた。急いでいるのだ。手にはあの革製の厚手のグローブを嵌めていた。十月も下旬なので朝晩はやはり冷える。夜は冬用のグローブでちょうどいいくらいだ。

下道を急いで走りながら早く帰るためには高速道路を使って帰ろうか、とも考えた。それは、あながち悪い考えではなかったと今、振り返っても思うが、やはり躊躇った。ツーリングで高速道路を使う、というのは想定外だったので事前に何も調べておらず、どういうふうに利用したらいいか不安だったのである。慣れないことをして間違えて時間を食ったら目も当てられない。それは、とりもなおさず授業に穴をあけることを意味するからだ。それだけは何としても避けたかった。

結論を述べよう。かろうじて間に合った。名古屋市内の自分の住まいに到着したのは午後七時になる十五分前だった。わたしは授業に間に合うように御在所ロープウェイの駐車場を出てからノンストップで名古屋の住まいまでバイクを走らせた。途中で一回も休憩はしなかった。そんな余裕はなかった。間に合わないのではないか、と肝を冷やしたが、ノンストップで走った甲斐もあって家庭教師の授業には何とか間に合った。

授業を無事に終えて帰宅してから冷えた体を熱い湯を張った自家風呂にうずめた。疲れが溶解していくようで、いい気分である。自家風呂は膝を折って入らねばならないほど浴槽が狭い。旅先では、せめて手足を十分に伸ばして風情のある場所で入浴を愉しみたい、と思った。今度、御在所岳に行く機会があればロープウェイではなく今回は立ち寄れなかった湯の山温泉の温泉に浸かりたい、と思っている。


本来であれば次の記事は愛知県犬山市にある「野外民族博物館リトルワールド」の見聞記を「名古屋発日帰り旅」三部作の最後として記したかったが「リトルワールド」の記事を書くのは止めにしたい。理由は三つある。まず、ブログ執筆だけに多くの時間を割くことはできないから。次に「リトルワールド」に行ってからだいぶ経つので記憶が定かではなくなっていて、おそらく、それではよい記事は書けないから。最後に、正直に述べると「リトルワールド」には、あまりよい印象を持たなかったから、だ。

そういう次第で愉しみにしていた読者には申し訳ないが「名古屋発日帰り旅」は前編と後編のみとさせていただく。三部作として書けなかったのは、わたしとしても至極残念だが、どうかご諒承いただきたい。



リトルワールドの入り口

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