写真上・1970年5月27日チッソ正門前の「水俣病死亡者慰霊祭」に新日窒労組が参加
写真下・慰霊祭の後、8時間ストの新日窒労組員200名と患者など300名「怨の黒旗」と労組旗を掲げ工場包囲市内デモ
新日本窒素労働組合の「恥宣言」
何もしてこなかったことを恥とし水俣病と斗う!
大会決議
水俣病は何十人の人間を殺し何十人の人間を生きながらの不具者にし、何十人のみどり児を生まれながらの片輪にした。水俣病の原因がチッソの工場排水にあることは、当時からいわれており、今日では市民はもちろんも日本中の常識になっている。
その水俣病に対して私たちは何を斗ってきたか? 私たちは何も斗い得なかった。
安賃斗争から今日まで六年有余、私たちは労働者に対する会社の攻撃には不屈の斗いをくんできた。
その経験は、斗いとは企業内だけで成立しないこと、全国の労働者と共にあり、市民と共にあること、同時に斗いとは自らの肩で支えるものであることを教えた。
その私たちがなぜ水俣病と斗いえなかったのか? 斗いとは何かを身体を知った私たちが、今まで水俣病と斗い得なかったことは、正に人間として、労働者として恥しいことであり、心から反省しなければならない。
会社の労働者に対する仕うちは、水俣病に対する仕うちそのものであり、水俣病に対する斗いは同時に私たちの斗いなのである。
会社は今日に至ってもなお水俣病の原因が工場排水にあることを認めず、また一切の資料を隠している。私たちは会社に水俣病の責任を認めさせるため全力をあげ、また、今日なお苦しみのどん底にある水俣病の被害者の人たちを支援し、水俣病と斗うことを決議する。
昭和43年8月30日
合化労連 新日窒素労組
第三一回定期大会
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新日本窒素労働組合の闘いの歴史
1962年チッソ正門ピケストで闘う新日窒労組員
上 家族も共に闘った! 1962年安賃闘争 下「父ちゃん御用にはいくなばい」
「おるが水俣」鬼塚巌著
1946（昭和21）年1月26日にチッソの日本窒素水俣工場労働組合が結成されます。戦後の混乱と社会運動の高揚期に、当時の管理職や熟練労働者たちを中心に組織された組合は、結成直後からのレッドパージ攻撃などで一時壊滅状態となります。
(身分差別反対40日スト)
1951年にチッソの新日窒素水俣労組(新日窒労組)が再結成され、総評合化労連に加盟します。組合員は多い時で3千名以上を数えます。有毒水銀を含む毒排水を平然と海に垂れ流す悪虐非道なチッソ資本の本性は、当然のごとく職場における労働者への残酷な差別と冷酷な組合つぶし攻撃で次々と襲い掛かってきます。職場内では出身地と学歴と職工の身分で差別して労働者を支配します。1953年新日窒労組は身分差別撤廃を要求し40日間もの全面ストライキを闘います。
(183日にわたる安賃闘争)
1956（昭和31）年に水俣病が公式発見され、1959年には㈱新日窒と漁業組合、患者との間で涙金の補償・見舞金契約が結ばれます。
1962年チッソ資本は、新日窒労組を合化労連春闘（産業別統一闘争）から離脱させ組合の力を弱めることをねらった安定賃金をだす代わりに争議はしないという提案をしてきます。完全な組合弱体攻撃です。これに真っ向から反対する新日窒労組3400名は、1962年7月から63年１月にかけて183日にもわたる「安賃闘争」を闘います。無期限ストライキに突入した新日窒労組に対し、チッソ資本はロックアウト攻撃と御用労組、新日本窒素水俣工場新労働組合（新労）を結成する第二組合分裂攻撃をかけてきます。係長、主任、大卒らにより結成された第二組合「新労」は、新日窒労組組合員の激しい切り崩しを行いつつ、チッソ資本とはすぐに「安定賃金」協定を締結し、そのままスト破りの強行就労を暴力的にはかってきます。このスト破り、強行就労を阻止するため新日窒労組は連日門前で大量な組合員がピケを張り、実力で闘います。8月11日、警官隊に防衛された第二組合「新労」は、ついにピケを破壊し強行就労に突入します。
この「安賃争議」は，1963年１月地労委のあっせん案を労使双方が受諾して終わります。しかし、このあっせん案には、賃上げ提案とは別に新日窒労組の指導者2人の自主退職の承認が盛り込まれています。また，水俣工場では今後「希望退職を募る等の方法により整理を行う」ともあります。チッソ資本の次の組合攻撃の手口が堂々と盛り込まれたあっせん案です。今、その後のチッソの組合攻撃を見る時、この時のあっせん案は本当にろくなものではありません。当然闘っている新日窒労組員からは、このあっせん案受け入れにすさまじい反対意見がでます。「辞めさせられる二人は、いつも先頭に立って、それこそわれわれの親じゃが、なんして、自己退職せんばならんか」と喰ってかかるものが多く、何日に及ぶ大激論がおきますが、結局は1月10日の合化労連臨時熊本大会であっせん案の受け入れが決定されたことで、13日の水俣の新日窒労組大会でも受託となります。
(敵のすさまじい巻き返し攻撃との闘い)
「案賃」争議終了の後、職場に戻った新日窒労組員に対して、チッソ資本による大巻き返し、第一組合つぶし攻撃が情け容赦なく続きます。職場での第二組合や職制によるおどし脅迫による組合切り崩し攻撃、第一組合員の四分の三が争議前と別の職場に配属され「労働者の誇りを破壊する」屈辱的な作業を強制する配転攻撃、子会社関連会社への転勤命令、三次にわたる「希望退職」攻撃、第一組合員への執拗な退職勧奨が続きます。これは希望退職に名をかりた激しい組合攻撃と差別でした。
第一組合員の執行委員や代議員、ピケの時の責任者など第一組合の先進的活動家ばかりに目をつけ、プレハブで作った「施設5課」に420名が収容させられ、ここで毎日毎日、ドブさらい、便所掃除、草むしり、倉庫の掃除・・・をさせる非道のチッソ会社。しかし、「施設5課」に入れられた第一組合の先進的活動家は、この「施設5課」で実に様々な長期抵抗路線戦術を駆使し闘い抜きます。「牛歩戦術」「人間ベルトコンベアー戦術」「スコップ半分作戦」「バトンガール」等々のユニークな闘いを通して、施設5課は結局は活動家の養成学校と化したのでした。
(「恥宣言」)
1962年の無期限ストライキ闘争時3400名いた組合員は1968年には1278名となります。しかし、残った新日窒労組員は10年闘争を頑張り抜きます。その最中1968年8月30日第31回新日本窒素労働組合定期大会で決議されたのが、「恥宣言」です。
チッソ資本の残酷非道な組合攻撃と歯を食いしばり不屈な闘いの最中、新日窒素労組は水俣病患者への自己批判と連帯の思想を発表します。1970～78年に新日窒素労組執行委員長だった岡本達明さんは「水俣という同じ地域社会に住んでいて，第一組合の労働者は10年以上もの間水俣病患者を見ることがなかったか。否である。……会社が組合を分裂させ，以後行ったあらゆる差別，いやがらせ，切り崩しとたたかいぬいてきて、（組合員は）ようやく自由な労働者の精神を確立し，その自由な精神をもってはじめて水俣病患者家族をみることができたのである」と述べておられます。
この「恥宣言」をさかいに、組合新聞に水俣病関係情報がたびたび載せられ、同年9月には、総評水俣地協（主力単組は新日窒労組）が「水俣病市民会議」に参加し活動を担います。しかし、「原因企業に働く者」として、「患者よりも前に出ないこと」を基本線として保持します。
(政府の水俣病定額補償額回答に抗議し8時間スト敢行)
厚生省による「水俣病補償処理員会」の「あっせん案」に対しても、補償額の不十分さに対して、8時間の抗議ストを敢行します。労組として公害ストを行った日本労働運動史の初めての闘いです。水俣病患者が工場正門前で「水俣病死亡者慰霊祭」を行った時は、新日窒労組は8時間ストライキをうって参加します。
(組合員８名水俣病裁判で証言に立つ)
また、患者・家族が起こした水俣病裁判が山場にさしかかった1972年3月の口頭弁論で新日窒労組員8名が証言に立ちます。この水俣病裁判の実際チッソで働いている現役の新日窒労組組合員の画期的な証言は、人間性無視のチッソの企業体質、安全性無視の工場運転実態などをリアルに明らかにし、裁判勝利への大きな支援となります。
(2005年組合解散)
1980年代に入り労戦統一を進めようとする合化労連執行部に対して、反主流派組合（39組合）の一つ新日窒労組は、1990年代に入っても、春闘でも職場闘争でも大きな存在感を示し続けました。
しかし安賃争議以降、会社は従業員の新規採用に際して、第二組合系の人しか採用しないという方針をとったため、組合員の新規加盟はなくなり、退職者数の増加とともに組合員数が減少し、2004年3月組合解散大会を開催、翌2005年3月30日、最後の組合員2名の退職をもって、59年の歴史に幕を閉じます。1962年の安賃争議における組合分裂では、「１カ月で潰れる」とまで言われた労働組合が、その後40有余年の長きにわたりこうして闘い抜いたのです。
新日窒労組の先輩労働者の方々の、ご奮闘とご苦労に心からの敬意を表します。
