何年か前、ジュリアード音楽院を卒業されたバイオリニストが来店されたとき、ちょうどお店では(指揮者の名は忘れてしまったのですが)、ニューヨークフィルのCDをかけておりました。
突然彼女が「私、この指揮者で演奏をしたことがあるの」と言ったのです。
さらに、「この指揮者の指揮で演奏をすると自分のバイオリンの音色が変わるのよ。これは演奏する側でしか味わえない醍醐味ね」というのです。
その話は大変印象深く残っておりました。
そしてつい先日、聴衆の側からそれを体験したのです。
ある大学の定期演奏会でした。
指揮者が前半と後半で代わりました。
この大学の演奏会は人気が高く、開場前から長蛇の列でチケットを買えないことも常になっています。
開演と同時に、当日の予定指揮者の体調が芳しくなく、前半だけの指揮となり、後半は別の者に代るとのアナウンスがありました。
前半の指揮者はまだ病み上がりのようで、車椅子での登場でした。
コンサートはいつも初めに、東日本大震災で亡くなった方のための鎮魂の曲が演奏されます。
演奏が始まり、澄んだ、それでいてピーンと張り詰めた音が会場を包みました。
毎回聴いているこの曲はこんなに美しいメロディーだったかしら、と今まで感じなかった感慨を覚えたのです。
演奏終了後、軽く黙とうを奉げプログラムに入りました。
いつにない優れた音が会場に流れ、全身が耳になっていったように感じました。
後半はいつもの指揮者が代わって指揮をなさったのですが、ああ、これがいつもの音だったわと確認したのです。
と同時に、指揮者によってこれほどに音が違ってくるものかと驚かされた体験でした。
改めて先のバイオリニストの話を思い出し、聴衆でもそれを楽しめる喜びを知りました。
今年一年、皆様にとってどのような年になったでしょう。
12月29日、2階のスタジオ1951でコンサートがございました。
ある音楽教室の先生たちによる演奏会です。
リードギター、ベースギター、ドラム、サックスの四人による演奏でした。
リードギターはボーカルも兼ねておりました。
歌が入る時に聞こえずらく、マイクが低いのではないかと気になったのですが、ある曲に入り、ボーカルの声が楽器の一つとして調和した時には驚きました。
人間の声は最も優れた楽器、といった方がおりましたが、本当に楽器として聞くと何とも言えない魅力的な音なのです。
今年の一年、いえこの年末になりますが、音に驚いた一年でした。
では皆様、良いお年をお迎えくださいませ。
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