ソベルベンニク

日常の様々なニュースに対するコンセプトの記述

プーチン

2009-05-24 11:00:04 | 日記
3.四島返還論の弱点
 この主張の最大の弱点は、ではどのようにして、領土交渉のきっかけをつかむのか、という論点が欠如していることだ。交渉過程ではっきりしているように、プーチン氏は、政権の座に就いた2000年5月以降今日まで、「56年の日ソ共同宣言にしたがって、平和条約締結後2島を引き渡す」という線で一貫している。ところが、日本側はこの間、森、小泉、安部、福田、麻生と5人の首相が対応し、各首相の対ロ交渉の基本スタンスが揺れているのだ。今回の来日でも、日本政府が立場を決めていないのに、コメントしようがないとプーチン氏は言っている。いままでの日ロのトップ同士の主要な合意ないし提言として、「56年日ソ共同宣言」のほか、東京宣言(93年:4島の帰属問題を解決して平和条約を早期締結する)、クラスノヤルスク合意(97年11月:東京宣言に基づき、2000年までに平和条約を結ぶ)、川奈提案(98年4月:4島の北側に国境線を画定し、返還は別途協議することを日本側が提案、これは2000年9月最初のプーチン公式訪日の際、正式に拒否された)、日ロ間の創造的パートナーシップ(98年11月:政治、経済、安全保障、文化、国際協力などあらゆる分野で日ロ間の協力を一層強化する)、イルクーツク声明(01年3月:56年の日ソ共同宣言を両国の基本文書として公式に確認)などがある。
 日本側が4島返還論を前提にした交渉態度堅持する限り、ロシア側はいつまでも待ち続けるという態度をとっており、「機会の窓」は永遠に開くことはないと思われる。これに対し、「2島引き渡し」からどれだけアルファ(α)を積み上げられるかというアプローチを取るべき時がきた(岩下明裕北大教授)、と考えるもう1つのグループが、日本側に生まれている。それは、日ロ国交回復50周年を記念して、ロシア21世紀委員会(代表ユーリ・ルシコフ会長)と共催した「日ロフォーラム」に参加したグループである(日本側代表:鳩山由紀夫日ロ協会会長、民主党衆議院議員、日ロ国交回復50周年記念『日ソ共同宣言50年と今後の日ロ関係:日ロフォーラム報告集』2006年12月、日ロ協会編)。
☆ 5月21日参議院予算委員会での領土問題の審議:麻生首相は、4月12日のプーチン首相との首脳会談で、北方領土問題について「『(歯舞、色丹2島の日本への引き渡しを定めた)56年宣言』では未来永劫解決しない」と述べ、4島一括で問題を解決するよう求めていた、という。4/21日の予算委員会でも、森首相当時に政府が模索した、歯舞、色丹を国後、択捉と切り離して先行決着させる「段階的手法」について「(そのように」やろうとしていない」と断言。「(4島の)帰属が確認されれば実際の返還時期や対応等々については柔軟に対応する」と述べた。4/12日の首脳会談では「7月の(G8サミットの際の)首脳会談で、しっかりした回答を聞きたい。メドベージェフ大統領にこれを伝えて欲しい」と念を押したという。プーチン氏は「7月の会談では、ロシア側の考えをきちんとお伝えする」と確約。「この問題について、大統領と私の考えは完全に一致する」と述べた。ただ、プーチン氏は会談のなかで、56年の有効性を2000年9月の日ロ会談で自ら認めた経緯を踏まえ、「国内にはいろいろな反対や批判があったが、自分が56年宣言に戻した。」と、2島引き渡しを認めることさえも困難な決断だったと強調した。さらに北方領土問題の解決が難しい理由として、ロシア国内の世論のほか、(領土問題で日本に譲歩すれば)クリミア半島のウクライナへの帰属問題や、カリーニングラード州の問題など、近隣の領土問題が再燃しかねない危険があると指摘した(朝日090522)。
☆ ロシア外務省のネステレンコ報道局長は4/21日の記者会見で、麻生太郎首相が4/20日の参議院予算委員会で北方領土に関し「4島は戦後60年以上を経てもなおロシアの不法な占拠が続いており、極めて遺憾である」と述べたことについて、「許し難い発言と指摘せざるを得ない。(4島は)第二次大戦の結果を踏まえた適法なロシア領土だ。日本の(返還)要求こそ不法なものだ。(北方領土問題で)相互に受け入れ可能な解決策を模索するという日本政府の意向に合致しない」と反発した。

4. 私見とまとめ
 以上の経過をみると、①日本側は4島返還堅持と3.5島返還の間を揺れ動いている。つまり、建前では4島返還を譲っていないが、これでは決着がつかないと感じており、3.5島でどうかなどと発言している。②ロシア側が2島返還の原則を少しでも譲るのではないかと期待をこめ、「創造的で型にはまらないアプローチ」の具体的中身を聞き出そうとしたが、それは7月サミットに持ち越された。③ロ独間と同様に「平和条約なしでもかまわない」という立場をロシアは取らないと明言した。④選択可能なあらゆるケースをロシアは検討済みだと表明した。⑤島問題を解決して平和条約を結ぶことに日ロ両国は全力を傾注する、と合意した。
 ところで、麻生首相は4月20日、参議院予算委員会で北方領土について「4島は戦後60年を経てもなおロシアの不法占拠が続いており、極めて遺憾」と述べたことは、2つの点で好ましくないと私は考える。第一に「不法な占拠」がどうかについて、国際法に従った厳密な検討に基づいて主張すべきで、このような重い言葉を裏付けなしに使うべきではない。第二に、相手を挑発するような言辞は、政府間の合意に基づく友好的な雰囲気を損ない、外交戦略としてもまずい発言と言わざるをえない。


プーチン訪日の成果 第Ⅱ部 北方領土問題 2.訪日での領土問題の展開

2009-05-24 10:53:51 | 日記
Ⅱ前進のない領土問題 2.訪日での領土問題の展開
 日本側はメドベージェフ氏の「型にはまらない独創的アプローチ」の内容を(プーチン氏を通して)探ろうとしたが、言質を取れなかった。プーチン氏は「1つのことにこだわりすぎると、多くのチャンスを見逃す。極端な立場を離れることが重要だ」とも述べ、4島の帰属確認を最優先する日本政府の姿勢を批判し、経済協力の必要性を強調した。
 5/12日プーチン首相は、森喜朗元首相と会談し、北方領土問題について、日ソ共同宣言の有効性を確認した2001年の「イルクーツク声明」を土台に協議を継続する方針を確認した。森氏が同声明の重要性を指摘したのに対し、プーチン氏は「そこは動かしたくない」と応じたという(道新夕刊090512)。5/13日付けの「日ロ首相会見」要旨では、プーチン首相は「ロシアでは解決しないまま進もうという考えもあるが、過去の負の遺産を早く取り除くことを日本同様強く望んでいる」と応じた。両首相は「我々の世代で解決するため、これまでの合意・文書に基づき、双方受け入れ可能な方策を模索する作業を加速する」ことを確認した。
 専門家は、領土問題に関する日ロ首脳会をどう評価しているのだろうか。
☆ 佐藤優氏(評論家): 「領土」では実質進展はなかった。というのは、プーチン氏が「新たな独創的で型にはまらないアプローチ」について言及しなかったし、いわゆる「3・5島返還」についても、プーチン首相から前向きな発言はなかったからだ。しかし、プーチン首相が森元首相と、イルクーツク声明を原点とすることで合意したことは歓迎できる(道新090513)。
☆サルキソフ教授(山梨学院大):外交は大統領の管轄だとして、協議を避けることもできたはずだが「プーチン首相は、予想以上に領土問題に踏み込んだ」。3・5島返還論についてそれを否定していないとも解釈でき、ロシア国内で支持されない発言に踏み切ったのは重要だ。日ロ間に平和条約がないことを「関係進展の支障となっている」と明言した点もかつての「環境整備をしていく」との発言に比べ思いきった姿勢といえる。原子力協定など今回の一連の ( 経済分野での ) 署名は、日ロ関係の新たな水準を意味する。プーチン首相は日本の財界人との懇談で「日ロ関係には大きな実績ができた。信頼関係だ」と過去形で表現したのも、ここから領土問題も解決可能になるという合意だろう。問題は7月のサミットでのメドベージェフ大統領との会談に持ち越された(道新090513)。
☆ A・パノフ元駐日大使:ロシアは「独創的アプローチ」のもとであらゆる解決案の検討を済ませている。日本側こそ、新しい案を検討すべきだ。ロシアには国民の高い支持を集める大統領と首相という強力な指導者がいる。国内に強い反対があった中国との国境問題を解決できたのもプーチン氏が責任を負ったからだ。ところが日本には領土問題の解決のパートナになるような強力な指導者がいない(読売090511)。
☆丹波実氏(元ロシア大使): 原子力協定の署名に意義があることは認めるが、領土問題の解決、平和条約の締結問題では前進がなかった。プーチン氏が立場を変えたという兆候はない。メドベージェフ氏の口車に乗せられて、根拠のない楽観的な期待を抱かされたのが「3.5島返還論」だ。惑わされてはいけない(読売090513)。
☆コーシキン氏(戦略策定センター上級研究員):「(ロシア側が)納得できない案でも議論する用意があるというだけで、拘束力はない。ただ、日本がこれまでの袋小路から出る道を模索していることを歓迎しているのではないか」と指摘する(毎日090513)。
☆ 元島民の反応:島民は、首脳会談での領土問題の話し合いについて、「具体的内容がなく、これまでの経過確認にすぎない」と落胆している。一方「プーチン首相があらゆる選択肢に言及したことは、本気で領土問題を解決しようとしている姿勢を感じた」という声もある。
☆ 北方4島のロシア住民は、3.5島返還を含むあらゆる選択肢の検討に言及したことについて島の引き渡しに向けた譲歩の姿勢と解釈、「信じられない」と驚きの声をあげた。「島を引き渡す筈がない」と冷静に受け止める声もある。
☆ ロシアとの領土問題の交渉で、「4島返還の原則を決して曲げてはならない」というグループは、プーチン氏が来日した5/11日に合わせて新聞に大きく意見広告を掲載した。
この意見広告の代表署名者(発起人)は、伊藤 憲一(日本国際フォーラム理事長)/ 児玉 泰子(北方領土返還要求運動連絡協議会事務局長)/ 田久保 忠衛(評論家)/ 丹波 実(元駐ロシア大使)/ 袴田 茂樹(青山学院大学教授)/ 半田 晴久(世界開発協力機構総裁)/ 吹浦 忠正(ユーラシア21研究所理事長)(五十音順)であり、その他84名の賛同者が意見広告に肩書つきで名前を並べている。発起人は4島返還運動のリーダーとして、しばしばマスコミや論壇に登場する著名人達だが、なかに浅学の私の知らない人物がいる。半田晴久氏がその人で、代表格の伊藤氏によると、新聞広告の広告代の大部分をこの人が負担したという。この関連記事がすっぱ抜き記事で有名な『週刊新潮』(5月21日号34ページ)に掲載されている。同誌は、伊藤氏の言葉として「4月9日、緊急アピールの文言を検討するため集まったときも、新聞広告の話になると急に半田氏が『どうせやるならバーンとやろう。費用は私がだしますよ』ときりだしたのです」と書いている。「今回の広告料は数百万円とも言われ、その大半を半田氏が援助したと噂されている」とも書いている。同誌によれば、半田氏は神道系の新興宗教団体に関係しているという。
意見広告が予告通り全国版に掲載できなかったのは、そうした経緯があったと推定される。
 このグループによれば「政府首脳が北方領土問題に関して『3.5島でもいいのではないか』とか『向こうが2島、こちらが4島では進展しない』など、4島返還という対露外交の基軸を否定するような発言をしたことは、主権国家としての我が国の存立基盤を掘り崩しかねない由々しき事態です」と書いている。つまり、このままでは麻生、プーチン間でとんでもない合意をしかねないから、これを阻止するため、日本国民が(4島以外での合意を)拒否していることを示すべきだ、というのだ。


プーチン訪日の成果 第Ⅱ部 北方領土問題

2009-05-24 10:48:16 | 日記
第Ⅱ部 北方領土問題 1.来日までの前哨戦(090525)
プーチン首相の訪日に伴う日ロ首脳会談のもう1つの課題「北方領土問題」に関する話し合いは、どのような内容であったのか、この問題をフォローしよう。
1.来日までの前哨戦:プーチン氏来日の機会に領土問題を少しでも前進させようと日本側は考えた。3月18日、プリゴドノエ(サハリン南端)でのLNG工場完成祝典にメドベージェフ大統領に招待された麻生首相は、領土問題について大統領と、次の点で意見の一致を見た。①この問題を我々の世代で解決すること。②これまでに達成された諸合意及び諸文書に基づいて作業を行うこと、③「新たな、独創的で型にはまらないアプローチ」を行うこと、④帰属の問題、即ち、国境の最終的な解決につながる作業を加速すべく追加的な指示を出すこと(東郷和彦「4島返還の原則は崩されたのか」『世界』09.6、p.88)。麻生首相はこの会談後、同行記者団に対し、「向うが2島、こっちは4島では進展しない」「政治家が決断する以外にない」と発言した(A090219)。その後4月17日、谷内(ヤチ)太郎政府代表・前外務次官は「私は3.5島でもいいのではないかと考えている。北方4島を両国の躓きの石にしないという意思が大事だ」と述べた。谷内氏自身はこの発言を否定し、面積に関する質問に答えただけ(4島の面積を折半すると3島+択捉の20ー25%程になる)というが、実は①ロ側から譲歩を引き出すため、日本側も(4島でなく)一定の譲歩を行う用意がある、②(譲歩を容認する)国内世論の環境整備を行う、という2つの狙いをもった観測気球だとの見方もある(道新090418)。しかしこうした一連の発言は、4島返還という目標を日本側が放棄する用意があるとのシグナルではないかという印象をロシア側に与えたことは確かだ。
5月9日、プーチン首相は11日からの訪日を前に、日経、共同通信、NHKと共同会見をおこない領土問題について語った。「解決のためには全面的に2国関係を発展させることが条件だ」。谷内氏の「3.5島返還論」に関連して「日本の立場は固まっていないと理解している。この段階で反応するのは時期早尚だ。」と述べ、訪日では経済関係の発展に主力を置き、経済協力の拡大をテコに領土問題の解決を目指すとした(日経090510)。「独創的で型にはまらないアプローチが必要だ」というメドベージェフ氏の発言が(日本側は)これを56年宣言のいう「平和条約を締結後に2島を引き渡す」という枠を破って柔軟な対応をロシアが示したと推定し、プーチン氏来日に合わせて、この具体的内容を探りたいと考えていた。
ところが、領土問題で土産を予定しないプーチン氏は、日本側の期待水準を引き下げないと(大きな失望を日本に与え)、訪日の成果が台無しになると考えた。そこで5月7日、ウシャコフ官房副長官の発言が飛び出す。(プーチン氏訪日を前にした)記者会見で「われわれは島を返す用意はできていない」と述べ日本側をけん制した。「3.5島返還論」については、(ロシアは)「ロシア側から不用意な発言を引き出そうとする狙いだ」と、警戒する姿勢を示した(道新090508)。


ビザなし訪問トラブルの真相は?

2009-05-22 20:47:21 | 日記
ビザなし訪問トラブルの真相はこうだ。(5月22日)望月喜市

☆前回に引き続いて、ビザなし訪問トラブル問題を取り上げる。今年初めてのビザなし訪問団(第2陣)は、5月22日に無事出発した。ロシア側の受入れ通知が直前だったため、訪問団から不満の声が聞こえた。だがロシア側にも言い分があった。

☆日本側の言い分:外務省の薮中三十二外務次官は、ロシアのベールイ駐日大使を外務省に呼び、「事務手続きの遅れは遺憾だ」と指摘し、ビザなし交流の早期実現を求めた。

☆ロシアの言い分:従来、名簿は出発前の2週間をメドに提出する取り決めだったが、5/15日に出発を予定していた第一陣の名簿が(ロシア側に)提出されたのは、出発4日前の5/11日だった。そのため、ロシア国内の手続きが間に合わず、第一陣の訪問は中止された(ロシアでは、外務省のほか内務省移民局、サハリン州など関係機関が多数にまたがる)。第一陣の中止に関し、ロシア外務省のネステレンコ報道局長は「名簿提出が遅かった」として、中止は日本側の責任とする声明を発表。ベールイ駐日大使は5/21日、記者団に「交流を妨げるつもりはない。今後は手続きの時間を取れるようにリストを(ロシア側に)いただきたい」と述べ、回答の遅れは技術的な問題と強調した(道新090522)

☆ ロシアマスコミの報道:イタルタス5月16日:5月半ばに日本市民が南千島(ユジノ クリール諸島)を訪問する件で、日本側が希望しているようになりそうにない。というのは、公式書類が現時点では遅れているからである。・・・ロシア外務省公式代表アンドレイ・ネステレンコによれば、今年の「ビザなし合同委員会の打ち合わせ会は、著しく遅れた。その理由は、ロシア代表の日本への入国ビザの発給が遅れ、作業開始が遅れたためで、事態の責任は日本側にある。その結果、2009年計画は、例年より2か月遅れ、4月末に準備が完了した。(意訳)
МОСКВА, 16 мая. /ИТАР-ТАСС/. О посещении Южных Курил японскими гражданами с середины мая, как того желает японская сторона, на данный момент речь идти не может из-за задержки оформления официальных документов. Об этом сообщил сегодня официальный представитель МИД РФ Андрей Нестеренко.・・・ По его словам, в нынешнем году "рабочая встреча по выработке проекта плана состоялась со значительным опозданием". "Причиной этого явились действия японской стороны, которая создавала затруднения для въезда в Японию российских представителей и их полноценного участия во встрече, затягивала начало этого мероприятия, - информировал Нестеренко. - В результате план на 2009 год был подготовлен только в конце апреля, то есть по существу с двухмесячным опозданием".

☆日本側の報道(道新5月22日):北方領土ビザなし交流の第二陣受け入れの回答が出発直前の21日までずれ込んだことについて、ロシア側は「日本側の名簿提出の遅れが原因」と主張する。入出国カードに代えて、訪問団員名簿に署名する新方式を採用したことで、双方が手続きに時間を要したもようだ。「全員の署名を集めるのに、思ったより時間がかかった。ロシア側も関係機関が多く、手続きの周知が遅れた」(日ロ外交筋の説明)。
☆ 団員の反応:ビザなし交流で本年度最初になる日本側訪問団の結団式が5/21日、根室の北方4島交流センターで行われた。団員は61人(元島民や返還運動関係者)で、22日午前、根室港を出発。23日に択捉島を訪れ、25日に根室港に帰る。根室市副市長の石垣雅敏氏は、結団式の挨拶で 「 (ロシア側の対応にふれ)またかという思い。根室市民は64年間、領土交渉に一喜一憂しながら、虚しさや虚脱感を持ってきた 」 と不満をあらわにした。

私見(KM):今度のトラブルについては、日ロ双方の外務当局の不手際が目につく。たとえば、訪問団の第一陣は土壇場で中止に追い込まれたのだが、こうした状況はもっと早めに訪問団に知らせるべきだった。たしかにロシア側が言うように、日本側の訪問団員名簿の提出が遅かったことが、その原因であったとしても、作業過程で、出発の日取りまでに出発に必要な書類が間に合わないとわかった段階で、いち早く日本側に通知できなかっただろうか。日本外務省も、団体名簿の提出期日合意が守られなかったことを、率直に認め、団員に事情を説明すべきであった。
 国レベルの不手際で、住民をきりきり舞いさせることは、両国が協力して何としても避けるべきだ。





プーチン訪日がもたらしたもの

2009-05-19 23:12:51 | 日記
プーチン訪日がもたらしたもの:
進展著しい経済協力と前進しなかった領土問題
望月喜市
Ⅰ.経済協力・人的交流分野での成果
プーチン首相は05年11月の訪日以来、3年半ぶりで5月11日から12日にかけ日本に滞在した。経済協力、人的交流の分野で大きな成果をあげ、次の訪問国、モンゴルに向け(ウラン鉱開発事業協力のため)飛び立った。期待された北方領土問題での進展は、ゼロにひとしく、7月のサミットでのメドベージェフ大統領との交渉に持ち越された。
 左表は、来日により日ロ政府間で署名された合意文書である(朝日090513)。
プーチン首相はエネルギー相など経済関係の4閣僚や企業関係者ら100人以上を同行させた。ハバロフスクからウラジオまでのガスパイプライン、LNG工場の建設への日本企業の参加を呼び掛けている。
 ロシアは台頭する中国を牽制する意味でも、日本の協力を取り付けたい。「日本は東アジアの活力を取り込むため、北のロシア、西のインドを東アジアに組み込むことが必要だ」( 田中均元外務審議官,N090613)極東のエネルギーを軸とした日ロ経済協力が大きく動き出す可能性が出てきた。世界的規模で資源競争が激しくなる中、日本企業にとっては調達先の多様化につながる。ロシア側は、エネルギーをテコに東アジアでの影響力を高める狙いをもつ。すでに稼働しているサハリン1、2に加え 「 サハリン3では約7億㌧の石油、約1兆5千億M3のガスの採取が可能になる。サハリン5,6,7など、多くの協力の可能性がある 」(プーチン:日経5/13日)(注KM:通常は4,5,6をあげるが、ここでは、4を落とし7を入れている。うっかりミスなのか、意味ある発言か不明)。
日本経団連はプーチン訪日に合わせて5月12日、都内で「日本ロシア経済フォーラム」を開催した。日ロ双方から多数の参加者があり、エネルギー、資源開発、インフラ整備、輸送機器製造、金融の5つのテーマで話し合いが行われた。フォーラムでは、サハリンからウラジオへのパイプラインの建設や、金融支援などを、(プーチン氏は)求めた。日日本側は、官民合同ミッション(団長:ロシアNIS貿易会西岡喬会長)を5月末に極東に派遣する予定だが、プーチン首相は、これへの協力を約束した。
☆ JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)は5月12日、イルクーツク石油会社と合弁企業「INK-Zapad」(出資比率JOGMEC:49%、イルクーツク石油:51%)を通じ、共同で探鉱調査事業を実施する契約に調印した。対象鉱区はイルクーツク市の北700kmに位置し、周囲にはヤラクチンスコエやヴぇルフネチオンスコエ油田など既発見油田が存在、建設中の太平洋パイプライン(ESPO)に隣接している。これより先、JOGMECは2008年6月のサミットの際、やはりイルクーツク石油と協力して、セべロ・モグデンスキー鉱区(タイシェットの東北東)の開発事業を立ち上げている(会報94号p.29参照)。
☆ 原子力協定の署名を受け、東芝は5/12日、ロシアのアトムエネルゴプロム(AEP)社の子会社でウラン濃縮役務等を提供するテクスナブエクスポート( TENEX )社と、原子燃料分野における協議に関する覚書を締結した。具体的には、濃縮ウランの合弁生産と備蓄施設の建設について検討する。世界最大の濃縮ウラン供給国であるロシアと組み、東芝は核燃料の一貫供給体制を作る。その他、三井物産はロスアトム社とシベリアのウラン鉱山の共同開発で交渉中である。
ロシアは30年までに26基の原発建設を目指している。「日本は設計から完工まで4年かかるが、ロシアは6年もかかる」(ホロプコフ・エネルギー安全保障センター長)というわけで、日本の技術導入に期待している。
日本は世界トップレベルの原発技術を持つ。原子炉の圧力容器など、原子力発電用部材を製造する日本製鋼所室蘭製作所は「ロシアへ製品を供給できるようになる可能性は大きい」(高田渉外・広報担当課長)。同製作所が原発関連製品を輸出したのは欧米や中国など約20カ国にのぼる。今回締結された、国家レベルの原子力協定は、対ロ進出の可能性を大きく伸ばすものだ。(D090513)
☆ 日ロ関税相互支援協定の署名は5/12日に行われ、同日発効した。関税協定によって、両関税局間で、覚せい剤、大麻、けん銃等の密輸に対して一層効果的な取り締まりが可能となるほか、日ロ貿易の円滑化が一層進んでいくことが期待される。
☆ 貿易保険での協力強化。日本貿易保険は5/12日、ロシア開発対外経済銀行との間で、両国の協力を強化する覚書に調印した。今後、両国がかかわるプロジェクトや両国企業の状況、法制度、一般経済状況ならびに、貿易保険の経験等に関する情報交換を行い、年次会合を持つことを確認した。
☆ 大型LNG船建造計画に協力 三菱重工、日本郵船、三井物産は4/27日、ロシアの多角化企業( United Industrial Corporation : OPK,モスクワ) とともに、大型LNGタンカー建造に向けたフィージビリテイ・スタデイ(FS)を行う合意書に調印した。OPK社参加の造船所の近代化計画を含む、新規LNGプロジェクトへの参画を目指す(ロシアNIS経済速報:090515)。
☆ 風力発電 ウラジオに設備 日本は官民共同でロシアの風力発電導入を支援する。ウラジオに30-40 MWクラスの風力発電所を総事業費約百億円で建設する。2010年のAPEC首脳会議に合わせ完成させる。日本側からはJパワー(電源開発)、三井物産、ロシア側からは国営ルスギドロ電力会社が参加し、企業連合を作り事業を進める。建設費の一部を国際協力銀行(JBIC)が融資する、ロシア政府はAPEC開催に向けウラジオの大規模開発を計画し、総額約2000億㍔(約6100億円)を投入し、空港や道路を整備する予定だ(N090512)。
日ロ人事交流
 ☆ 日ロ知事会議再開で合意 4/12日東京都内で日ロ知事意見交換会が開催された。地域間交流の進展に向け、0968から97年の第14回以降中断していた「日ロ知事会議」を2010年10月秋にモスクワで再開する共同声明が採択された(ロシア側の提案)。高橋はるみ道知事は、「ロシアの首長が各自治体で、北方領土問題解決に向けた環境整備に取り組むことを強く期待する」と発言。モスクワ市のルシコフ市長は「日ロ双方が歩み寄らない限り、領土問題は決して解決しない」と述べ、4島返還論の日本側の妥協を求めた。交換会には麻生渡全国知事会会長(福岡県)、東京、秋田、岩手、埼玉、北海道の知事ら8人、ロシア側からは、ルシコフ(モスクワ市)、ホロシャビン(サハリン州)、ダリキン(沿海地方)知事ら8人が出席した(A&D0905130
☆学術交流の促進で一致 4/12日、日ロの有力大学の学長らを集めた「21世紀 日ロ学長国際フォーラム」が開催された。東京大学やモスクワ国立大学の学長ら40人以上が参加、両国の学術交流を促進する必要があるとの認識で一致した。「日ロには(両国問題に熟知した)優秀な専門家たちが出てきており、日ロ関係の強化に貢献している。(今後も)学術分野などでの関係強化に努めてほしい」とのプーチン首相メーセージが会議に寄せられた(N090513)。

ビザなし訪問第一陣の突然の中止について

2009-05-16 21:25:29 | 日記
ビザなし渡航第1陣の中止問題によせて ( 望月喜市 090516 )
この問題の経過:今年1月27日、チャーター船(ロサ・ルゴサ号)が、人道支援の医療関係機材を国後,択捉,色丹の3島に運ぶため根室を出港したが、先方に上陸するに際し、入出国カードの提出を要求されたため、機材の引渡しを中止し帰港したという事案が発生した。以来3カ月に及ぶ日ロの交渉の結果4月27日、日ロ両国政府は解決案について最終合意に達した(道新090428)。
合意の内容:外務省は発表した解決策は次の通りである。従来から日本側が作成・提出していた「訪問団員リスト」に、訪問する日本人全員が署名し写しを日本側が所持。ロ側はこのリストなどをもとに、独自に出入国カードを作成する。「出入国カードに日本側が一切記入しないことは、ロシアが相当譲歩したということだ」と日本外務省は判断し、ゴーサインを出した。「団員リスト」に基づき、ロシア側が独自に出入国カードを作成。日本人の入域時に出国用の半券を渡し、4島滞在中個々人が所持、出域時にそれを無署名のままロシア側に渡すことで、ロシア側は通常の出入国カードと同様の手順で日本人の出入りを管理できると判断した。日本側はこの半券受け渡しに関し「無用な混乱を避けるため関知しない」とし、ロシア側は出入国カード自体に署名がないという弱点を抱えるが、これは無視する。いわば双方が「見て見ぬふり」で成り立つ方式で、問題再燃の火種は残された。 
突然の中止通告:5月15日、今年のビザなし訪問第一陣が出発することになり、高橋北海道知事をはじめ、小泉敏夫団長ら道議会や元島民、4島返還運動の関係者ら63人が、15日朝、根室港を出発して国後、色丹両島を訪問、住民との対話集会や家庭訪問などを予定していいた。しかし13日午後になって、ロシア側から「関係省庁の調整の内部手続きに時間がかっかっている」と中止を連絡してきた。再開は来週の第二陣以降にずれ込む。参加予定だった高橋知事は中止に不快感を示した上で、外務省に「誠に残念。2回目以降が予定通り実施できるよう、しっかり調整していただくことを要望する」とのコメントを発表した(日経090514その他)。
私見:
☆ この問題は、日本人のロシアに対する信頼を大きく傷つけたもので、誠に残念なことだ。一方的な中止通告で済む問題ではない。ロシア側は日本に対し詳しい説明をしたうえで、日本に迷惑をかけたことに対し誠意ある対応を示して欲しい。
日本人の対ロ感情は、あまり好ましいものではない。2008年(平成20年)10月に実施した全国20歳以上の3000人(回収率61%)を対象とした内閣府の世論調査では、ロシアに対し親しみを「感じない」が83.4%で、「感じる」13.0%をはるかに上回っていた。こうした国民感情を逆なでするような今回の措置は誠に遺憾なことで、日本外務省も、ロシアに対し正すべきことは毅然として正して欲しい。
事態を早く打開し、交流を再構築し、両国関係レベルでも住民レベルでも信頼関係をますます強固なものにするため、日ロ双方の関係機関の努力を期待したい。それが、島問題の解決につながるのだ。
☆ 上記に示した出入国カード問題の解決策には、渡された半券をうっかり失くした場合個人の出域をどう処理するかなどといった紛争の種をかかえている。これは「北方領土海域」での安全操業協定と同じ弱点(日本漁船の操業違反はないとの前提に立ち、裁判権がどちらが持つかなどを決めていない)を持っている。カード問題が発生してからの日本外務省の取組は、いささかこだわりすぎの感を私はもっている。当時、カード記入は単なる手続き問題で、「カードを提出したからと言って,(北方領土を日本固有の領土とする)日本の立場が変わったとはロシアは受け止めない。」(ロシア外務省ガルージン・アジア太平洋局長,前駐日公使,道新090130)とロシア側は述べていた。これだけで不安なら、この言辞をふまえた合意書を両国政府が交換することも可能であった筈だ。これまでも,日本外務省は,地域住民のために柔軟な対応をしてきた。南樺太のロシア領有を事実上みとめ,4島海域での安全操業協定を結び,貝殻島コンブ漁の実現を図ってきた。こうした柔軟対応の伝統を、入出国カード問題に適用可能ではなかったか。




ソベルベンニク

2009-05-09 16:31:36 | 日記
09年5月9日:ニュース報道に一言:
☆ ニュース報道に一言:新型インフルエンザに対するWHO ( 世界保健機構 )を中心とする世界的感染防止体制は、まさに地球時代を思わせる共同行動だ。日本政府の対応も頼もしい。それにしても、人々の移動はこんなにも地球的規模に広がっているのかと驚嘆させられる。つい最近、香港で検疫のため、約1週間にわたるホテル滞留から解放された人々の喜びのシーンが、TV上で繰り返し流された。繰り返しももちろん結構だが、報道フィルムを単純に放映するだけでなく、時間とともに明らかになる詳細で、視聴者の誰もが知りたいと思われるニュースを付け加える努力を報道側にお願いしたい。たとえば、滞留を余儀なくされた人々のホテル代は、個人が負担したのか、行政なのか、その他の機関なのかなどである。これからも降りかかるかも知れない災難について、自己の責任とは無関係な事象で個人が負担を強いられる理不尽なことは、極力避けたいものだ。
☆ 陪審員制度について、国民に周知させるための取組が行われるようになった。報道によれば、陪審員に選出された人には「呼出状」が配達されるようだが、せめて「要請状」と書いてもらえないものか。「呼出状」ではなにか悪いことして呼び出されるような感じをぬぐいきれず、それを受け取った人はギョットすると思う。いかにもお上の用語で、官尊民卑の伝統がここにも生きているようだ。
☆ 地震情報についていえば、NHKは公共放送として的確にいち早く公範囲に地震情報を報道することは当然だが、その繰り返しがいかにも長すぎる。そのために、視聴者が楽しみにしているドラマやスポーツ放送などがしばしば中断もしくは中止となる。一度全国的に報道した後は、関係の深い地域に限って津波や余震の心配の有無を伝えるように改善してほしいものだ。
☆ 新聞への投稿欄について改善を要請したい。投稿ルールとして、採否の問い合わせには応じない、他紙への2重投稿は禁止するというのが、各紙の共通ルールだが、投稿側にしてみれば、投稿が不採用なら、他紙もしくは他への投稿にその意見を利用したい、と考えるのは当然で、これは投稿者の権利でもある。そこで両者の立場を尊重する解決策として、「新聞社側は10日以内に採否を決定し、投稿者に電話で採択を通知する。投稿者の方は、10日を経過しても採択の通知がなければ、その原稿を自由に利用する(他社に投稿するなど)権利があるものとする」、というルールにしたらどうか。住民は自己の主張をみんなに知ってもらう手段として、新聞という媒体を通すしかほかにない場合が多い。圧倒的に強いアピール力を新聞はもっている。新聞投稿に上述のルールを追加すれば、住民のアピールの場を一層広げることができるのだ。